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太陽光発電設備のサーキュラーエコノミーに向けた取り組み(1/3)

  • *本稿は、『エネルギー・資源』Vol.43 No.4(一般社団法人エネルギー・資源学会、2022年7月発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ
サステナビリティコンサルティング第2部 小林 元
サステナビリティコンサルティング第1部 河本 桂一

1. はじめに

2021年10月に我が国が閣議決定した「地球温暖化対策計画」及び「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」では、2030年には2013年比でGHG排出量を46%削減した約7億6000万t-CO2eq、2050年にはネットゼロにするとしており*1,*2、この目標達成に向けてエネルギー起源のCO2排出削減につながる再生可能エネルギーの導入が進んでいる。再生可能エネルギーの中でも太陽光発電はエネルギー源が太陽光であるため、基本的に設置する場所や地域に制限がなく、屋根などの未利用空間に設置できるために新たな用地を用意する必要がない*3。この特徴を生かし、1990年代後半から太陽光発電設備は普及し始めたが、2012年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)が導入されてからはその普及が加速化し、2021年9月末時点の導入量は63GW*4に達している。

また、2021年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、今後も電源構成に占める再生可能エネルギー導入拡大の努力を続けることが示されており、太陽光発電は2030年には103.5~117.6GWの導入量を目指すとしている。これは、2017年に策定された第5次エネルギー基本計画における2030年導入量目標の64GWから約2倍と、大幅な上積みとなっている*5

このように、引き続き増加が予想される太陽光発電設備であるが、これを構成する機器はいずれ故障や寿命を迎えるなど様々な理由で使用済み品として排出されることになる。第6次エネルギー基本計画策定前の推計になるが、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が太陽電池モジュールの排出量を図1のとおり推計している。この推計によれば、FIT制度開始当初に導入された太陽光発電設備がFIT買取期間終了を迎える2035~37年頃に排出量のピークを迎え、2036年には約17~28万t排出される*6としている。この排出量は2015年度の産業廃棄物の最終処分量の1.7~2.7%に相当する*6としている。また、FIT制度の導入に伴い2012年に導入された太陽電池モジュールがそのまま埋め立てられた場合、2014年の産業廃棄物最終処分量の7.7%に相当し最終処分場の残余容量に悪影響を与えかねないとの指摘もある*7

太陽光発電設備を構成する主な機器は、太陽電池モジュールとその架台、接続箱、パワーコンディショナー等であるが、これらの機器の大部分を占めるのは太陽電池モジュールと架台である。したがって、使用済みの太陽光発電設備の最終処分量を減らすためには、太陽電池モジュールと架台のリユースやリサイクルが重要となる。架台は鋼材やステンレス、アルミニウムなどで作られておりリサイクルに大きな問題はないが、太陽電池モジュールは数十年にわたって屋外で風雨に晒されるため高い耐候性が求められリサイクルを難しくしている。

これらの背景をふまえ、本稿では太陽電池モジュールのリサイクルを中心に、太陽光発電設備の最終処分量を減らすためのサーキュラーエコノミーの促進に向けた取り組みを紹介する。


図1 太陽電池モジュールの排出量推計結果*6
図1

2. 太陽電池モジュールの構造に起因するリサイクルの阻害要因

太陽電池モジュールリサイクルの阻害要因はいくつかあるが、主な阻害要因としてその構造に起因する部分について述べる。端的に言えば、異なる素材の構成部材が強く接着されていることであると考えている。太陽電池市場の9割を占めていると言われている結晶シリコン系太陽用電池モジュール*8を例に説明する。まず、太陽電池モジュールの断面と構成部材は図2に示すように、金属シリコンの発電セルを銅のインターコネクタで繋いだものを充填材で保護し、表面のカバーガラスと裏面のバックシートでラミネートする構造になっている。充填材には発電セルをカバーガラスとバックシートに接着させるための接着性に加え、耐候性や張強度、透明性、柔軟性が求められ、これらに優れているエチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)が使われるのが一般的である。また、バックシートは数十年にわたって直接屋外に曝露されるため、耐候性、水蒸気バリア性、電気絶縁性等が長期にわたって保持される必要があり、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)をはじめ、ポリエチレンテレフタラート樹脂(PET)、オレフィン樹脂などが使われている。水蒸気バリア性を増すために金属薄膜が積層されている場合もある。このように、太陽電池モジュールはラミネートされたものの周囲をシール材とフレームで固定し防水しており、屋外の過酷な環境で数十年にわたって発電性能と安全性を維持できるように作られているが、逆にそのような設計が、素材を高純度で分離回収されることが求められるリサイクルを難しくしている要因にもなっている。


図2 結晶シリコン系太陽電池モジュールの断面図と構成部材
図2

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2021年9月
Task12:太陽光発電の持続可能性
『Journal of Japan Solar Energy Society』Vol.47 No.4(2021年7月31日発行)
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