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太陽光発電設備のサーキュラーエコノミーに向けた取り組み(2/3)

  • *本稿は、『エネルギー・資源』Vol.43 No.4(一般社団法人エネルギー・資源学会、2022年7月発行)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ
サステナビリティコンサルティング第2部 小林 元
サステナビリティコンサルティング第1部 河本 桂一

3. リサイクルをはじめとするサーキュラーエコノミーの促進に向けた動向

3.1 太陽電池モジュールの分解技術

NEDO等においては、太陽電池モジュールをリサイクルするための分解技術の開発が実施されており、その主な技術としてはアルミフレームやジャンクションボックスを太陽電池モジュールから分離する装置、発電セルとカバーガラスを分離する装置などの技術開発がある。さらに後者については、機械的方式や熱処理方式など幾つかの方式が開発されている。機械的方式には、太陽電池モジュールをロール式破砕機に通してガラスを破砕して回収する方法*9や、カバーガラスを割らずに300℃に加熱したナイフで充填材を溶融してカバーガラスを分離する方法*10(図3)がある。また熱処理方式は、充填材(EVA)を熱分解してカバーガラスと発電セル等を分離して回収する方法で*12、その一部では充填材(EVA)分解ガスを燃焼させることで、熱分解の熱源としてエネルギーリカバリーすることも行われている*12


図3 ホットナイフ分離装置 工程イメージ*11
図3

3.2 ポストコンシューマーサプライチェーンに関する取り組み

太陽電池モジュールのリサイクル技術開発が始まった当初は、前項で述べたような分解技術を始めとした個別技術の開発が中心であった。近年はこれに加え、ポストコンシューマーのサプライチェーンを意識した取り組みも始まっている。そのうちの一つが太陽光発電(PV)保守・リサイクル推進協議会(事務局:公益財団法人福岡県リサイクル総合研究事業化センター)が運営するPVデジタルプラットフォーム(PVPF)*13である。この協議会は「効率良い廃棄パネルスマート回収スキームの構築と実証試験による回収スキームの検証」と「発電事業者に義務付けされた点検・保守の周知・促進、及びその他PVパネルの3R推進」を目的としている*14。PVPFはこれを支援するもので、「スマート回収支援システム」と「発電量評価支援システム」で構成され、さらに「スマート回収支援システム」は、「一時保管された廃棄モジュールのスマート回収機能」と、「大量廃棄情報収集&処理連携機能(災害/廃棄等)」からなっている*15(図4)。


図4 PVデジタルプラットフォーム(PVPF)の構成*15
図4


前者の機能は、メンテナンス事業者が太陽光発電設備の保守の際に交換した太陽電池モジュールを対象としたものである。まずメンテナンス事業者が持ち帰って保管している太陽電池モジュールの情報がPVPFの「スマート回収支援システム」に蓄積される。そして、蓄積されている太陽電池モジュールが一定量になると収集運搬事業者によって巡回回収(スマート回収)されるもので、散発的に発生する少量の廃棄モジュールを効率的に回収して収集運搬コストの削減を図っている(図5)。


図5 スマート回収支援システム*13
図5


別の取り組みとして、一般社団法人秋田県資源技術開発機構が2021年に設立したPV CYCLE Japan(PVCJ)がある。この組織は、同機構が、欧州で使用済み太陽電池モジュールのリサイクルを行っているPV CYCLEと提携したもので、活動の目的といて「健全なリユースの実施(必要な検査と二次市場形成)」「最終処分量の最小化と資源回収量の最大化」「大型発電所から戸建てまで、同様なサービスの提供」「全てのタイプのPVの有害物質の適正処理」を挙げており、これらを達成することにより、排出者が安心して処理を委託できるネットワークの形成を目指している(図6)*16

また、PVCJは幹事会社であるイー・アンド・イー ソリューションズ株式会社のもとで環境省委託事業「脱炭素型金属リサイクルシステムの早期社会実装化に向けた実証事業」(2020~2021年度)に参画している。この実証事業は、埼玉県内の住宅など小規模な太陽光発電設備から発生する使用済み太陽電池モジュールを対象としており、散発的に発生する少量の太陽電池モジュールを県内4か所に設けた回収拠点に集積して収集運搬の実証を行い、さらに、収集した太陽電池モジュールのリユース製品としての活用可能性を評価している。

ここで紹介した二つの取り組みはいずれも散発的に発生する少量の使用済み太陽電池モジュールを効率的に回収するという視点が含まれており、この点がポストコンシューマーサプライチェーンを構築する上での大事な視点となっていることが分かる。


図6 PV CYCLE Japan(PVCJ)概略図*16
図6

3.3 東京都の取り組み*17

次に、東京都の「太陽光パネルの高度循環に向けた実証事業」(東京都実証事業)の取り組みを紹介する。この実証事業は、東京都の大学研究者による事業提案制度において早稲田大学所教授が東京大学村上准教授、醍醐准教授、菊池准教授とともに提案し、採択・実施されたものである。東京都の太陽光発電設備の導入容量に係る住宅用の比率は75%と全国の20%*4より算出と比べて非常に多く、またその排出形態は少量が散発的となることが予想されることから、問題意識は前節の取り組みと共通している。この取り組みの特徴はその対象範囲がさらに広い点で、使用済みとなった太陽電池モジュールの取り外しからリサイクルやリユースなどの循環利用までを対象とし、さらにそのプロセスを対象にライフサイクルアセスメント(LCA)も実施している(図7)。

以下に、この実証事業の詳細な内容を紹介する。


図7 東京都実証事業の対象範囲*17

図7


(1)使用済み住宅用太陽電池モジュールの取り外し

東京都実証事業では、3件の住宅に設置された太陽電池モジュールの取り外し工事の作業を記録して分析している。この結果、工数およびコストの変動要因として足場の有無、屋根へのアプローチ、架台支持金具撤去の有無が挙げられた。

(2)使用済み太陽電池モジュールの収集運搬

取り外した太陽電池モジュールの収集運搬については、まず、都内における使用済みとなるモジュールの発生件数を機械的な寿命に加え消費者意図等も考慮して地域別、時系列に予測*18している。そして、このような予測にもとづき、効率的な収集運搬方法を検討している。この結果、少量の太陽電池モジュールを処理施設に逐次輸送する方法よりも、集積してから輸送する、あるいは、巡回回収する方法が効率的*17,*19で環境負荷も低減される*17ことが示された。また、これによって輸送コストが約4~9割削減できる可能性も報告*20されている。

(3)太陽電池モジュールリユースのための診断

サーキュラーエコノミーの促進のためには取り外された太陽電池モジュールはリユースに回ることが望まれるが、そのためには回収した太陽電池モジュールについて発電性能や安全性を確認するための性能診断が必要になる。また、現状では廃棄物処理法にもとづく判断が都道府県によって異なる可能性があるものの一旦廃棄物(リサイクル向けを含む)として扱ったものをリユースすることは困難であるため、太陽電池モジュールを取り外した現場でリユースの可否を判断せざるを得ないのが現状である*21。取り外した太陽電池モジュールを全てリユース製品として買い取れば設備の整った施設で性能を診断することも可能であるが、廃棄物の可能性があるものを買い取るリスクを事業者が負うのは難しい*21。このような課題を踏まえ、東京都実証事業では現在の技術で住宅の屋根に設置された状態での太陽電池モジュールの性能診断が可能であることを実証する一方、簡易な性能診断手法の開発を課題に挙げている。また、住宅の場合、太陽電池モジュールの仕様が確認できず診断の精度が下がってしまう事例も多数確認された。

(4)太陽電池モジュールのリユース

さらに、前(3)項の太陽電池モジュールの性能診断に関する実証試験の結果をもとに、取り外し現場での診断を前提とした試験項目とそのリユース基準を検討しており、試験項目として、絶縁不良(直流地絡)測定、開放電圧測定、パネル抵抗値測定、I-V 特性曲線測定、外観検査を提案している。但し現状、リユースが実現するのは、既に買い手が決まっていて買い手側の要求に合致した使用済み太陽電池モジュールを調達する場合に限られている*21ため、市場が形成されているとは言い難い。

サーキュラーエコノミーを促進していくためにはリユース製品をはじめリサイクル製品などの循環利用された製品の市場が形成される必要がある。筆者は、そのためには循環利用された製品がまずは市場で認知されなければならないと考えている。例えば、行政のグリーン購入対象物品に太陽電池モジュールのリユース製品やリサイクル製品を含めるなど、公共施設でこれらの製品を積極的に活用して製品の認知度を高めることが考えられる。そして、認知度が高まることで需要が喚起され、最終的には行政に頼らない事業として成り立つビジネスモデルが構築される必要がある。

(5)太陽電池モジュールのリビルト

東京都実証事業では、使用済み太陽電池モジュールからホットナイフ分離装置で分離したカバーガラスを利用して4種類のリビルト太陽電池モジュールを製作、3,000時間の高温高湿試験を実施している。その結果、一部の太陽電池モジュールの外観に気泡がみられたものの性能上は問題ないことが確認されている。

(6)太陽電池モジュールのリサイクル

リユースやリビルトされない太陽電池モジュールはリサイクルされることになる。東京都実証事業ではホットナイフ分離装置使用の有無や、破砕・選別手法、新規電気パルス法を組み合わせることで発電セルに含まれる銀や銅を効率的に分離濃縮する方法について検討している。その結果、最初にホットナイフ分離装置で発電セルからカバーガラスを分離することで、破砕物等にガラスが混入せず効率的に金属を回収できることが示された。また、太陽電池モジュールからフレームを回収した後、産業廃棄物として埋立処理した場合(Case1)、ホットナイフ分離装置でカバーガラスを回収しセルシートを粉砕処理により金属を回収した場合(Case2)、ホットナイフ分離装置でカバーガラスを回収しセルシートからは新規電気パルス法で金属を回収した場合(Case3)の3つのシナリオについて、LCA分析を行っている。その結果、ライフサイクルGHGは埋立処理するCase1よりもCase2とCase3の方が12~13%削減可能との示唆が得られている。

一方、太陽電池モジュールの重量の約7割を占めるカバーガラスについては、より付加価値の高い製品へのリサイクルの可能性を検討している。その一環としてホットナイフ分離装置で回収したカバーガラスを利用してグラスウールを試作(図8)し、既存の製品と同等の断熱性能であることが確認されている。


図8 カバーガラスから試作したグラスウール*17
図8

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