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COP26の総括と今後の気候変動政策の動向

  • *本稿は、『みずほグローバルニュース』Vol.117(みずほ銀行、2022年3月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第1部 コンサルタント 金池 綾夏

はじめに

2021年10月31日から11月13日にかけて、英国グラスゴーでCOP26が開催された。COPとは、年1回開かれる国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(Conference of Parties)で、今回が26回目となる。2020年は新型コロナウイルスの影響により開催が見送られたことから2年ぶりの開催となった。COP26には、195の締約国・地域、国連機関、NGOなど2.5万人以上が参加し、ネットゼロの実現に向けた合意の取りまとめやパリ協定ルールブックに関する交渉が行われた。本稿では、COP26の主な決定事項を紹介しつつ、今後の気候変動政策の動向を見ていきたい。

COP26に向けた機運の高まりと議長国英国が掲げるCOP26の目標

2021年8月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は第6次評価報告書(AR6)第1作業部会報告書(自然科学的根拠)*1を発表した。IPCCの報告書は、UNFCCCをはじめとする国際交渉や国内政策のための基礎情報として世界中の政策決定者に引用されている。WG1報告書では、世界の平均気温は産業革命以前と比べて既に1.1℃上昇しており、地球温暖化は人間活動に起因すると初めて断定した。また、気温上昇を1.5℃に抑えるために残されたカーボンバジェットは約4000億トン(67%の確率)であるとした。近年のCO2排出量(2019年に世界全体で約380億トン*2)を踏まえれば、近い将来カーボンバジェットが尽きることが示唆される。さらに、今後数十年のうちに大幅に排出削減しなければ、21世紀中に気温は1.5℃および2℃を超えるとし、温室効果ガスの大幅削減の必要性を示した。

こうした状況を受け、COP26議長国の英国は、世界の気温上昇を1.5℃に抑えることをめざすこと、そのために今世紀半ばまでのネットゼロ達成を確実なものとすることへの必要性を示したうえで、①2030年までの温室効果ガス大幅削減と今世紀半ばまでのネットゼロ達成に向けた計画、②石炭火力発電の削減・電気自動車への移行等に関する合意を含む具体的な行動、③途上国への年間1000億米ドルの気候ファイナンス、④今後10年間で野心を更に高めるための交渉、の4つをCOP26の中心的議題*3として掲げた。また、パリ協定を運用するための詳細なルールを定めたパリ協定ルールブック(以下、「ルールブック」)を完成させることを優先事項と位置付けた。ルールブックは、2018年のCOP24での交渉完結がめざされていたが、パリ協定第6条市場メカニズムの交渉難航などにより完成が先送りとなっていたもので、早期の合意が望まれていた。

COP26の主な成果

COP26は化石燃料や途上国への気候ファイナンスに関する議論において交渉が難航したため会期が1日延長されたが、成果文書となるグラスゴー気候合意(Glasgow Climate Pact)*4の採択とルールブックの完成をもって11月13日に閉幕した。COP26の会期中には様々なイベントが開催された(図表1参照)。首脳級会合の世界リーダーズサミットでは岸田首相をはじめとする世界各国のリーダーが演説を行ったほか、すべての締約国の合意を必要としない自主的な取り組みとして、気候変動対策に関する様々な声明や宣言が発表された。

以下では、COP26の成果のうち、議長国の英国の目標にも掲げられていた排出削減目標、化石燃料、およびパリ協定第6条の市場メカニズムの3つの合意について整理する。


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図表1 COP26会期中(2021年10月31日~11月13日)の主なイベント
10月31日
  • COP26開幕
11月2日
  • 岸田首相が世界リーダーズサミットで演説
11月2日
  • グローバルメタン誓約を正式に発表(100カ国以上が2030年までにメタン排出を2020年比で30%削減するとコミット)
11月3日
  • ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)が声明を発表(今後30年間で100兆米ドルの脱炭素資金を提供するとコミット
    ※2021年11月時点で45カ国における450以上の金融機関がGFANZに加盟)
11月4日
  • 石炭火力発電のフェーズアウトとクリーン電力への移行に関する声明を発表(46カ国等が主要経済国では2030年代、世界全体では2040年代に排出削減対策なしの石炭火力発電から移行するとコミット)
11月11日
  • 石油・天然ガスに関するアライアンス(Beyond Oil & Gas Alliance)が発足(11カ国がパリ協定の目標に整合するよう石油・天然ガスの生産・探査の終了日を設定するとコミット)
11月11日
  • 自動車・小型商用車の100%ゼロエミッション車への移行に関する宣言を発表(39カ国、主要自動車メーカー等が主要市場では2035年までに、世界全体では2040年までにすべての新車をゼロエミッション車とするとコミット)
11月12日
  • 交渉難航により会期の1日延長が決定
11月13日
  • グラスゴー気候合意採択・パリ協定ルールブック完成、COP26閉幕

(出所)英国政府COP26公式ウェブサイト等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(1)排出削減目標の引き上げに関する合意

英国がめざしたように、COP26では1.5℃目標の達成に向けて排出削減の取り組みを進めることが確認され、グラスゴー気候合意では、国連文書として初めて「今世紀半ばまでのネットゼロ」達成をめざすことが明記された。しかし、COP26会期中に、現在の各国のNDC(国が決定する貢献)は世界全体の排出量を2030年に2010年比で13.7%増加させる水準との報告*5が国連から発表されたこともあり、合意文書で2022年末までに2030年目標を再検討し、必要な場合にはパリ協定の目標に整合するよう目標を引き上げることを各締約国に促した。

また、各締約国に対し国連への5年ごとの提出を求めているNDCについて、2025年には2035年の目標を、2030年には2040年の目標を、その後も5年ごとに10年後の目標の提出を推奨することがルールブックに盛り込まれた。

(2)化石燃料からの脱却に関する合意

グラスゴー気候合意では、排出削減対策なしの石炭火力発電の段階的削減(フェーズダウン)およびクリーンエネルギー源への投資を阻害する非効率な化石燃料補助金の段階的廃止(フェーズアウト)に向けた努力を加速させることをすべての締約国に呼びかける文言が、国連文書として初めて盛り込まれた。

また、ドイツ・フランス・カナダなどの46カ国および電力会社・協会などの有志連合は、石炭火力発電のフェーズアウトとクリーン電力への移行に関する共同声明(Global Coal to Clean Power Transition Statement)を発表した。この声明には、主要経済国は2030年代(または以降可能な限り早期)に、世界全体は2040年代(または以降可能な限り早期)に、排出削減対策なしの石炭火力発電からの移行を達成すること、削減対策なしの新規石炭火力発電プロジェクトとその直接的な国際支援を廃止することなどが盛り込まれている。さらに、アイルランドやフランスなど11カ国は、1.5℃目標の達成には石炭に加え石油・天然ガスの大幅削減も必要であるとして、石油や天然ガスの生産のフェーズアウトをめざすアライアンス(Beyond Oil & Gas Alliance)を設立した。なお、日本はこれらの声明やアライアンスには参加していない。

(3)パリ協定第6条の市場メカニズムに関する合意

パリ協定第6条は排出削減量を国際的に取引する市場メカニズムを規定している。COP26では、このうちの協力的アプローチ(6条2項)と京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)の後継にあたる国連管理型のメカニズム(6条4項)が交渉の焦点となっていた。

協力的アプローチとは、二国間で協力関係を結び、提携先の諸外国で実施したプロジェクトによってもたらされる排出量の削減や吸収(2021年以降が対象)に対して発行されるクレジット(Internationally Transferred Mitigation Outcomes:ITMOs)を、各国のNDC達成や企業の自主的な排出削減目標達成などに活用することを認める仕組みで、日本のJCMはこれに該当する。日本政府は地球温暖化対策計画(2021年10月閣議決定)において2030年度までの累積で約1億トンのCO2の削減・吸収を行い、NDCに活用するとしている。協力的アプローチのガイダンスが採択されたことを受け、環境省も今後パートナー国を増やしつつ、市場メカニズムを通した排出削減の取り組みを拡大する考えである*6

CDMに代わる新たな国連管理型のメカニズム(ポストCDM)については、パリ協定の目標に整合的な活動のみを対象とし、ベースライン(プロジェクトを実施しなかった場合に排出されていたと考えられる排出量)は可能な限り最も野心的な水準に設定するなど、野心の向上に寄与する規則が設けられることになった。方法論の開発を含む本メカニズムの規則詳細は今後数年かけて検討される予定である。また、2020年を期限とする京都議定書のもとで実施されていたCDMプロジェクトについては、一定の条件を満たした場合には2021年以降もクレジットの発行が認められることとなった。議論の争点となっていた既に発行済みのCDMクレジット(CER)の扱いに関しては、2013年以降に登録されたプロジェクト由来のものであれば、最初のNDC(2030年目標)に限り目標達成に活用できることで決着した。

なお、NDC達成のためにクレジットを活用する場合、両国での二重計上を防止するため、使用するクレジット量に相当する排出削減量をプロジェクトが実施される国(ホスト国)の排出量に上乗せする相当調整(corresponding adjustment)が適用される。COP26では、これまでの議論で適用されることが決定していた協力的アプローチに加え、ポストCDMについても相当調整を適用することが合意された(ただしCERを活用する場合については相当調整の適用はなし)。この方法論の詳細は2022年11月のCOP27で決定される見込みである。

COP26を踏まえた課題

以上のようにCOP26では様々な合意や決定がなされたが、いくつか課題として指摘すべき点がある。まず、目標引き上げや合意や自主的な声明・宣言の実効性である。今後の大幅な排出削減に向けては、中国・インドなどの排出大国から高い野心を引き出せるかが鍵となるが、グラスゴー気候合意における2030年目標の引き上げに関する合意はあくまでも「推奨」という弱い表現にとどまっている。実際に排出削減目標を引き上げるかは各国の判断に委ねられ、1.5℃目標に整合する2030年目標が掲げられる保証はない。会期中に発表された自主的な声明や宣言についても、必ずしも国際的に影響力のある国が加盟しているわけではないことから、その実効性に疑問が残る。例えば石炭関連の声明では、日本を含む米国、中国、インド、豪州などの主要な石炭消費国が、電気自動車関連の宣言では日本、米国、ドイツ、中国などの主要な自動車生産国が賛同を表明していない。

もう一つの課題は気候変動対策の資金不足である。2009年のCOP15において、先進国は途上国に2020年までに官民で年間1000億米ドルの気候ファイナンスを提供すると合意している。しかし、OECDの報告*7によりこの目標は未達となる可能性が高いことが判明した。その結果、途上国の先進国に対する不信感が高まり、資金援助についての結論が出なかったことが、会期延長につながったとされている。グラスゴー気候合意では、先進国に対し、目標とされる年間1000億米ドルの早期の達成と2025年までの支援継続を強く求めている。世界全体が足並みをそろえて1.5℃目標に向けた取り組みを進めることができるよう、先進国は支援を拡大する必要があるだろう。

おわりに

1.5℃目標目標や石炭火力発電段階的削減などの合意やパリ協定のルールブックの完成など、COP26はネットゼロ達成に向けて一定の成果を上げたといえる。しかし大幅な排出削減に向けては、今回の合意で決まった方針をもとに、各国が更に高みをめざし、目標を具体的な行動に落とし込めるかが重要となる。日本が世界を牽引するような国内外の気候変動対策を推進できるか、今後の日本政府の取り組みに注目していきたい

  1. *1 IPCC「Climate Change 2021 The Physical Science Basis Summary for Policymakers」(2021年8月公開)(PDF/3,500KB)
  2. *2オランダ環境評価庁「Trends in Global CO2 and Total Greenhouse Gas Emissions; 2020 Report」(2020年公開)
  3. *3英国政府ウェブサイト「COP26 President Alok Sharma to warn world leaders they must deliver in Glasgow in Paris speech」
  4. *4 UNFCCC「Glasgow Climate Pact」(2021年11月公開)(PDF/135KB)
  5. *5 UNFCCC「MESSAGE TO PARTIES AND OBSERVERS Nationally determined contribution synthesis report」(2021年11月公開)(PDF/196KB)
  6. *6 環境省「COP26後の6条実施方針」(2021年11月公開)(PDF/292KB)
  7. *7 OECD「Climate Finance Provided and Mobilised by Developed Countries: Aggregate Trends Updated with 2019 Data」(2021年9月公開)
    OECDウェブサイト「Statement by the OECD Secretary-General on future levels of climate finance」

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