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これから「使える」再エネ(2/2)

  • *本稿は、『日経ESG』2022年11月号(発行:日経BP)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第1部 小林 将大

使える再エネはどれか

国内の再エネ電力証書には、主にグリーン電力証書、再エネ電力J-クレジット、非化石証書の3つがある。それぞれの証書は供給量や価格帯、利用可能なイニシアチブなどが異なり、詳しくは表の通りである。

このうち、非化石証書については21年度から大幅に制度が改定され、電力需要家が直接購入できるようになった。この他、証書価格の引き下げ、トラッキング制度の拡充により注目を集めている。トラッキングとは、従来は電源の設置場所と電源種に関する情報を持たない非化石証書にこれらの情報を付与することだ。これにより、RE100で利用できる。

グリーン電力証書、再エネ電力J-クレジット、非化石証書の発行対象となる電源にはいずれも、設置から15年を超えるものが含まれる可能性がある。なお、22年9月現在、厳密には再エネ電力J-クレジットは設置から15年を超える電源は発行対象に含まれていないが、今後2~3年以内には設置から15年を超える電源が登場すると想定される。

特に非FIT非化石証書は、数十年間稼働している大型水力発電所に由来するものが多数を占めている。それらを活用した再エネ電力メニューが国内での定番の調達手法であっただけに、企業は調達戦略の見直しを迫られそうだ。

では、RE100参加企業は今後どのような調達手法を選択すべきだろうか。新規電源への投資という観点から、今後はオフサイトコーポレートPPAが台頭してくると想定される。オフサイトコーポレートPPAとは、発電事業者と需要家が直接、契約を結び、電力系統を介して再エネ電力を調達するスキームのことである。オンサイトでの自家発電と比較すると、託送料金が必要な分、コストは増加してしまうが、大規模な調達が可能という点に優位性がある。

オフサイトコーポレートPPAは、フィジカルPPAとバーチャルPPAの2種類に分類される。フィジカルPPAは、電力と環境価値をセットで取引する。市場価格の変動リスクなしに調達できる。一方、バーチャルPPAは、環境価値のみを取引するものだ。電力の同時同量(需要と供給を一致させること)の担保が不要である他、従来の電力契約を切り替えずに再エネ化できる。

いずれのスキームも、基本的には20年間といった長期、かつ固定価格での契約が結ばれる傾向にある。なお、後述の通り、国内では発電事業者と電力需要家の間に小売電気事業者を介するスキームも、オフサイトコーポレートPPAと呼ばれる。

従来、国内では電気事業法上、発電事業者と電力需要家の直接契約が認められていなかった。そのため、右の図で示した狭義のオフサイトコーポレートPPAは実施不可能だった。その代わり、国内ではまず最初に、小売電気事業者を介する形での間接的なオフサイトコーポレートPPAが広がりを見せた。21年3月に発表されたNTTアノードエナジーとセブン&アイ・ホールディングスの取り組みはその先駆けである。

その後、法制度においてもオフサイトコーポレートPPAを後押しする制度改定が進められ、21年11月には自己託送の制度改定により、小売電気事業者を介さずともフィジカルPPAを利用できるようになった。また、22年4月には一部の再エネ電源を対象に、発電事業者と電力需要家が直接、非FIT非化石証書を取引することが認められ、バーチャルPPAの実施が可能となった。

22年6月には、三菱商事と村田製作所が本スキームを活用してバーチャルPPAを実施すると表明している。この制度改定も相まって、今後、オフサイトコーポレートPPAの普及はさらに加速していくだろう。


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RE100、CDP、SBTが認める国内の再エネ電力証書はどれか
グリーン電力証書 再エネ電力
J-クレジット
非化石証書
FIT 非FIT
(再エネ指定)
非FIT
(再エネ指定なし)
運営主体 日本品質保証機構
(民間)
経済産業省、環境省、農林水産省 資源エネルギー庁
市場での
購入可能者
小売電気事業者、
電力需要家
小売電気事業者、仲介事業者、
電力需要家
小売電気事業者、 電力需要家 小売電気事業者
供給量
(2020年度)
約7億kWh 約9億kWh 約1000億kWh 約1500億kWh
価格帯 2~7円/kWh
程度
0.8~1.5円/kWh
程度
0.3円/kWh
程度
0.6円/kWh程度
電源設備 自家発電設備 FIT電源 非FIT電源
電源種 太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス 同左+原子力、
廃棄物
CDP、SBT
RE100 ×

グリーン電力証書の購入可能者については、市場が存在しないため、相対取引が可能な主体について整理した。
CDPの他、温室効果ガス削減目標を認定する「SBTイニシアチブ」への対応も示した。
非FIT非化石証書(再エネ指定)について資源エネルギー庁は「電力をセットで取引する場合に限り、RE100に利用可能」と整理
出所:各制度のウェブサイトなどに基づきみずほリサーチ&テクノロジーズ作成


オフサイトコーポレートPPAの仕組み
図表4

上の図で示したケースの他に、国内では発電事業者と電力需要家の間に小売電気事業者を介するケースもオフサイトコーポレートPPAと呼ばれる
出所:環境省・みずほリサーチ&テクノロジーズ「オフサイトコーポレートPPAについて」に基づきみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

電力価格高騰の対処にも

オフサイトコーポレートPPAは、電力価格高騰の観点からも注目を集めている。電力メニューは卸電力市場の影響を受けるため、燃料費の高騰や電力需給ひっ迫により価格が上昇する。一方、オフサイトコーポレートPPAの費用は設備工事費などの初期投資や、託送料金などのランニングコストから成るため、卸電力市場の影響をほとんど受けず、電力価格の高騰リスクを回避できる。従来、再エネ電力調達は追加的なコストを要するものだったが、電力価格高騰によってオフサイトコーポレートPPAを検討する段階に入っているのだ。

もっともオフサイトコーポレートPPA以外の調達手法が淘汰されてしまうわけでは決してない。そもそも、電力の同時同量の原則や、供給量に鑑みると、電力需要の全てをオフサイトコーポレートPPAで賄うのは不可能だ。再エネ100%を達成するに当たってはその大部分を再エネ電力メニューや再エネ電力証書で賄うことになるだろう。

ただし、RE100の基準改定が意図することはもはや、再エネ電力であれば何でもいいわけではなく、その「質」も問われる時代になったということだ。電力需要家はいま一度、再エネ電力の調達戦略を見直す必要があるだろう。

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