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J-クレジット制度の概要、活用・価格の動向と展望

  • *本稿は、『創省蓄エネルギー時報』2022年5月1・15日合併号(発行:エネルギージャーナル社)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ サステナビリティコンサルティング第1部 加藤 史浩

菅首相による「2050年カーボンニュートラル宣言」(2020年10月)や2030年度46%削減目標等の実現へ向け、2021年10月、地球温暖化対策計画の改定が行われた。地球温暖化対策計画においては、目標達成のための「分野横断的な施策」の一つとしてJ-クレジット制度が位置付けられている。

本稿では、J-クレジット制度の概要、活用・価格の動向及び今後の展望について解説する。

制度の概要:排出削減・吸収活動を認証

J-クレジット制度とは、省エネ・再エネ設備の導入や森林管理により排出削減・吸収されたCO2等の温室効果ガスの量をクレジットとして認証・発行する国の制度である。図1に制度の概要図を示す。発行されたクレジットは、「自らの排出削減は限界だが、もっと排出削減した“ことにしたい”ため、他者の排出削減・吸収実績を買い取りたい」という者などに、売却することができる。

こうしたクレジット取引を通じて、クレジット創出者と購入者の間で資金循環を促されることによって、環境と経済の好循環を生むことが制度の狙いである。


図1 J-クレジット制度の概要図
図1

出所:J-クレジット制度HPより

制度の活用・価格:オフセット量、価格上昇傾向

クレジットを活用することで、自社の活動や製品・サービスから生じる排出量を相殺(カーボン・オフセット)することができる。オフセットすることで、国内における報告制度である地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づく算定・報告・公表制度や近年注目を集めているCDP、SBT、RE100といった国際イニシアティブ*1への報告へ活用することができるほか、企業自らがその削減量をPRするといった活用ができる。

図2では、目的別のクレジット活用量の推移を示している。2016年度から18年度にかけては、日本の政策動向に左右される形でクレジット活用量、特に図2の黄緑色で示される温対法への活用量が大きく増減した。19年度以降は、図2の青色で示されるオフセットへの活用量増加に伴い、全体のクレジット活用量が増加している。これは、自己活動へのオフセットに加えて、オフセットの内数に含まれる国際イニシアティブへの活用が増加していることが要因と考えられる。

J-クレジット制度では、クレジットは相対で取引されているため、取引価格や量は把握できない。他方、一部のクレジットについては制度事務局が定期的に入札販売を実施しており、その結果は制度のHPにおいても公表されている。図3で、入札販売における平均落札価格の推移を示した。黄色の点線で示す省エネクレジットの平均落札価格は、第7回以降、1,500円台で推移している。一方で、水色の点線で示す再エネ発電クレジットは第10回以降、平均落札価格が急激に上昇している。この価格上昇は、RE100等の国際イニシアティブに参加する事業者が再エネ電力の調達手段の一つとして再エネ発電クレジットを活用しており、その需要が高まっていることなどが要因と考えられる。


図2 目的別クレジット活用量の推移
図2

出所:J-クレジット制度HPより


図3 入札販売における落札価格の推移
図3

出所:J-クレジット制度HPより

今後の展望:クレジットの入口と出口の拡大

ここまで、クレジット創出や需要の動向について解説した。ここでは、J-クレジット制度の今後の展望として、創出と需要側の重要なトピックを解説する。

①デジタル技術による排出削減・吸収活動のモニタリング

J-クレジット制度では、排出削減・吸収活動における実際の活動量を元にクレジット量を算定し、認証されることで初めてクレジットを得ることができる。算定にあたっては、IoT機器を用いて、ボイラーにおける燃料使用量や太陽光発電設備の発電量をモニタリングすることが可能であり、こうしたプロジェクトが増えつつある状況だ。さらに、21年8月からは、森林吸収量算定にあたって、航空機からのレーザー測量の結果を使用することができるようになった。将来的には、衛星によるモニタリングといった最新のデジタル技術の導入も期待される。

②クレジットの活用先の拡大

クレジットを創出する上で、クレジットがどのように活用されるかは重要なポイントだ。J-クレジット制度では、GXリーグ*2、CORSIA*3への活用がそれぞれの議論の場で検討されている。GXリーグでは、カーボン・クレジット市場を通じた取引を予定しており、J-クレジットが取引に加えられる可能性がある。また、昨年度にはJ-クレジット制度のCORSIAへの申請が行われ、国際航空によるJ-クレジットの活用が増えることが期待されている。

J-クレジット制度は国内で実施される排出削減・吸収活動の価値を売買可能なクレジットとして認証する仕組みである。社会全体で2050年に向けてカーボンニュートラルの実現を目指す中、活用先の拡大によるクレジットの需要増加、クレジット創出までの手続きの簡素化等、制度のさらなる発展が期待されている。自社の製品やビジネスによるJ-クレジット創出や自社の排出削減や再エネ調達手段としてのJ-クレジット利用、そうした一連の流れのサポートなど、様々なポジションでの参加が可能なJ-クレジット制度の活用を検討してはいかがだろうか。



  1. *1CDP、SBT、RE100への報告に活用できるのは、再生可能エネルギー発電で創出されたクレジットのみ(2022年4月現在)。
  2. *2産官学金がGX(グリーントランスフォーメーション)へ向けて一体として経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場の創造のための実践を行う場
  3. *3ICAO(国際民間航空機関)による国際航空における温室効果ガス排出抑制を狙ったメカニズム
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