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「高齢者」の変容と在職老齢年金の弊害

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2022年1月22日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦

昨年11月に結果が発表された総務省の2020年国勢調査によれば、20年の65歳以上人口は、15年よりも224万人増えて3603万人となった。高齢化率も28.6%に上昇した。

ちなみに、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計(15年基準)によれば、65歳以上人口は、42年に3935万人となるまで増加を続け、その後減少局面に入る。

今後の高齢化の進展には、不安の声も聞かれる。しかし、そもそも65歳以上を一律に「高齢者」とすることが妥当なのか、問われるべきだ。日本老年学会・日本老年医学会によれば、10~20年前に比べ、現在は高齢者の身体機能が5~10年若返っているという。こうした提言に基づき、政府は「エイジレスに働ける社会」を優先度の高い政策目標に掲げている。

実際、60代後半を中心に、就労する人が急増している。例えば、60代後半の給与所得者数は、19年に301万人となり、07年からほぼ倍増した。

また、60代後半人口に占める給与所得者の割合も、07年の20%から19年には35%に高まった。とくに、60代後半男性の同割合は、07年の26%が19年には41%に上昇した。

このような中、在職老齢年金制度(在老)は「エイジレスに働ける社会」と矛盾し、高齢期の多様な働き方を抑圧する面がある。在老には、年齢階層に応じて2種類あるが、以下では、65歳以上を対象にした「高在老」を取り上げる。

高在老は、現役世代の負担に配慮して、就労する厚生年金受給者の「賃金」と「年金」の合計月額が47万円(基準額)を上回ると、年金の一部または全額が支給停止となる制度である。18年度末には、在職受給権者の17%(41万人)が支給停止となった。今後、支給停止者は確実に増加するだろう。

筆者は、高在老には以下の問題点があり、廃止すべきだと考える。

まず、65歳以降に一定以上の賃金を得ると、従前の保険料拠出に見合った年金額を受給できないのは、長く働く高齢者への不合理なペナルティーとなっている。給付時には所得に関係なく受給できるという、社会保険の原則に反する。

また、高在老は、給与所得のみが対象であり、資産所得などは対象としていない。これは、給与所得者に、不公平感を抱かせる。

さらに、今後、現役期に近い働き方をする高齢者の増加が予想される。高在老はこうした人々に年金不信を持たせてしまう。正規雇用で働く高齢者はすでに、10年から20年にかけて62%も増えている。

一方、高在老を廃止すれば、その分、財源を必要とする。しかし、厚生年金の適用拡大や年金課税の見直しなどとセットで実施すれば、財源を確保することは可能である。

また、高在老の廃止には「高賃金者優遇」との批判もある。しかし、基準額47万円から、厚生年金報酬比例部分の平均額などを差し引いた「所定内給与額」は、40歳前後のそれに近い。必ずしも「高賃金者」に限られるわけではない。

人生100年時代を迎えて、65歳以上の意識や就労状況は、今後も大きく変わるだろう。公的年金制度への信頼を損なわないためにも、高在老を見直す必要がある。

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