求められる「居住支援」の強化
- *本稿は、『週刊東洋経済』2022年3月19日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦
コロナ禍で、自治体などの困窮者相談窓口に来た人の困り事を見ると、62%が「住まいの不安定・家賃の支払い」を挙げていた。離職や休業のために家賃を支払えず、住まいが不安定になった人が急増した影響であろう。
これまで日本の住宅政策は持ち家取得に重点が置かれ、借家に住む人への支援は脆弱であった。それでも、近年、新たな居住支援策が導入されている。2017年に始まった「新たな住宅セーフティネット制度」はその1つである。
この制度は、高齢者、低所得者、障害者、子育て世帯などの「住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)」を支援するものだ。要配慮者は、孤独死、家賃滞納、トラブルなどのリスクがあるとして、大家から入居を拒まれる傾向がある。一方、全国で空き家・空き室は増加している。そこで、リスクのために貸したくても貸せない大家と、要配慮者をマッチングする制度である。
具体的には、①要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録(登録住宅)、②登録住宅の改修費や家賃への公的補助、③都道府県がNPO法人や社会福祉法人などを「居住支援法人」に指定し、同法人が要配慮者への入居支援や生活支援、マッチング機能を担うこと、の3点である。
しかし、登録住宅の活用は低調だ。全国居住支援法人協議会が20年度に実施した調査から、居住支援法人が入居支援をした世帯の入居先を見ると、その8割以上を一般の民間賃貸住宅が占め、登録住宅は1.2%にすぎなかった。
この理由の1つは、要配慮者に適した登録住宅の不足である。登録住宅は増えてきたとはいえ、多くの大家が安心して要配慮者の入居を受け入れる状況とは言いがたい。その背景としては、要配慮者の入居後の見守りや生活支援が不十分なため、大家のリスクを低減できていないことが考えられる。また、入居後の見守りや生活支援は長期にわたるため、支援を継続するには財源が必要となる。
このような中、17年ごろから民間の支援団体が始めた「サブリース型支援付き住宅」は注目に値する。支援団体は、空き家のアパートを大家から借り受け、見守りや生活支援をつけて「支援付き住宅」として要配慮者に貸与する。支援団体が大家に支払う家賃は、要配慮者から受け取る家賃よりも低く設定され、その差額を生活支援などの費用に充当するというものだ。
大家に支払われる家賃は想定よりも低い額となるが、空室で無収入となるよりはいい。また、支援団体は、大家に代わって滞納などのリスクを負うが、自ら行う見守りや生活支援によって、そのリスクを低減できる。さらに要配慮者も、多額の賃料を支払うことなく、生活困窮と孤立を防止できる。
そして、支援付き住宅を登録住宅にして家賃などの公的補助を得れば、持続可能性が高まる。行政の関与は貧困ビジネスの防止にもなる。今後も要配慮者の増加が見込まれる中で、空き家を使った住宅セーフティネット機能の強化は重要だ。そのカギは、住宅供給に見守りや生活支援を組み入れることにある。大家と要配慮者の双方に安心感をもたらすだろう。
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