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「孤独・孤立」の実態調査から見えるもの

  • *本稿は、『週刊東洋経済』 2022年5月21日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦

2021年に「孤独・孤立対策担当相」が新設された。その効果もあってか、孤独・孤立は個人の問題というよりも、社会で取り組むべき課題と認識され始めている。実際、孤独・孤立は、生きる意欲の低下、不健康、貧困と関連が深く、個人の力だけでは対応が難しい面がある。

こうした中、今年4月に内閣官房孤独・孤立対策担当室が、全国の2万人を対象にした「孤独・孤立」の実態調査の結果を発表した。

調査結果の概要は、孤立よりも孤独に重点が置かれている。孤立は、相談相手がいないなど他者とのつながりが乏しいといった客観的状態を示すのに対して、孤独は、寂しさや独りぼっちといった主観的概念をいう。

調査結果を見ると、「どの程度、孤独であると感じることがあるか」という問いに対して、「しばしばある・つねにある」と回答した人(以下、孤独群)が4.5%に上る。属性を見ると、未婚者や離別者、一人暮らし、失業者、派遣社員、低所得者などで孤独群の比率が高い。これらは従来の調査でも指摘されてきた点であるが、以下の3点は注目すべきであろう。

第1に、孤独感を持つ人に、現在の孤独に至る前に経験した出来事を尋ねると、①一人暮らし、②家族との死別、③心身の重大なトラブル、④転校・転職・離職・退職、⑤人間関係による重大なトラブル、などが挙げられている。

これらの出来事は、おおむねつながりの希薄化を伴っており、孤立があって孤独感が強まるという経路がうかがえる。孤独・孤立への主な政策対応は「つながる」場の再生であり、孤立対策が孤独感の減退に効果を持つのだろう。

第2に、年齢階層別に孤独群の比率を見ると、20代・30代で8%弱と高いのに対して、70代では1.8%と最も低い。一般に、つながりが弱まる孤立状況は高齢期に生じやすいにもかかわらず、高齢者では孤独感を持つ人の比率が低い。これは「エイジングパラドックス」と呼ばれる現象だ。

この現象は、高齢者は孤立というネガティブな状況に直面しても、できないことを受け入れるなどの心理的対処がうまく機能するためだという説がある。若者よりも多くの経験をし、苦しい状況を乗り越えてきた高齢者には、困難を受け入れる力が備わるのだろう。

しかし、孤独感が低くても、高齢期の孤立自体は大きな問題だ。筆者が関与した調査でも、会話頻度が低い人や頼れる人がいない人の比率は、高齢者ほど高い。身寄りのない高齢者に「頼れる人」がいなければ、いざというときにSOSを出すことが難しい。社会全体で対応することが求められる。

第3に、孤独群の54%が「5年以上、孤独感が継続」と回答している点だ。抱える課題の解決は容易でないことが推察される。孤独群に相談援助を行う支援団体は、課題解決というよりも、つながり続けること自体を目的にした支援が重要になるだろう。一方、政府には、長期につながり続ける支援への財政的な後押しが求められる。

実態調査を受けて、どのように「つながり」の場を再生していくのか。活発な議論を期待したい。

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