多様化する「家族の姿」と働き方改革
- *本稿は、『週刊東洋経済』 2022年9月17日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦
「もはや昭和ではない」。今年6月に発表された内閣府「令和4年版男女共同参画白書」は、変化する家族の姿を取り上げて、このように表現した。
昭和の時代に多く見られたのは、「夫婦と子供からなる世帯」である。夫は、日本型雇用システムの下、新卒一括採用で正社員として長期雇用され、生活給込みの年功賃金が支給された。その代わり、職務範囲などは無限定で、長時間労働を受け入れた。妻は、専業主婦や主婦パートであり、育児や介護といった生活上のケアに対応した。夫婦の役割分担に基づく世帯は男性稼ぎ主モデルとも呼ばれ、今でも社会のさまざまな制度や働き方に根強く残っている。
しかし、総世帯数に占める「夫婦と子供からなる世帯」の割合は、1980年の42%から2020年には25%まで低下した。その一方、単身世帯、夫婦のみ世帯、一人親世帯の比率が高まり、家族の姿は多様化している。
ここでは、一人親世帯を見ていこう。一人親世帯は、80年の205万世帯が、20年には500万世帯へと2.4倍になり、総世帯数の約1割を占めている。そして、一人親世帯では、稼ぎ主と育児の2役を一人親が担うので、従来の働き方では立ちゆかない現実がある。
まず、稼ぎ主の面を見ると、一人親の9割弱を占めるシングルマザーの就業率は、約8割と高い水準だ。それにもかかわらず、一人親世帯の相対的貧困率は48%(18年)に上る。ちなみに、日本の一人親世帯の貧困率は、OECD(経済協力開発機構)35カ国中2番目に高く、OECD諸国平均の同貧困率25%の約2倍である。
高い貧困率の一因は、就業するシングルマザーの約半数が非正規労働者であることだ。一人親になる前の母親の就業状況を見ると、正規労働者として就業していた人は24%にすぎない。そして、一人親になってから正規労働に就こうとしても、日本では新卒一括採用が主流なので、中途採用の門戸は諸外国に比べて狭い。
次に、育児への影響を帰宅時間から見ると、正規労働のシングルマザーの帰宅は遅く、午後6時以前は2割にすぎない。また、パート・アルバイトなどとして働くシングルマザーであっても、午後6時以前の帰宅は5割にとどまる。
確かに、働き方改革関連法が成立し、時間外労働の上限規制の導入など制度的には少しずつ改善している。しかし、依然として男性稼ぎ主モデルの長時間労働が標準形となっており、働き方改革は世帯の多様化に追いついていない。育児や介護などを抱える人は標準形に合わず、厳しい生活状況になりがちだ。
今後も、世帯の多様化に伴って、育児や介護に限らずさまざまな制約を抱えながら「主たる生計維持者」として働く人が増えていく。一方で、生産年齢人口が減少する中では、こうした人々が労働市場で活躍できるようにすることが、企業にとってもプラスになる。短時間正社員といった多様な働き方を広げるなど、いまだ頑強な「昭和」の意識やシステムを段階的に変えていく取り組みが求められる。
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