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社会動向レポート

CO2有効利用(CCU)の国内外の動向(1/3)

グローバルイノベーション&エネルギー部 エネルギービジネスチーム 野原 珠華

気候変動問題を解決するイノベーション技術として注目を集める「CO2有効利用(CCU)」について、その概要や課題、最近の政策動向や技術動向、各企業の取り組みなどを紹介する。

1.CCUとは?

(1)CCUの意義

近年、地球温暖化の原因と言われている二酸化炭素(以下CO2)を削減するだけでなく、発電や産業で排出されるCO2や大気中のCO2を回収し、回収したCO2を利用もしくは地中に貯留する技術「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilizationand Storage)」が注目されている。CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:CO2回収・貯留)は、CO2を大量に削減できる手段として長年研究されており、最近では年間100万トン以上のCO2を回収・貯留する大規模プロジェクトも進んでいる。CCSと同様に長年研究されているCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization:CO2回収・利用)も、最近では気候変動問題を解決するイノベーション技術として注目を集めるようになった。

CCUは、従来の化石燃料由来の燃料や化学品等の製品を、CO2を原料として製造した製品へと置き換えることで低炭素化を図ることができる。さらに、CO2を耐久性のある素材に変えればCO2を長期間固定でき、固定している期間はCO2ゼロ排出といえる。

低炭素化以外にも、国内でCO2や水素を調達すれば、輸入に頼る石油等の代替品を国内で製造できるようになるため、エネルギー供給の安定化に繋がるメリットがある。また、基本的には既存製品の代替品を製造するため、既にあるインフラやサプライチェーンをより低炭素な形で活用できる。さらに、最終的に何かしらの製品が作られるため、販売することで収入が得られたり、様々なステークホルダーを巻き込みながら新たなビジネスを創出する可能性も秘めている。


図表1 CCU の概念図
図表1

  1. (資料)みずほ情報総研作成

(2)国内外のCCUに関連する政策動向

CCUは、特に欧州・米国で先進的に取り組まれている。欧州は、2016年に提案した“A CleanPlanet for all”で2050年までに正味ゼロエミッションの達成を明示しているが、目標達成に向けた気候変動対策の重要技術として、再生可能エネルギーを利用して水から水素を製造する「Power-to-X技術」が取り上げられている。また、Power-to-X技術で作られた水素をCO2と反応させて、メタンなどのカーボンニュートラルな代替製品に変換することにも言及されている。特に、エネルギー形態を電気から燃料へ変換することで、産業・運輸分野など、Power-to-X技術の適用分野の拡大を目指しており、コスト削減を目指し実証事業が進められている。米国では、気候変動対策よりもエネルギーセキュリティの観点から幅広いCCUを検討しており、Powerto-X技術以外にも、CO2と水から太陽エネルギーを活用する形で化学品を合成する人工光合成や、微生物やそれが生産する酵素を用いた変換などの基礎研究を含む研究開発や実証試験が実施され、これらの事業向けの補助金制度も整備されている。

日本では、2019年1月に安倍首相がダボス会議で「経済成長と環境の好循環」を実現するイノベーションとしてCCUへの意欲を示してから、経済産業省がCO2を炭素資源と捉えて再利用する「カーボンリサイクル」というコンセプトを推進し始めた。同年2月には資源エネルギー庁にカーボンリサイクル室が設置され、6月にはCCU技術の各分野で研究開発が必要な技術的な課題を整理した「カーボンリサイクル技術ロードマップ」が公表されている。

カーボンリサイクル技術ロードマップでは、ポリカーボネートやバイオジェット燃料、道路ブロックなど、基礎技術が既に確立し水素が不要なものや高付加価値で代替が進みやすいものに関しては2030年頃からの普及を目指し、オレフィンやベンゼン、トルエン、キシレンなどの化学品、燃料、汎用コンクリート製品等、技術は現段階で未確立だが実現した場合CO2利用量が多いものに関しては2050年頃からの普及を目指し技術開発を進めるとしている。

また、環境省も2018年より「二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業」を開始し、CO2資源化を実現するための課題を整理し、炭素循環社会モデルの構築することでCCU普及を目指す事業を進めている。

(3)CCUの主な用途について

CCUは主に「直接利用」と「間接利用」とに大別される(図表2を参照)。直接利用はCO2をそのまま利用することを、間接利用はCO2を何らかの製品に変換させて利用することを指す。 直接利用では、CO2を産業ガスとして溶接用シールドガスや炭酸水などの飲料・食品分野、医療分野で利用したり、ドライアイスにして生鮮食品の冷温保管・輸送などで利用したりする。また、枯渇油田に圧入して油田の残存原油を回収するEOR(Enhanced Oil Recovery)で利用されることも多い。

間接利用では様々な物質に変換させて利用する(図表3を参照)。CO2をメタンやメタノール、エタノール等に変換させて燃料や化学品として利用したり、CO2を炭酸カルシウムに変換しセメントの原料として利用したりする。また、コンクリート製造時にCO2を吹き込むことで強度の高いコンクリートに仕上げたり、バイオマス由来の化学品や燃料の原料となる藻類などの成長効率を、CO2を吹き込むことで向上させたりなど、間接利用における用途は多岐にわたる。


図表2 CCU の用途と各技術ステージの概観(●が各技術ステージの現時点を表す)
図表2

  1. (資料)各種文献よりみずほ情報総研作成

図表3 CO2から化学品・燃料等になるまでのフロー図
図表3

  1. (資料)経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」
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