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社会動向レポート

CO2有効利用(CCU)の国内外の動向(2/3)

グローバルイノベーション&エネルギー部 エネルギービジネスチーム 野原 珠華

2.国内外のCCUに関連するビジネスや取り組みの紹介

(1)化学品

CO2から製造できる化学品およびその基幹物質となるものに、メタノールやエタノールが挙げられる。メタノールやエタノールはそのまま発電用燃料や輸送用燃料として利用したり、エチレンやプロピレン、さらに様々な化学品に合成して利用したりすることができる。

CO2のメタノールやエタノールへの変換で商業化に至っているプロジェクトは少ないが、アイスランドのCarbon Recycling International(以下CRI)は同国レイキャビク南方で世界初のCO2からのメタノール生産プラントを2012年から商業稼働している。同企業が運転しているプラントは、地熱発電由来の電力で水電解した水素と、地熱発電の随伴ガスである年間5,500トンCO2から、年間4,000トンのメタノールを製造して「Vulcanol」という商品名で売り出している。

CRIはCO2からのメタノールを製造し販売するだけではなく、その製造技術「Emissions-to-Liquids」を普及させる取り組みも行っている。CRIは、欧州における研究および革新的開発を促進するための研究・イノベーション枠組み計画である「Horizon2020」の一環として、180万ユーロ(約2億1,600万円、1ユーロ=120円で換算)の支援を受け、大規模メタノール生産プラントの商業化を加速し欧州内での再生可能メタノールの市場を拡大していくため、「CirclEnergy」と呼ばれるプロジェクトを進めている。

CRIの市場拡大は欧州内にとどまらない。中国河南順成集團がCRIと技術契約を締結し、中国の河南省安養市にCRIの技術を用いたプラントを建設するという。このプロジェクトの総費用は約9,000万米ドル(約96億円、1米ドル=107円で換算)と見積もられており、年間約15万トンのCO2から年間約18万トンのメタノールとLNGを製造する予定である。

日本でもCO2からメタノールを製造するプロジェクトが始まっている。1-(2)政策動向で述べた環境省の事業において、株式会社東芝が太陽光発電による水電解から製造した水素と火力発電所の排ガスからのCO2でメタノールを製造する人工光合成の実証事業を2018年より開始している。また、三菱日立パワーシステムズ株式会社、三菱重工エンジニアリング株式会社、三菱ガス化学株式会社は、苫小牧にあるCO2回収設備からのCO2と、製油所から発生する副生水素と水電解装置により発生させた水素を原料として、メタノールを1日20トン合成するプラントを設置することを想定した調査事業を2020年3月より始めている。


図表4 CCU による化学品製造に関連する取り組みを行う企業例
図表4

  1. (※1)Carbon Recycling International ホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
  2. (※2)Carbon Recycling International プレスリリース(最終検索日:2020年9月11日)
  3. (※3) 株式会社東芝「2018年度CCUS の早期社会実装会議 多量二酸化炭素排出施設における人口光合成技術を用いた地域適合型二酸化炭素資源化モデルの構築実証」(PDF/746KB)(最終検索日:2020年9月11日)
  4. (※4)三菱重工株式会社プレスリリース(最終検索日:2020年9月11日)
  5. (資料)みずほ情報総研作成

(2)燃料

CO2は、メタネーションと呼ばれる技術によって水素と反応させてメタンに変換させたり、還元反応によって合成ガス(COと水素の混合ガスのこと)を製造させたりすることができる。合成ガスは、フィッシャー・トロプシュ合成と呼ばれる反応によって、軽油やアルコール、オレフィンといった製品へと変換することができる。メタンはそのまま都市ガスとして、軽油はそのまま輸送用燃料として利用できるなど、CO2から既存製品の代替品を作ることは、既にあるインフラやサプライチェーンを有効活用できる面で大きなメリットがあるといえる。

海外でも上記のメリットに注目して、各国でメタネーション技術開発が進んでいる。その代表例として「Store&Go」プロジェクトが挙げられるが、Horizon2020の支援を受け27機関が欧州内の3地点においてPower-to-Gasの実証を行うプロジェクトである。プロジェクト期間は約4年間であり、総事業費は2,800万ユーロ(約33億円)に上り、ドイツのFalkenhagen、スイスのSolothurn、イタリア南部のTroiaに実証サイトが設けられている。本プロジェクトの目的は、「パリ協定」の目標達成に向け、メタネーションを含むPower-to-Gasのビジネスモデルを確立して商用化を加速することである。このプロジェクトの特徴は、それぞれの地域特性に合わせた再エネやCO2の調達をしているところで、例えば、スイスの実証サイトではアルプス地域の太陽光・水力発電の電力を活用し、イタリアの実証サイトでは地中海沿岸地域の風力発電などの電力をメタネーションに活用している。

国内でも、メタネーションの事業が始動している。国際石油開発帝石株式会社は、自社のガス田で排出されているCO2からメタンを製造し、都市ガスとして再利用する事業を2019年より始めた。CO2を再利用し都市ガスの原料製造を事業化するのは、国内では初めてであり、2019年8月に年間50トンの生産を開始しており、このメタンを都市ガスに混ぜ既存のガス導管経由で家庭や産業向け供給する構想となっている。

メタネーション装置は日立造船株式会社の技術で、1-(2)政策動向で述べた環境省の事業において、2018~2022年度の期間で、清掃工場の排ガスからのCO2と再エネを利用した水電解によって作られる水素でメタンを製造する実証事業を行い、メタネーション技術のモデル実証を行っている。


図表5 CCU による燃料製造に関連する取り組みを行う企業・プロジェクト例
図表5

  1. (※5)Store&Go ホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
  2. (※6)国際石油開発帝石株式会社プレスリリース(PDF/223KB)(最終検索日:2020年9月11日)
  3. (※7)日立造船株式会社「2018年度CCUSの早期社会実装会議 日立造船株式会社におけるCCU事業の取組」(PDF/846KB)(最終検索日:2020年9月11日)
  4. (資料)みずほ情報総研作成

(3)コンクリート

セメント業界におけるCCUは、CO2をセメントの原料の石灰石の主成分である炭酸カルシウムに変換したり、コンクリート製造時にCO2を吹き込むことで強度の高いコンクリートに仕上げたりなど、化学品や燃料と違い水素やCO2を変換させるための多量のエネルギーが不要である大きなメリットがある。そのため、様々な企業が上記技術やそれら技術によって作られる商品を開発している。

カナダのスタートアップ企業CarbonCureTechnologiesは、2007年に設立されて以来、セメント製造で炭酸カルシウムを焼成する際に大量に排出されるCO2をリサイクルしてコンクリートに注入する事業に取り組んでいる。同社は、既にコンクリート製造を行っている工場に追加で導入することができるため、従来の製造過程を変えることなくCO2削減対策ができるというメリットを打ち出している。

国内では、鹿島建設株式会社が「CO2-SUICOM®」というCCUによって製造されたコンクリートを商品化している。CO2-SUICOMは鹿島建設株式会社、中国電力株式会社、電気化学工業株式会社が共同開発したコンクリートで、コンクリートの主原料であるセメントの一部を、CO2と反応することでコンクリートを緻密化・硬化させる性質を持つ特殊混和材と置き換え、CO2高濃度下でCO2を強制的に吸収・反応させコンクリートを製造する。そのため、既存のコンクリートに比べて大幅なCO2排出量の削減効果が得られるという。CO2-SUICOMRは、舗装ブロックやフェンス基礎など土木分野の外構材料や、建物の天井など建築分野でも既に利用されている。


図表6 CCU によるコンクリート製造に関連する取り組みを行う企業例
図表6

  1. (※8)Carbon Cure Technologies ホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
  2. (※9)鹿島建設株式会社「環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」」(最終検索日:2020年9月11日)
  3. (資料)みずほ情報総研作成

(4)ポリマー

CO2を原料としてポリマーを生成する技術は大学および企業で様々な技術の研究開発が進んでいる。CO2から生成されるポリマーは、主に温度によって液体または固体に形状を変化させることができる熱可塑性樹脂が多く、使い捨て容器などの汎用プラスチックとして利用されるポリエチレンや、電気・電子部品や衣料用繊維などの工業用プラスチックとして利用されるポリカーボネートなど、身近にある様々な製品での利用が期待できる。

海外では既にCCUのポリマーを商用化している企業がある。ドイツの化学メーカーCovestroAGは、同国ドルマゲンでCO2とプロピレンオキシドを反応させてポリマー原料であるポリオールを年間5,000トン生産している。ポリオールは、装飾品、スポーツ用品、自動車部品など、多くの日用品に使われるポリウレタンの製造に使用される。Covestro AGのCO2を原料として生成されたポリオールとポリウレタンは、石油ベースで製造される既存のものと同程度の品質を満たしているという。

国内でも旭化成がCO2を原料にポリマーを製造する実証事業を2014年度~2016年度に行っていた。事業の主目的はポリカーボネートを毒性の強いホスゲンを使わずに安全なCO2を原料に製造することだったが、実証の過程で従来の製造プロセスに比べて省エネかつCO2排出量削減を実現できることが示されている。


図表7 CCU によるポリマー製造に関連する取り組みを行う企業例
図表7

  1. (※10)Covestro AG “CO. as a raw material〟(最終検索日:2020年9月11日)
  2. (※11)旭化成株式会社プレスリリース(最終検索日:2020年9月11日)
  3. (資料)みずほ情報総研作成

(5)バイオマス由来製品

CO2を微細藻類などのバイオマスに吸収させ光合成を促進させることで増殖させ、それらを原料に燃料や化学品に変換させる技術もCCUの一つとして考えられている。欧州・米国でもバイオマス関連の研究や商品開発を行う企業は多くあるが、本節では佐賀市における取り組みを紹介したい。

佐賀市では、廃棄物がエネルギーや資源として価値を生み出しながら循環する都市「バイオマス産業都市さが」というコンセプトを進めており、その取り組みの1つとして清掃工場の排ガスからCO2を分離回収し、そのCO2を利用する事業を進めている。

回収したCO2は現在、株式会社アルビータが行う藻類培養事業と、グリーンラボ株式会社が行うバジル栽培事業で利用されている。株式会社アルビータは、CO2をヘマトコッカスという微細藻類の培養生産に利用している。ヘマトコッカスからは老化の原因になる活性酸素を抑制する働きがあるアスタキサンチンを抽出でき、サプリメントとスキンケア商品の販売を2019年より開始している。グリーンラボ株式会社は、清掃工場からのCO2と、同じく清掃工場からの廃熱を利用し、バジル生産を行う植物工場(スマートアグリファクトリー)を2019年7月より本格稼働している。

佐賀市での事業は、CO2を有効活用することでその地域に新たな産業が生み出されており、CCUによるCO2削減への貢献だけでなく、周辺の地域活性化にもつながっている意義が大きいと考えられる。


図表8 CCU によるバイオマス由来製品製造に関連する取り組みを行う企業例
図表8

  1. (※12)佐賀市ホームページ「二酸化炭素分離回収設備について」(最終検索日:2020年9月11日)
  2. (※13)株式会社アルビータホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
  3. (※14)グリーンラボ株式会社プレスリリース(PDF/309KB)(最終検索日:2020年9月11日)
  4. (資料)みずほ情報総研作成
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