社会動向レポート
CO2有効利用(CCU)の国内外の動向(3/3)
グローバルイノベーション&エネルギー部 エネルギービジネスチーム 野原 珠華
3.おわりに
2章で様々なCCUに関連するビジネスや取り組みを紹介したが、CCUにはまだ課題が多い。
1つ目は経済性である。CCUは、CO2を使って製造した製品を最終的に商品として売れるため収入が期待できるものの、製造コストが高く、既存製品にコスト面での優位性を持つことが難しい。コストダウンを図るなら、CO2分離回収コストや水素調達コスト、その他製造コストなどにおけるコスト削減が必要となる。
なお、海外では個人の環境対策への意識に注目し、出資を促すビジネスに取り組む企業がある。大気中のCO2を直接回収する技術(DirectAir Capture:DAC)を保有するスイスの企業Climeworksは、世界で初めてDACで回収したCO2の地中鉱物への固定に対して個人が出資できるサービスを商用化している。出資額は月7ユーロ(約840円)からで、CO2は1人年間85kgから600kgまで回収でき、個人のカーボンフットプリントの削減や、長時間のフライトで発生するCO2を代わりにこのサブスクリプションで削減できることを商品価値として売り出している。今後、企業だけではなく個人の気候変動問題に対する意識が高まっていくことも考えられ、単なる「コスト」だけではなく「環境価値」も含めて経済性を評価すると、ビジネスとして成り立つ可能性があると考えられる。
2つ目の課題としてはライフサイクルにおけるCO2収支やエネルギー収支である。CO2は安定した物質であり、一般的に変換に大量のエネルギーを必要とするため、化石燃料由来のエネルギーを使用した場合、CO2排出量が増加する可能性がある。また、ドライアイスや炭酸ガスとしての利用は、他のCO2排出活動を代替することができず、短期間でCO2が大気に放出されるため温暖化対策としての意義は低い。
CCUは、大量に存在し排出削減のニーズの高まっているCO2を資源にできるため魅力的なオプションである一方、サプライチェーン全体のライフサイクルで評価してCO2が削減されているのか、必要なエネルギーを低炭素かつ安定的にどのように調達するのか、コスト競争力があるか等を見極める必要がある。適切にCO2を有効利用できれば、飛行機や船舶といった電化が難しいところや製造プロセスでCO2の排出が避けられないところなど、省エネルギー対策や再生可能エネルギーの利用だけでは気候変動への対応が難しいところを補う役目を、CCUが担っていくことができると考えられる。
参考文献
- 経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」
(PDF/1,540KB) - European Commission "A Clean Planet for all A European long-term strategic vision for a prosperous,modern, competitive and climate neutral economy (2018)"(最終検索日:2020年9月11日)
- U.S.Department of Energy "Carbon Capture, Utilization, and Storage: Climate Change, Economic Competitiveness, and Energy Security (2016)"
- 経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」
(PDF/1,160KB) - Carbon Recycling Internationalホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
- Carbon Recycling Internationalプレスリリース(最終検索日:2020年9月11日)
- 株式会社東芝「2018年度CCUS の早期社会実装会議 多量二酸化炭素排出施設における人工光合成技術を用いた地域適合型二酸化炭素資源化モデルの構築実証」
(PDF/746KB)(最終検索日:2020年9月11日) - 三菱重工株式会社プレスリリース(最終検索日:2020年9月11日)
- Store&Goホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
- 国際石油開発帝石株式会社プレスリリース
(PDF/223KB)(最終検索日:2020年9月11日) - 日立造船株式会社「2018年度CCUSの早期社会実装会議 日立造船株式会社におけるCCU事業の取組」
(PDF/846KB)(最終検索日:2020年9月11日) - Carbon Cure Technologiesホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
- 鹿島建設株式会社「環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOMR(シーオーツースイコム)」」
- Covestro AG "CO2 as a raw material"(最終検索日:2020年9月11日)
- 旭化成株式会社プレスリリース(最終検索日:2020年9月11日)
- 佐賀市ホームページ「二酸化炭素分離回収設備について」(最終検索日:2020年9月11日)
- 株式会社アルビータホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
- グリーンラボ株式会社プレスリリース
(PDF/309KB)(最終検索日:2020年9月11日) - Climeworksホームページ(最終検索日:2020年9月11日)
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