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技術動向レポート

AIによる外観検査(2/3)

情報通信研究部 コンサルタント 橋本 大樹

3.AIによる外観検査の現状

本章では、外観検査の分野においてAIに要求されるタスクについて概説したのちに、AIを外観検査に適用した当社の研究開発事例について紹介する。

(1)外観検査におけるタスク

外観検査においてAIに要求されるタスクは、画像分類、物体検出、領域分割(画像セグメンテーション)の3つに大別できる。一般に後者ほど精度や処理時間の観点での難易度が高く、またアノテーション*4作業のコストも大きくなるため、これらを考慮してAIで実現するタスクを決定することが必要である。

[1] 画像分類

画像分類は一枚の画像全体に対し、その画像があらかじめ設定されたカテゴリの中のどのカテゴリに属するのかを判断するタスクである。画像に写っている製品の中に不良品が含まれているかどうかを判断することはこのタスクに相当する。

例として路面画像からのひび割れ検出に画像分類を適用した場合、事前に「ひび割れあり」「ひび割れなし」の2つのカテゴリを人間が設定し、AIは図表2のように各画像がどちらに属するかを判断する。


図表2 路面のひび割れ検出に対する画像分類のイメージ図
図表2

  1. (資料)Road Damage Dataset 2018*5の画像を加工してみずほ情報総研作成(画像はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスCC BY-SA4.0に従う)

[2] 物体検出

物体検出は特定カテゴリの物体や部位が、画像中のどの領域にあるのかを判断するタスクである。例えば画像中から、特定の部品や欠陥箇所の位置を特定することはこのタスクに相当する。

路面画像からのひび割れ検出に物体検出を適用した場合、図表3のようにAIはひび割れの存在する矩形領域を検出する。


図表3 路面のひび割れ検出に対する物体検出のイメージ図
図表3

  1. (資料)Road Damage Dataset 2018*5の画像を加工してみずほ情報総研作成(画像はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスCC BY-SA4.0に従う)

[3] 領域分割(画像セグメンテーション)

領域分割は画像中の各画素に対して、写っている物体のカテゴリを推定するタスクである。欠陥の位置だけでなく欠陥の形状まで推定する必要がある場合にはこのタスクが必要になる。ひび割れのように、欠陥のサイズや形状が多様で、どこからどこまでがひとまとまりの欠陥なのか明確でないようなものを検出する場合も、領域分割が適していることが多い。

路面画像からのひび割れ検出に領域分割を適用した場合、図表4の青色で塗りつぶした領域のように、AIはひび割れの位置を画素単位で検出する。


図表4 路面のひび割れ検出に対する領域分割のイメージ図
図表4

  1. (資料)Road Damage Dataset 2018*5の画像を加工してみずほ情報総研作成(画像はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスCC BY-SA4.0に従う)

(2)X線CT画像からの鋳巣の検出事例

AIを外観検査に適用した当社での研究開発事例の1つとして、精密工学会画像応用技術専門委員会が主催する外観検査アルゴリズムコンテスト2019での、X線CT画像からの鋳巣検出を紹介する。

鋳造製品の内部に発生する鋳巣とよばれる空洞欠陥を、X線CTによる撮影画像から検出することにより、鋳造製品内部の非破壊検査が可能となる。鋳巣の位置や形状を正確に推定する必要があるため、この課題は領域分割(画像セグメンテーション)に分類される。

当社は、X線CT画像から鋳巣を検出するためのディープラーニング手法として、新しいニューラルネットワーク構造を提案した*6 *7。このニューラルネットワークでは、画像の特徴を抽出する層を分岐させたことにより、低解像度と高解像度の双方の特徴抽出を行うことができる。低解像度の特徴抽出構造により大域的なつながりを、高解像度の特徴抽出構造により鋳巣の詳細な形状を考慮することが可能となり、このニューラルネットワークを用いることで、図表5のように鋳巣の大域的な領域の連続性を保ちつつ細かな形状の推定が可能となった。図表5の入力画像の列は、X線CTによる撮影画像であり、明るい色の正方形部分が鋳造製品、内部の色の濃い部分が鋳巣を表している。また正解ラベルの列はコンテストで正解として提示された鋳巣領域を、推定ラベルの列は当社の手法で推定した鋳巣領域を示している。正解ラベルと推定ラベルにおいて、同じ色で塗られた鋳巣は3次元的につながった空洞であることを表しているが、色はランダムに割り当てているために、正解ラベルと推定ラベルの色は対応していない。

この手法は、外観検査アルゴリズムコンテスト2019にて最高精度を達成し、最優秀賞を受賞した。


図表5 入力画像と鋳巣領域の正解ラベル・推定ラベル
図表5

  1. (資料)外観検査アルゴリズムコンテスト2019の検証用データを用いてみずほ情報総研作成(各鋳巣の色付けはランダムで行っているために、正解ラベルと推定ラベルの色は対応していない。)

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