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社会動向レポート

オールハザードBCPへの転換

アフターコロナのBCP(1/3)

経営・ITコンサルティング部 IT戦略チーム シニアコンサルタント 鈴木 大介

弊社の独自調査として実施した「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査」の結果から、コロナ禍における各企業のBCPの状況や、各企業が実施した対策などを分析し、With/Afterコロナで求められるBCPについて考察する。

1.調査の背景

事業継続計画(Business Continuity Plan:BCP)とは、自然災害や新型感染症の流行(パンデミック)などの不測の事態が発生した際に、企業の事業を継続(あるいは早期復旧)するための計画である。これまで、日本企業においては、首都直下地震や南海トラフ地震をはじめとする大規模地震の発生を想定したBCPが策定されることが多かった。しかし、世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、否応なしに事業継続のための対策に取り組まざるを得ない環境となり、感染症拡大を想定したBCPの策定ニーズは高まりを見せている。加えて、自然災害も頻繁に発生していることから、地震や風水害といった自然災害も含めた様々なリスクに対処するためには、どのようなBCPが求められるのかを改めて整理することが重要となってきたと考える。

また、新型コロナウイルス感染症においては、全世界で長期間にわたって事業が停止または停滞する事態に陥った。このような事態においても、確実に事業を継続するため、企業のバリューチェーン全体の観点からBCPの有効性を評価し、見直していく必要がある。BCPに求められる役割は、事象発生時の業務停止からの早期復旧という本来的な目的のみならず、事業継続性を確保するためにサプライチェーンをどう再設計するかといった、経営戦略や事業戦略と密接不可分なものとなっていくと考えられる。

本稿では、「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査」(以下、BCPに関する調査という。)の結果より、コロナ禍を経たことによるBCPへの要求事項の変化について分析する。

2.調査概要

調査は、2020年7月に全国の従業員51名以上の企業に勤める人のうち、事業戦略や経営戦略、BCPの策定に関与する(または意見できる立場にある)人を対象に実施した(図表1)。


図表1 調査実施概要
図表1

  1. (資料)みずほ情報総研「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCP に関する調査」(2020年9月)

3.新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査の結果について

(1)実施された対策と効果

[1] コロナ禍で実施された対策と効果

コロナ禍では、外出自粛に伴って出勤や取引先等への訪問が制限され、社内外とのコミュニケーションが著しく制限される状況となった。そのため、コミュニケーション維持のため、6割以上の企業が「オンライン会議システム」(76.2%)や「テレワーク」(66.3%)を実施していると回答している(図表2)。これらの対策については、実施した企業の80%前後の企業が効果的(「非常に効果的だった」、「概ね効果的だった」の合計値)と回答しており、コロナ禍において有効な対策であったことが伺える(図表3)。

一方で、コロナ禍は感染流行地域との物流停止や、生活様式の変化に伴った需要の変化など、サプライチェーンにも多大な影響を及ぼしている。しかし、「原材料・部材在庫・商品在庫の積み増し」(17.6%)や「物流経路・方法の変更」(15.9%)、「新規事業への参入」(13.4%)、「海外生産拠点の切り替え」(13.3%)といった、企業のバリューチェーン自体の変革にも繋がる対策を実施したと回答した企業はいずれも20%未満であった(図表2)。一方で、実施した対策の効果に関する回答をみると、これらの取り組みを実施した約70%の企業が効果的と回答しており、こうした経営戦略・事業戦略レベルでの取り組みがコロナ禍において有効に機能する対策となったことがわかる(図表3)。


図表2 コロナ禍で実施された対策
図表2

  1. (資料)みずほ情報総研「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCP に関する調査」(2020年9月)

図表3 コロナ禍で実施された対策の効果
図表3

  1. (資料)みずほ情報総研「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCP に関する調査」(2020年9月)

[2] テレワークの実施状況と課題

コロナ禍においてテレワークを実施した企業(n=479)のうち70%はコロナ禍以前からテレワーク制度を導入していたのに対し、コロナ禍以降にも継続を考えている企業は83.1%と、コロナ禍以前よりテレワークを実施する企業が増加する傾向にあることが分かった(図表4)。しかし、テレワークを実施した企業(n=479)におけるテレワーク実施における課題・問題に関する調査結果(図表5)を見てみると、「現場でないと出来ない業務・作業がある」(53.9%)を課題と考える企業が最も多く、次いで「パソコンや通信環境の整備が不十分」(45.9%)や「情報システム部門の体制が不十分」(43.2%)、「セキュリティ面に不安がある」(42.6%)を課題とする企業が多く見られた。このことから、テレワークをより効果的に活用していくためには、単なるツールの導入にとどまらず、出社が必要となっている業務・作業の見直しや、インフラ、体制、制度などの見直しが不可欠であることがわかる。


図表4 テレワークの実施動向
図表4

  1. (資料)みずほ情報総研「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCP に関する調査」(2020年9月)

図表5 テレワークを実施した結果明らかとなった課題
図表5

  1. (資料)みずほ情報総研「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCP に関する調査」(2020年9月)
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