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技術動向レポート

わが国における台風被害と高潮浸水対策の現状について(1/3)

サイエンスソリューション部 先進技術システムチーム コンサルタント 坂本 大樹

1.はじめに

わが国では、地震や津波をはじめ数々の自然災害と向き合う必要があるが、その中でも台風による被害は、暴風による家屋や施設などの破壊だけでなく大量の降雨に伴う河川氾濫や斜面崩壊、そして高潮による大規模浸水など様々なものが存在する。当社では、大型台風が襲来した際に発生する高潮や波浪による影響の数値解析を行うことで、高潮による浸水区域想定に貢献している。本稿では、わが国における過去の台風被害と高潮浸水区域想定の現状について整理し、当社としての取り組みについて報告する。

1.大型台風による被害について

(1)台風発生数の変化

気象庁での観測が開始された1951年以降の各年における発生台風個数を図表1にまとめる。図表1に示すとおり、観測開始以降ばらつきはあるものの、1年に20~30個程度の台風が発生していることがわかる。また近年においても同様の傾向であるということができる。


図表1 年間台風発生個数の推移
図表1

  1. (資料)デジタル台風1をもとにみずほ情報総研が作成

(2)過去最大級の台風について

過去に被害が顕著であった台風について規模と被害を図表2にまとめる。このうち室戸台風、枕崎台風、伊勢湾台風の3つを昭和の三大台風と呼ぶ。

室戸台風は、1934年9月に日本に襲来した台風であり、京阪神地方を中心に大きな被害をもたらした。本台風は気象庁の統計開始(1951年)以前であるため、台風半径や移動速度については整理されていない。しかし日本にこれまで襲来した台風としては最大規模の勢力を持つため、国が公表している「高潮浸水想定区域図作成の手引き」1 では、想定する最大規模の台風の中心気圧として室戸台風の値を参照することを基本としている。なお「高潮浸水想定区域図作成の手引き」1については、2.2で詳しく述べる。

枕崎台風は、1945年9月に日本に襲来した台風であり、九州、中国、四国地方を中心に大きな被害をもたらした。我が国にとっては終戦直後の襲来となったため、気象情報が少なく防災体制も不十分であったことから被害が大きくなったといえる。室戸台風と同様に、気象庁の統計開始以前の台風であるため、詳細なデータは整理されていない。

伊勢湾台風は1959年9月に襲来した台風で、紀伊半島や東海地方を中心に被害をもたらした。気象庁の統計開始以降では、上陸時の中心気圧が第二室戸台風の925hPa についで低く929hPaであった。第二室戸台風よりも暴風半径と移動速度が大きいため、「高潮浸水想定区域図作成の手引き」では、想定する最大規模の台風の暴風半径と移動速度には伊勢湾台風のデータを用いること、としている。

第2室戸台風は、1961年9月に襲来した台風であり、室戸台風と規模や経路が似ていたためその名がつけられた。上述のとおり、気象庁の統計開始以降では、上陸時の中心気圧が925hPa と最も小さく、大阪湾を中心に被害をもたらした。伊勢湾台風と同規模の台風であったが、伊勢湾台風の襲来を受けて日本各地で災害対策が進められていたため、被害は伊勢湾台風襲来時よりも大幅に小さく、災害対策の有効性が確認できた台風ともいうことができる。

それぞれの台風経路と中心気圧を図表3に示す。なお室戸台風と枕崎台風については上述のとおりデータが存在しないため、経路図のみを表示している。


図表2 過去最大級の台風の概要
図表2

  1. (資料)デジタル台風をもとにみずほ情報総研が作成


図表3 過去最大級の台風の経路図
図表3

  1. (資料)みずほ情報総研が作成

(3)近年の台風被害について

2000年以降に顕著な被害をもたらした台風を図表4にまとめる。またそれぞれの台風の経路図を図表5に示す。

2004年の台風16号、18号はともに九州、中国地方に上陸し、大きな被害をもたらした。広島県は両台風による被害を受け、後述の「高潮浸水想定区域図」を作成、公開している。

2018年台風7号は梅雨前線の影響も重なり西日本広域で記録的な降雨をもたらした。この大雨により死者200人を超える被害が出たことから、気象庁が「平成30年7月豪雨」と命名した。

2018年台風21号は強い勢力を保ったまま近畿地方を縦断し、近畿地方を中心に大きな被害をもたらした。関西国際空港では強風により漂流したタンカーが連絡橋に衝突したことで、完全閉鎖、孤立状態となったほか、高潮の影響を受け六甲アイランドやポートアイランドでは広域にわたる浸水が発生した。

また、2019年の台風15号、19号はともに関東地方を直撃した。台風15号では、千葉県を中心とした大規模停電や家屋への被害が生じ、台風19号では千曲川の氾濫により北陸新幹線の車両10台が浸水し廃車になるなど各地に甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しい。

これらの台風の被害を(2)の台風被害と比較すると人的被害、建物被害ともに大幅に減少していることが分かり、これは日本各地において防災対策が進んできていることを示している。しかし、2018年2019年と都市部で大きな被害が発生し、メディア等で大きく扱われたことや、近年の地球温暖化に伴う海水温上昇によって台風の大型化が懸念されていることなどから、改めて台風に伴う災害対策への注目度が高まってきている。


図表4 近年の大型台風の概要(2000年以降)
図表4

  1. (資料)デジタル台風をもとにみずほ情報総研が作成

図表5 近年の大型台風経路図
図表5

  1. (資料)みずほ情報総研が作成
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