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技術動向レポート

Virtual Reality技術の最新動向(1/3)

情報通信研究部 上席主任コンサルタント 松崎 和敏


近年、Virtual Reality(VR)技術はハードウェア・ソフトウェアの両面で大きな進化を遂げ、普及が拡大している。ゲームなどのエンターテインメント用途のみならず、製造現場での活用や体験型研修での利用などといったビジネスシーンでの活用も始まり、今後も様々な用途で普及が拡大していくものと見込まれる。

本レポートでは、VR技術の概要を紹介し、最近の技術動向、市場動向について触れた上で、今後の展望についての私見を述べる。

1.xR技術とは?

ない仮想世界を表現・体験できる技術の総称であり、VRはその1つである。xR技術は、視覚や聴覚などで実用化が進んでおり、ここでは視覚を中心としたxR技術についての全体感を概説する。

xR技術は以下の3つに大別され(図表1)、仮想世界を体験する目的や用途が異なる。

  • AR(Augmented Reality:拡張現実)
  • MR(Mixed Reality:複合現実)
  • VR(Virtual Reality:仮想現実)

ARは現実世界の映像に重ねて、仮想世界の映像や文字等の情報を提示する技術であり、スマートフォン等のデバイスを用いて提示されることが多い。スマートフォンのカメラで新聞紙面をかざすと付加情報が実写映像に重ねて表示される「日経AR」はARの活用事例であり、現実世界の映像にキャラクターを重ねて表示する「ポケモンGo*1」もARに分類される。一般的に、利用者は現実世界と仮想世界とを明確に区別できる。

MRは、ARと同様に現実世界の映像や音に重ねて仮想世界の映像や音を提示する技術であるが、ARと比較すると現実世界と仮想世界との融合度が高い。現実世界にある様々なモノの位置を3次元的に把握し、仮想的な3次元のオブジェクトを現実世界と整合するように配置するため、ARよりも現実感が高く、現実空間上に仮想的なオブジェクトが存在していると感じられる。利用者はデバイスを操作しているという感覚が薄れ、仮想的なオブジェクトに触れる、回り込んで様々な角度から見る、地面や机上などに置くといった操作も可能となる。また、仮想世界を複数人で共有することにより、仮想的なオブジェクトを触り合う、動かしあうといった利用もできる。MRを実現するための機器の1つとしてマイクロソフト社のメガネ型デバイスHoloLens*2がある。光線透過率の低いレンズを使用し、このレンズに仮想世界の映像を投影することで、レンズを透過する現実世界の映像と重なり、現実世界と仮想世界が融合した映像を体験できる仕組みである。

VRは、ARやMRとは異なり、現実世界の映像や音を使用せず、仮想世界の映像や音のみを提示する技術である。部屋全体をディスプレイやスクリーンで覆う大型のVR装置(図表2)や、ヘッドマウントディスプレイ(VRヘッドセット)等を用いて仮想環境を提供する。利用者は現実世界から遮断され、仮想世界の映像と音のみを得るため、仮想世界を現実であると思い込んでしまうような高い没入感が得られる。VRは、別世界を体験するゲームや、事故・災害の疑似体験を通じた教育など、現実世界での再現が困難なイベントを提供できる。また、コロナ禍での行動制限を受け、観光事業でのVRの活用も始まっている。

近年のVRの普及は、利用者が体験するためのデバイスであるVRヘッドセット、および、製作者がVRコンテンツを生成するデバイス・ソフトウェアの双方の発展によるところが大きく、価格面においても一般に利用可能な水準まで下がってきている。2章ではVRヘッドセットについて解説し、3章ではVRコンテンツの生成デバイス・ソフトウェアについて解説する。


図表1 AR、MR、VR の特徴
図表1

  1. (資料)国土交通省 観光庁 - 最先端ICT(VRAR 等)を活用した観光コンテンツ活用に向けたナレッジ集(2022年2月9日現在)(PDF/2,400KB)

図表2 大型VR 装置の例
図表2

  1. (資料)独立行政法人 海洋研究開発機構 地球情報基盤センター CAVEシステム

2.VRヘッドセット

本章では、VR体験に用いる専用デバイスであるVRヘッドセットについて解説する。

VRヘッドセットの基本構成は、全視野の映像を提示するためのヘッドマウントディスプレイと頭部の回転と移動を検出するための6自由度の加速度センサであり、ヘッドフォンを備えることもある。VRヘッドセットは利用者の頭の位置や向きを検出し、頭の動きに合わせた映像や音を、遅れや途切れが発生しないようにリアルタイムに提示することで、仮想空間に居るような体験を提供する。なお、VRヘッドセット装着時は現実世界が見えないため、仮想世界の中での操作やシーンの切り替えなどに、手持ちのコントローラ等のデバイスを用いることが多い(図表3)。

VRヘッドセットは1960年代に登場し、以降、様々なデバイスが開発されたものの、Oculus Rift以前のデバイスは一般に広く普及するには至らなかった。画質、視野角、フレームレート、遅延などの課題により、VRに期待される充分な没入感が得られなかったことが、普及に至らなかった大きな理由と思われる。

Oculus VR社(現MetaPlatforms社)は2012年にクラウドファンディングKickstarterを活用して約240万ドルもの費用を調達し、前述の課題を大きく改善して高い没入感が得られるDevelopment Kitを開発した。さらに、この改良版として、解像度やフレームレートを向上させたOculus Rift*3を2016年に発売した。Oculus Riftは$599という手ごろな価格も相まって大きな話題を呼び、約200万台出荷され、後に2016年がVR元年と呼ばれることとなった。その後、Oculus Riftの後を追うようにFacebook、HTC、Valve、SONYなどの企業が様々なデバイスを発表し、それと並行してVRコンテンツが充実していくなど、VR分野は活況を呈した。

高い没入感を得られるレベルの高画質、広視野の映像や音をリアルタイムに提示するためには、相応の処理能力が必要となるが、Oculus Riftが発売された2016年時点では、頭部装着時に違和感の少ない重さ、大きさですべての処理をおこなう普及価格帯での装置の実現は難しかった。そのため、Oculus Riftは外部に接続したパソコンにてVR映像/音の処理を行い、VRヘッドセットでは動き検出とVR映像/音の提示のみを担う、PC接続型VRと呼ばれる構成であった。2018年になり、ヘッドセット内にOSやVR映像処理機能を内蔵し、パソコンとの接続の必要がないスタンドアロン型VRのOculus Go*4などの製品が登場したことにより、VRヘッドセット単体でのVR体験が可能となった(図表4)。

VRヘッドセットは頭部の回転と移動を検出するセンサを備えているものの、回転や移動を繰り返すと実際の頭の位置や向きとの誤差が蓄積する。この誤差の補正方法についても、新たな技術の導入が進んでいる。従来はVRヘッドセットとは別に配置したレーザーセンサやカメラ等の外部センサによって誤差を補正するアウトサイドイン方式が主流であった。後に登場したインサイドアウト方式では、ロボットの位置推定や自動運転に活用されている自己位置推定技術により、VRヘッドセットに搭載されたカメラを使って撮影した周囲の映像の変化から回転と移動を逆算する。このインサイドアウト方式により、周囲が真っ暗で映像変化が乏しい場合などの特殊な状況を除き、VRヘッドセット単体での位置検出が可能となり、外部センサが不要となった。

2016年発売のOculus Riftの大ヒット等、普及型VRヘッドセットを牽引してきたOculus社であるが、他社の参入により2020年の中頃にはxRマーケットでのシェアが30%程度に低下していた。2020年10月に発表されたOculus社の最新版のVRヘッドセットであるOculus Quest2*5では、パソコンや外部センサが不要であり、さらに、価格も4万円程度と手ごろであったため、マーケットシェアを70%以上に大きく伸ばし(図表5)、本稿執筆時点での代表的なVRヘッドセットと言えよう。

性能や使い勝手等、近年のVRヘッドセットの進化は目覚ましく、価格も低下している。今後も発展を続け、VRの普及、拡大を牽引していくものと予想する。


図表3 VR ヘッドセットのハードウェア構成
図表3

図表4 スタンドアロン型VR の利用イメージ
図表4


図表5 デバイスブランドのマーケットシェア(2020年1Q~2021年1Q)
図表5

  1. (資料)Counterpoint Technology Market Research Global XR (VR & AR) Model Tracker, Q1 2021よりみずほリサーチ&テクノロジーズが作成
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