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社会動向レポート

脱炭素社会実現へ向けてのPPP/PFI手法の活用(1/4)

戦略コンサルティング部 主任研究員 加藤 隆一


民間の資金やノウハウを活用して公共事業を実施するPPP/PFI手法は、再生可能エネルギーに係る事業であればもちろんのこと、公共事業全般において、脱炭素社会を実現するために有効な手法であると考える。

1.はじめに

脱炭素社会の実現は世界が直面している課題であり、我が国においても論を待たず、国を挙げて取り組んでいるところである。

公共事業においては、効率的・効果的に事業を実施するために民間の資金やノウハウを活用するPPP/PFI手法が活用されてきたが、筆者は、PPP/PFI手法は、長期・包括・性能発注であるという特性を活かすことで、脱炭素社会を実現する上でも有効な手法になりうると考える。PPP/PFI事業の脱炭素化を効果的に推進するためには、要求水準や審査基準、官民の役割分担等の設定がポイントとなる。

本レポートでは、脱炭素社会の実現に向けた官民を取り巻く事業環境を整理した上で、PPP/PFI事業を通じて脱炭素化を進めるためのポイントや得られた成果を中心に考察した。

2.脱炭素社会へ向けた潮流

近年、脱炭素社会の実現へ向けた取組みが世界的に推進されてきている。COP3(1997年)で採択された京都議定書では、先進国の温室効果ガスの削減目標が定められ、その18年後となるCOP21(2015年)で採択されたパリ協定では、途上国を含む全ての主要排出国を対象とした排出削減の枠組みが構築された。また、昨年度のCOP26(2021年)では、野心的な気候変動対策が求められることとなり、脱炭素社会へ向けた各国の関心は年々高まってきている。

こうした世界的な潮流の中、我が国においても、2050年までにカーボンニュートラルを実現することが宣言され(2020年10月)、脱炭素社会の実現へ向けた取組みが加速している。また、先述のCOP26では、岸田内閣総理大臣が2030年までの期間を「勝負の10年」と位置づけ、全ての締約国に野心的な気候変動対策を呼びかける等、国を挙げての取組みがまさに求められている状況である。

3.国・地方公共団体における脱炭素社会の実現への取組み

脱炭素社会の実現に向けて、国としても様々な施策を講じている。2021年に制定された「地域脱炭素ロードマップ」(国・地方脱炭素実現会議、2021年)*1では、国が掲げる目標実現に向けた対策・施策が取りまとめられている。ロードマップの中では、2025年までの期間を、政策を総動員する集中期間と位置付け、人材・情報・資金の面から、対策の推進を積極的に支援することとしている。

また、2021年5月26日に成立した「改正地球温暖化対策推進法」においては、2050年までの脱炭素社会の実現が法の基本理念として位置づけられた。なお、同法改正におけるポイントは、「(1)2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念に」、「(2)地方創生につながる再エネ導入を促進」、「(3)企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ化」の3点であるが、中でも(1)の視点については、国民、地方公共団体及び、民間企業等の意識を高める上で、特筆すべきポイントであったと考える。

国が推進する脱炭素に係る施策としては、この他にも、「脱炭素事業への新たな出資制度の検討」、「脱炭素に取り組む地方公共団体の支援」、「脱炭素ライフスタイルへの転換」等、国民、地方公共団体、民間企業を巻き込んだ様々な取組みを推進している。

また、地方公共団体でも、国の後押しもあり、2050年の二酸化炭素実質排出量ゼロに取り組むことを表明(ゼロカーボンシティの表明)する団体が増えてきている。環境省が取りまとめたデータによると、2022年6月30日現在、北海道から沖縄に至るまで、749自治体(42都道府県、440市、20特別区、209町、38村)がゼロカーボンシティの表明をしており、表明自治体総人口は約1億1,852万人にも及んでいる*2

各地方公共団体のゼロカーボンシティを実現するための取組内容は、再生可能エネルギー設備の導入、補助金制度の制定、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の導入促進等、様々ではあるが、筆者は公共事業における取組みが非常に重要な意義を持つと考える。地方公共団体として、ゼロカーボンシティを表明し、環境への取組方針を示す中、自ら所管し推進する公共事業は、まさに模範となる取組みを進めるべき事業と考えられるためである。


図表1 地域脱炭素ロードマップ概念図
図表1

  1. (資料)地域脱炭素ロードマップ(国・地方脱炭素実現会議、2021年)*1

4.民間企業における脱炭素化への取組み

民間企業を取り巻く社会環境も、近年、急速に変化してきており、企業の社会的責任を示す、「CSR」(Corporate Social Responsibility)や「ESG(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance))」といった概念が注目されるようになり、企業活動における経営課題の1つとなってきたと言える。加えて、昨今では、「SX」(sustainability transformation)も企業経営において重要視される時代となった。SXとは、『「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化させた上で、企業と投資家の対話において双方が前提としている時間軸を長期に引き延ばすことの重要視した経営の在り方や対話の在り方』を指す用語である。つまり、民間企業としては、短期的な収益を求めるのみならず、サステイナブルな企業経営を行う重要性が一層高まってきていると言えよう。2022年4月には、証券取引市場においても大きな動きがあった。東京証券取引所の市場区分が再編され、大企業向けの市場である「プライム市場」の上場会社は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)又はそれと同等の枠組みに沿った開示が求められることとなっており、各社においても対応が急務となっている。

なお、日本企業の脱炭素経営への取組状況は、世界各国企業と比較してもトップクラスであると言える。図表2にTCFDや温室効果ガス削減目標の指標であるSBT(Science BasedTargets)、再生可能エネルギー調達に係る枠組みであるRE100(Renewable Energy 100%)に取り組んでいる各国企業の状況を示したが、いずれの項目においても、日本が世界の上位を占めており、日本企業の脱炭素経営への関心の高さが伺える。


図表2 脱炭素経営に向けた取組みの広がり
図表2

  1. ※1TCFD、SBT については2022年8月6日時点における数値、RE100については2021年のアニュアルレポートでの数値
  1. (資料)TCFD ウェブサイト*3、Science Based Targets ウェブサイト*4、RE100 annual disclosure report 2021*5、環境省「企業の脱炭素経営への取組状況」*6をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

5.脱炭素社会の実現へ向けた公共事業の取組み―PPP/PFI手法の活用―

これまで述べてきた内容を踏まえると、筆者は、官民双方において、公共事業で脱炭素化へ取り組む意義が高まってきていると考えており、また、公共事業を効率的・効果的に実現することは、脱炭素社会の実現にも大きく貢献することにつながると考えている。

本レポートにおいては、公共事業で脱炭素化を推進するに当たってのPPP/PFIの有効性について考察したい。

(1)PPP/PFI手法とは

2022年6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針)」*7において、社会課題の解決に向けた取組みの1つとして、「民間による社会的価値の創造」(PPP/PFIの活用等による官民連携の推進)が掲げられた。PPP(Public Private Partnership)とは官民が連携して公共サービスを提供する概念を指す用語であり、PFI(Private Finance Initiative)とは「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)に基づく公共事業の事業手法のことを指す。PFIはPPPの手法の一つである。骨太方針においては、今後5年間を、PPP/PFIが自律的に展開される基盤の形成に向けた「重点実行期間」として位置づけており、PPP/PFIの活用は一層広がっていくものと考えられる。

(2)PPP/PFI手法の活用による脱炭素社会への貢献

内閣府が策定した「PPP/PFI推進アクションプラン(令和4年改定版)」*8において、「官民の適切な役割分担の下、民間の創意工夫を活用するPPP/PFI手法は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた脱炭素化、デジタル技術の社会実装等、新たな政策課題への取組みにおいても有効であり、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも寄与すると考えられる。」とされており、PPP/PFIの活用は、脱炭素社会実現という観点においても期待されていることが分かる。なお、PPP/PFIを活用した脱炭素社会への貢献の切り口として、大きく2つの視点があると考える。1点目は、「再生可能エネルギー分野を対象とした事業を、PPP/PFI手法により効率的・効果的に実施すること」であり、2点目は、「PPP/PFI事業全般において、PPP/PFI手法の特性を活かして脱炭素化を推進すること」である。


図表3 従来手法とPFI手法の比較
図表3

  1. (資料)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
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