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社会動向レポート

脱炭素社会実現へ向けてのPPP/PFI手法の活用(2/4)

戦略コンサルティング部 主任研究員 加藤 隆一

6.再生可能エネルギー分野を事業対象としたPPP/PFI事業の概要とその成果

発電施設や省エネ設備を事業対象とした公共事業を実施する場合、それらの事業を実現することが脱炭素化に直結することとなる。昨今、地方公共団体においては、財政状況の悪化や、人手不足といった課題に直面しており、民間のノウハウや経営能力を活用し、持続可能な仕組みで事業を実現させることは、脱炭素社会を実現する上で重要な視点であると考える。こうした事業を対象にしたPPP/PFI手法の事例としては、森ヶ崎水処理センター常用発電設備整備事業(東京都、2001年公募)、津守下水処理場消化ガス発電設備整備事業(大阪市、2005年公募)、黒部市下水道バイオマスエネルギー利活用施設整備運営事業(黒部市、2008年公募)、箱島湧水発電事業(東吾妻町、2014年公募)及び、石狩市厚田マイクログリッドシステム運営事業(石狩市、2021年公募)等があり、発電施設の設置やエネルギーの有効活用を目的として広く実施されてきた。本レポートでは、昨今特に注目されている、「公営水力発電事業」と「洋上風力発電事業」について着目したい。

(1)公営水力発電事業に係る公募概要とその成果

「公営水力発電事業」については、PPP/PFI推進アクションプランにおいても重点分野として位置づけられており、公共施設等運営事業の活用が掲げられている。この場合、新たに発電施設を整備するわけではなく、既存の公営水力発電施設を民間事業者のノウハウを活かし、更新、改修及び、運営していく事業を指すが、老朽化が顕著となってきている既存の施設を適切に更新・改修することでその機能を最大限発揮することは、サステナビリティの観点からも意義が大きい。2022年4月末時点で公共施設等運営事業として事業を開始している公営水力発電事業は「鳥取県営水力発電所再整備・運営等事業」の1件に留まっているものの、PFI事業として実施されることで、定量面・定性面において大きな効果が見込まれている(図表4)。FIT制度(Feed-in tariff)*9の見直し、FIP制度(FeedinPremium)*10の導入が進められていることや、地方公共団体が経営する公営の水力発電施設は全国で310地点*11と多数存在することから、後続の案件組成が期待される。


図表4 近年の再生可能エネルギー事業に係る応札状況
図表4

  1. (資料)鳥取県ウェブサイト*12及び経済産業省ウェブサイト*13をもとにみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

(2)洋上風力発電事業に係る公募概要とその成果

厳密にはPPP/PFI事業ではないものの、我が国において中長期的に産業の発展が見込まれる洋上風力発電事業についても、電力というインフラ事業を民間のノウハウを活かして実現するという点では官民連携事業の一種とも言える。洋上風力発電事業は、再エネ海域利用法に基づき促進区域に指定された海域において、民間事業者が最大30年間の占用許可を得て洋上風力発電を行う事業である。執筆時点における公募の仕組みは、審査基準における価格点と定性点(事業実現性に関する評価)が1対1で配分されており、価格に関する配点が比較的大きいことが特徴となっている。なお、審査基準とは公共発注業務の受託者を選定する際に、応募者に期待する事項を取りまとめた基準である。また、洋上風力発電事業は、地元関係者が多く、多岐にわたる調整が必要なことや、地域経済等への波及効果が大きく期待されること、洋上工事自体の難易度が高いこと等から、事業の実現可能性が担保され、地域との調整や地域経済等への波及効果が挙げられるかという視点も重要となる。

2021年12月には実質的に日本で初めてとなる、洋上風力発電事業に係る公募の結果が公表されたが、本公募においては、供給価格の上限額が29円/kWhと設定される中、選定された応募者の入札価格は、これを大きく下回る11.99円/kWh~16.49円/kWhという結果となった。これほどのコストメリットが得られた点は、特筆すべき成果と言える。

一方で、本公募を受けて、「長期的、安定的、効率的な発電事業の実施が可能か」という観点や「事業の実現可能性」といった観点に照らし、洋上風力発電事業に係る公募のあり方が改めて議論されている最中であり、今後の動向を注視しておく必要がある。

(3)先行事例から見た今後の事業への期待

先に挙げた公営水力発電事業や洋上風力発電事業において共通した特筆事項は、多数の事業者が入札に参加している点である。PPP/PFI事業においては、競争性の確保がしばしば課題となる。その主な理由は、「1.PPP/PFI事業は、事業規模が大きく、提案内容が多岐にわたることから、入札に係る負担が大きい」ことや、「2.専門性が高い業務が業務範囲となっている場合には、コンソーシアムの組成が難しい」ことが挙げられる。しかしながら図表4にまとめたように、洋上風力発電事業においては3海域のうち2海域において5事業者から、公営水力発電事業においては7事業者からの応募があった。いずれの事業についても、「事業規模が大きく、入札参加に係る負担は相応と考えられ」、「発電事業という高度な専門性が求められる事業であり、特に、洋上風力発電事業については国内類似事例が限られていることから、国内外多数の企業で構成されるコンソーシアムを組成する必要があった」ことから、事業参画へのハードルは決して低くはなかったと思われる。

応募者数が多いことは、応募者にとっては競争激化により負担が大きくなることを意味するが、公募主体にとっては、競争原理が働くことにより、民間による創意工夫の発揮が促され、よりよい事業の実現につながるというメリットがある。高いハードルがありながら、これだけ多くの応募者が参画するということは、民間企業は、これらの発電事業を、新たな産業・市場の創出の機会と捉えていると考えられ、今後、産業の更なる発展や技術革新へ繋がることが期待される。

加えて、近年、国土交通省が主体となり「官民連携の新たな枠組みによるハイブリッドダム」*14への取組みが検討されていることや、公共施設における太陽光発電設備設置に係る調査検討業務が数多く発注されていることから、新たな官民連携事業の創出が急速に進んでいくものと考えられる。

7.PPP/PFI事業全般における脱炭素化への取組みを進める意義・ポイント

次に、PPP/PFI事業全般において脱炭素化を進める意義・ポイントについて考察したい。通常、非エネルギー分野のPPP/PFI事業では、脱炭素化はあくまでも付帯的な位置付けとなる。しかし、筆者は、脱炭素社会を実現するためには、PPP/PFI事業「全般」において、民間事業者の各種創意工夫を引き出すことが極めて重要であると考えている。

PPP/PFI手法の根底には民間事業者のノウハウを活かし、公共事業を効率的・効果的に運営し、よりよいサービスの提供を行っていくという考え方がある。従来型の個別発注により、施設の設計・建設、維持管理、運営を民間事業者へ委託する場合、民間事業者の立場においては、設計・建設、維持管理、運営の各段階における、業務の連続性を確保することが難しく、長期的な視野が必要となる脱炭素化への取組を期待することは難しい。また、発注者の立場においても、各地方公共団体の目指す環境目標が達成できるような仕様を検討する必要があるが、設計・建設、維持管理、運営と多くの段階があると、全体目標を踏まえて発注することは容易ではない。一方で、PPP/PFI事業(とりわけPFI事業)においては、長期・包括・性能発注という特徴により、民間事業者による創意工夫の余地が大きくなることから、ライフサイクル全体を見据えた脱炭素化への取組みを期待することができる。

また、PPP/PFI事業においては民間事業者の業務範囲が広くなることが多いため、脱炭素化を推進する上では、民間事業者の担う役割が重要になると言える。一例として、PFI手法の一つであるコンセッション方式が導入された空港における役割分担が挙げられる。コンセッション方式とは、公共施設の所有権を国や自治体に残し、運営権を民間事業者に売却する方式であり、運営に係る民間事業者の裁量が大きいことが特徴である。空港においては空港脱炭素化推進のための計画の策定が求められている中、国土交通省が策定した「空港脱炭素化推進のための計画策定ガイドライン(初版)」*15において、「運営権者については当該空港からの排出量の大半を占めていることから、空港脱炭素化推進のための計画の記載内容の検討にあたっては、運営権者も主体となって大きな役割を果たす必要がある」ことが明記されている。

以下では、これまで公共側の事業者選定支援を受託してきた経験から、PPP/PFI事業において民間事業者に脱炭素化を意識した提案を促すためのポイントを3つ挙げたい。

(1)要求水準書の規定

1つ目は要求水準書の規定である。一般的な公共発注においては、業務の実施方法を細かく規定する「仕様発注」が採用される一方で、PFI事業等においては、民間事業者に求める最低限の要求性能を示す「性能発注」が採用される。

昨今では、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づいて地方公共団体が策定する「地方公共団体実行計画」等において、環境への配慮を求める方針や具体的な目標値が、規定されていることも多い。

例えば、東京都が東京都庁の取組みとして定めた「ゼロエミッション都庁行動計画」*16では、東京都としての取組みの方向性や、温室効果ガス排出量の削減目標値の設定、太陽光発電等の率先的な導入等の行動計画が規定されている。

要求水準書に脱炭素への取組みを規定する場合、大きく分けて図表5に記載した3つの方法が考えられる。

要求性能の規定に当たって課題となるのは、具体性である。要求性能が具体的に示されるほど、事業者としての提案の余地も限定的となる一方で、方針のみに留める場合には、発注者としてどの程度の提案を期待しているのか読み取ることが難しくなり、発注者側の期待と事業者の提案が乖離してしまう可能性が高くなることに留意が必要である。また、要求水準に対し、適切な予算が講じられているかも重要である。高い目標値や具体的な手段が要求水準として規定されていくほど、必然的にその実現に向けたコストは大きくなるため、予算に見合う要求水準を規定することが重要となる。

目標値や手段については、過度な要求はせず、下記の(2)に記載するような審査基準の規定を工夫することにより、事業者側の提案に委ねることも有効であると考える。


図表5 要求水準書への環境への配慮に係る規定(例)
図表5

  1. (資料)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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