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社会動向レポート

脱炭素社会実現へ向けてのPPP/PFI手法の活用(4/4)

戦略コンサルティング部 主任研究員 加藤 隆一

8.PPP/PFI事業による脱炭素化推進に係る展望・課題

これまで述べてきたように、公共事業において脱炭素化を推進することは官民双方にとって意義が高く、またPPP/PFI事業として実施することで、より効率的・効果的に取組みを推進することができると考える。最後に、PPP/PFI事業を活用した脱炭素化について、今後の展望・課題を考察したい。

(1)2025年までの展望

2025年頃まで、本レポートで述べた、「再生可能エネルギー分野そのものを事業対象としたPPP/PFI事業」や、「PPP/PFI事業全般」における脱炭素化に向けた様々な工夫は、従前以上に積極的に導入されるものと考える。これは、政府が2025年までを脱炭素社会の実現へ向けた集中期間として位置づけていることが背景にある。そうした意味では、この期間は、先例のない事業形態の検討や、新たな仕組みの導入等の挑戦が続く期間になると思われる。わが国初の公営水力発電事業となった鳥取県営水力発電所再整備・運営等事業の公募過程では、4回もの競争的対話*31を実施されていることからも、新たな事業の枠組みを構築するにあたっては、官民間の意思疎通を十分に行うことが重要となることが分かる。また、「非再生可能エネルギー分野のPPP/PFI事業」においても、事例で挙げたような環境配慮に係る施策に加えて、余剰地を活用した発電事業等、多様な事業が展開されることになるであろう。

(2)2025年以降の展望

2025年以降については、「再生可能エネルギー分野そのものを事業対象としたPPP/PFI事業」と「PPP/PFI事業全般」についてそれぞれ考察したい。

前者については、2025年時点における2030年度目標の達成状況を踏まえ、実施目標件数が見直された上で、成功事例に倣ったスキームの普及等、取組みが一層加速するものと考えられる。

後者について、考えられるシナリオは2パターンある。

1つ目は、2025年までに推進した各種施策が功を奏し、計画を着実に実行していくことになるシナリオである。この場合、2025年までに推進してきた各種施策は官民双方で定着しつつある状況であることが想定されるため、脱炭素に係る要求水準への規定はより具体的になる一方、審査基準における「環境への配慮」に係る配点は現状維持、若しくは比率が低下すると考える。発注者から事業者へ期待する事項から、事業において当然遵守しなければならない事項に変わっていくことが想定されるためである。

2つ目は、2025年までに推進した各種施策による効果が顕著ではなく、以降の公募では、より環境への配慮が強く求められるようになるシナリオである。この場合は、要求水準への規定はより具体的になることに加え、審査基準に係る「環境への配慮」に係る配点は、一層高まることも想定される。

(3)今後の課題

PPP/PFI事業による脱炭素化の課題としては、提案内容の実効性の担保と、効果検証が挙げられる。提案段階において脱炭素化に資する多様な提案がなされたとしても、提案内容が実現され、期待された効果が発現しなければ、「脱炭素化に資する取組み」であるとは言えない。

提案内容の実効性を担保するため、PFI事業では一般的に「モニタリング」の仕組みが取り入れられており、要求水準書に規定された事項や提案された事項が遵守されていることが確認される。モニタリングは、事業者が自ら業務の履行状況を確認する「セルフモニタリング」と、発注者が業務の履行状況を確認する「発注者によるモニタリング」により構成される。当然、発注者側にも、施設整備や維持管理・運営に加え、脱炭素化に関する専門的な知見が求められることになるが、体制構築は容易ではないことが多い。こうした課題に対しては、事業者によるセルフモニタリングに工夫を求めることや、専門的な知見を有するアドバイザーに助言を求める等の対応が必要である。

また、効果検証においては、いかにデータを蓄積し、客観的な指標で評価できるかという点が重要であると考える。PPP/PFI事業(とりわけPFI事業)においては、長期・包括・性能発注という特徴により、ライフサイクル全体を見据えた脱炭素化が期待できるからこそ、施設全体の状況を定量化し、長期にわたる事業期間の中で事業が改善されていく仕組みを作るべきである。つまり、事業の業務範囲にエネルギーマネジメント業務を含め、事業者側で施設全般に係る各種データを取得できる仕組みを作るとともに、データに基づく事業の改善が促される体制の構築が必要であると考える。

9.おわりに

ここまでに述べてきたように、公共事業において、PPP/PFIの仕組みをうまく活用することで、脱炭素化を一層推進することができると考える。事業対象そのものが再生可能エネルギーに係るインフラ整備等であればもちろんのこと、PPP/PFI事業全般で脱炭素化にシフトすることの社会的意義は大きい。

弊社はPPP/PFI事業に係る数多くの調査業務・アドバイザリー業務等を受託してきたが、社会の要請に伴い変化する取引先ニーズに即応し、我々自身の事業もアップデートし続け、我が国における脱炭素社会の実現に貢献したい。

  1. *1国・地方脱炭素実現会議「地域脱炭素ロードマップ」(2021年6月9日)
  2. *2 環境省ウェブサイト「地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況」(2022年7月22日閲覧)
  3. *3 TCFDウェブサイト(2022年8月6日閲覧)
  4. *4 Science Based Targetsウェブサイト(2022年8月6日閲覧)
  5. *5RE100 Climate group「RE100 annual disclosurereport 2021」(2022年1月)
  6. *6 環境省ウェブサイト「企業の脱炭素経営への取組状況」(2022年7月22日閲覧)
  7. *7内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2022」(2022年6月7日)
  8. *8内閣府「PPP/PFI推進アクションプラン(令和4年改訂版)(2022年6月3日閲覧)
  9. *9FIT制度:Feed-in Tariffの略称で、再エネ発電事業者が発電した電気を、電力会社が一定価格で買い取ることを国が保証する制度
  10. *10FIP制度:Feed-in Premiumの略称で、再エネ発電事業者が売電をする際に、売電価格に対して補助額(プレミアム)が付き、市場価格よりも高く売電することが可能となる制度
  11. *11 公営電気事業経営者会議ウェブサイト(2022年8月8日閲覧)
  12. *12鳥取県「鳥取県営水力発電所再整備・運営等事業に係る民間事業者の選定結果の公表について」(2020年3月30日)
  13. *13経済産業省、国土交通省「「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」における洋上風力発電事業者の選定について」(2021年12月24日)
  14. *14ハイブリッドダムの取組みとは、ダムを活用し、「治水機能の確保・向上」「カーボンニュートラル(水力発電の促進)」「地域振興」の3つの政策目標の実現を図るものである。
  15. *15国土交通省 航空局「空港脱炭素化推進のための計画策定ガイドライン 初版」(2022年3月)
  16. *16東京都「ゼロエミッション都庁行動計画」(2021年3月)
  17. *17CASBEE:一般財団法人建築環境・省エネルギー機構による建築環境総合性能評価システム。建築物の環境配慮に加えて、利用者にとっての快適性や景観等を含めて評価する
  18. *18ZEB:室内環境の質を維持しつつ、建物における年間の一次エネルギー収支をゼロにすることを目指した建築物
  19. *19国土交通省、農林水産省「名古屋第4地方合同庁舎整備等事業 事業者選定基準」(2021年4月26日)
  20. *20東京都「多摩メディカル・キャンパス整備等事業 落札者決定基準」(2021年7月30日)
  21. *21東京都「葛西臨海水族園(仮称)整備等事業 落札者決定基準」(2022年1月12日)
  22. *22名古屋市「名古屋国際会議場整備運営事業 落札者決定基準」(2022年3月30日)
  23. *23福岡市「名古屋国際会議場整備運営事業 事業提案評価基準」(2022年7月20日)
  24. *24一般社団法人日本ビルエネルギー総合管理技術協会「建築物エネルギー消費量調査報告【第43報】(2021年6月)
  25. *25内閣府「PFIにおける地球温暖化防止への対応」(2008年6月)
  26. *26内閣府「PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン」(2021年6月18日)
  27. *27MICE:企業等の会議(Meeting)、企業等の行う研修・報奨旅行(インセンティブ)(IncentiveTravel)、国際会議(Convention)、展示会/イベント(Exhibition/Event)の頭文字を取った造語のこと。
  28. *28ICCA「3 major trends shaping the evolution ofvenue services」(2019年5月28日)
  29. *29国土交通省、農林水産省「名古屋第4地方合同庁舎整備等事業 民間事業者選定結果」(2022年1月31日)
  30. *30東京都「多摩メディカル・キャンパス整備等事業 審査講評の公表について」(2022年3月30日)
  31. *31競争的対話:公募段階において、発注者と民間事業者の意思疎通を十分に図り、公募資料等の解釈を明確化することを目的とした官民間の対話
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