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多くの企業で“脱ハンコ”が進行中

「電子契約サービス」選定のポイント

2023年6月
技術開発推進部 柳井 裕太郎

2020年初頭からの新型コロナウイルス拡大に伴い、企業では「テレワーク」の推進と共に様々なクラウドサービスの試行や導入を行ってきました。また、法改正に伴い、改正電子帳簿保存法(24年1月施行)による契約書の電子保管や改正宅地建物取引業法(22年5月施行)による不動産取引における電子契約の利用開始など、電子契約の分野ではこれからもデジタル化(脱ハンコ)が進んでいくと予測されます。

今回はそんな電子契約について、日本での利用状況、電子契約の概要と導入メリット、電子契約サービスを選ぶポイントについてご紹介をさせていただきます。

日本での利用状況

まず、電子契約を新規導入した企業の規模別推移を図1に、企業規模の割合推移を図2に示します。


図1 年度別 新規導入企業_規模別推移
図1


図2 年度別 新規導入企業規模_割合推移
図2

出所:GMOグローバルサイン・ホールディングス(株)提供資料よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成


図1から日本での電子契約の導入は大企業(※従業員数100名以上)が先行しており、2020~2023年には新型コロナウイルス感染拡大後に電子契約を利用し始める企業が急速に増えていると推測できます。図2からは、その急速に増加した2020~2023年において大企業が60%前後を占めていることが分かります。また、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が公開している「企業IT利活用動向調査」によると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前(2020年1月時点)に43.3%であった電子契約導入率が、2020~2023年1月には74.0%まで増加。テレワーク・ペーパレス化の推進とともに、この3年間で電子契約が急速に普及していると推測されます。

参考:一般財団法人日本情報経済社会推進協会 「企業IT利活用動向調査」結果

業種別では、コロナ禍初期(2020~2021年)はDX対応が早かった広告、情報通信サービス、法人サービス等の業界で普及が進み、2022年は法整備のあった不動産業界、電子化が進む公共サービスでの導入が増えています。その他、利用されている契約書や文章の観点では、各種法令の改正が進んでおり、一部を除いて、ほとんどの文書で電子契約が利用可能になっています。

■電子契約が利用できる文書の例
・物品の売買に関する売買契約書
・秘密保持契約書
・業務委託契約書
・誓約書や覚書
・賃貸借契約書
・雇用契約書

上記以外に電子契約の利用にあたって、相手方の同意が要件となっている契約類型もあります。例えば、建築業法では、建設工事の請負契約を電子契約で締結する場合には相手方の承諾を求めています(建設業法第19条3項)。

現状では、社会の新型コロナウイルスへの向き合い方が変化し、対面でのコミュニケーション機会に関する制限は緩和されていく傾向にありますが、2020年以降社会に新たに浸透した行動様式は、私たちに従来の慣習の必要性を改めて考えさせるきっかけを提供してくれました。ハンコが真に求められる場面では今後も使用が続いていくと予想されるものの、「今まで慣習としてそうしていたから」という理由でハンコを使用していたような場面では、電子契約への移行が進んで行くものと思われます。

電子契約の概要と導入メリット

改めて電子契約とは、「紙+押印」に代わり「電子文書+電子署名」で締結する契約を指します。電子契約では、電子的に作成された文書と「電子署名」を組み合わせることで、紙で作成された文書に押印した場合と同様の法的効果を持たせることができます。文書が真正に成立したことを証明するためには、「誰が」「どんな内容について」「いつ」合意したのかを確認できることが重要であり、電子契約では、電子署名とタイムスタンプという技術によってこれらを証明しています。

次に電子契約を導入する企業のメリットですが、それは「コスト削減」「印鑑レスによる業務効率化」「ガバナンス強化」の3つであると言われています。

1.コスト削減

従来の紙の契約書で必要となる費用(用紙代・印刷費、複数ページの契約書の場合は製本や各ページへの割印などの作業コスト、押印手続きのための送料・交通費、契約後の保管スペースなど)が電子契約では不要になります。また、印紙税の削減効果も大きく、印紙税は印紙税法で定められた文書に対してかかる税金で、領収書や請負に関する契約書といった身近な文書も対象になります。電子契約で用いる契約に関する情報をまとめた電子データは印紙税法でいう「文書」に該当しないため、電子契約では印紙税を支払う義務はありません。


図3 電子契約利用によるコスト削減効果
図3

出所:GMOグローバルサイン・ホールディングス(株)提供資料よりみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

2.印鑑レスによる業務効率化

電子契約ではすべての情報を電子データでやり取りできるため、紙の文書に比べて契約に関する作業時間の削減効果が期待できます。決裁手続きでは、紙の書類を準備して決裁権者一人ひとりに順番に確認してもらうのは非効率で時間を要するのですが、電子データであれば、いつでも必要な人が情報を確認、決裁できるため手続きのスピードアップが見込めます。また、管理上のメリットとして、紙の契約書の場合、一旦保管スペースに移してしまうと後になって目的の書類を探すときに手間を要するのですが、電子データであれば、サーバー等に保管することで必要な情報を簡単に検索できます。

3.ガバナンス強化

契約書という事業上重要な情報を電子データとして管理することで、情報へのアクセスを管理、監視することが容易にできます。電子データへのアクセス権限を適切に管理し、必要な人だけが情報を確認できるようにすることは機密保持の重要なステップです。電子契約サービスの中には、自社のワークフローを設定して社内承認を経た上で相手側に署名依頼を送付する機能を持つものもあり、誰が、いつ、どのような改変を加えたかを電子データに記録することで、社内での取り扱いを透明化し、情報が適切に管理されていることを検証できます。

電子契約を選ぶポイント

前述の電子契約のメリットを最大限得るためには、電子契約そのものに加えて、電子契約に関連する各種機能が充実している、または自社のニーズにマッチしているサービスを選ぶことが重要です。具体的に、電子契約サービスを選ぶ際に気を付けるべきポイントは、「機能面」「電帳法等の法令対応」「サポート体制」「費用対効果」の4つです。

1.機能面

電子署名には、電子メール認証により、本人性を担保する「契約印タイプ」と電子認証局が厳格に本人確認した電子証明書で本人性を担保する「実印タイプ」の2種類があり、契約の性質や、本人確認の必要レベル、契約相手の負担等に応じて署名タイプを選ぶことが重要です。自社は実印タイプで内部統制を守った署名をし、相手側には負担の少ない電子メール認証による署名(契約印タイプ)で契約してもらうハイブリッド署名を可能にしているサービスもあります。また、PCだけでなくスマートフォンにも対応していれば、より機動的な契約手続きが実現します。その他、電子契約ができることだけでなく、ワークフロー設定など電子データの取扱い(閲覧、改変、送信)に関する機能の有無も重要な確認ポイントです。


表1 電子署名の種類
表1

*1立会人型・・・電子契約システムでメール認証などを行い、サービス事業者の電子証明書で署名
*2当事者型・・・電子認証局により本人確認・発行された、署名者本人の電子証明書により署名

2.電帳法等の法令対応

事業で扱う重要な文書の保管方法は各種法令によって定められており、電子データの保管に関しては電子帳簿保存法という法律があります。文書を適切に保管できていない場合、青色申告承認の取り消しや追徴課税といったペナルティにつながる恐れもあります。さまざまな種類の文書に対して各種法令の規定をそれぞれ確認することは困難なので、文書に応じて適切な管理をサポートしてくれる電子契約サービスの有用性は高いと言えます。

3.サポート体制

電子契約サービスを最大限活用するためには、電子契約に関する知識が豊富なスタッフによるサポートが受けられるかどうかも重要なポイントです。契約に関しては自分達だけでなく相手企業もいますので、相手企業に対するサポート対応まで可能かどうかもポイントになります。企業ごとに業務課題や運用体制(電子契約に詳しい人材等)は異なり、電子契約を導入する際に気を付けるポイントも異なりますので、実態に応じたアドバイスを提供してもらえる事業者を選択することで、企業負担を軽減しながら電子契約のメリットを享受できます。

4.費用対効果

電子契約サービスは固定料金(月額基本料)+従量料金(送信料、ID数)で構成されているものが多いので、必要な機能を追加するオプションや契約件数、ID数に応じた従量制料金設定などを考慮し、自社のニーズに合った電子契約サービスを選択することが肝心です。概算費用を自社の送信数(契約件数)や利用する社員数をもとに把握したり、すべての機能が必要なのか考慮することが大切です。

最後に

日本のハンコ文化は、コロナ禍によって加速した電子化の流れによって大きな転換点を迎えています。

リモートワークや地理的要因にとらわれないビジネス展開が当たり前となった現代では、ハンコに代わる方法である電子契約の利用が今後もますます拡大していくと見込まれます。電子契約を上手に利用することができれば、コストの削減、業務の効率化、ガバナンスの強化といったメリットを得られますので、本レポートが皆様の業務ニーズに最適な電子契約サービス選びのお役に立てば幸いです。

  • *電子印鑑GMOサインは、GMOインターネット株式会社の登録商標です。
  • 本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。
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