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社会動向レポート

技術を起点とした新規事業開発における特許分析の活用(1/2)

経営コンサルティング部 舟橋 豊


はじめに

経営コンサルティングに関し数多のご相談を承る中で、昔も今も非常に多い内容の一つが、新規事業に関するご相談である。国内市場が成熟し、少子化の傾向も相まって、企業にとっては将来に向けて大きな成長を描きにくい環境下において、自社はどうあるべきか、何をすべきか。既存事業が軌道に乗っている企業こそ、そういった悩みは尽きない。新規事業は、企業にとっての永遠の課題ともいえる。

このレポートでは、最近特に相談や問い合わせの多い製造業にとっての新規事業開発のあり方、特に自社技術の優位性分析において特許分析を活用する手法について考察したいと思う。

1. 製造業において新規事業開発が注目される背景

経営コンサルティングの現場では、昨今そのような新規事業に関する関心が、特に製造業においてこれまで以上に熱を帯びているように感じられる。いつの時代でもホットイシューである新規事業開発ではあるが、最近では以下のような背景があるものと考える。

背景①:革新的事業構造変化の文脈

一つ目は、様々な業界で起きている革新的事業構造の変化の文脈であり、その最も端的な例が自動車産業である。

ガソリン車からEV車への転換という自動車産業始まって以来の大変革時代を迎え、我が国にとっての基幹産業と言える自動車関連産業は、川上から川下まで大きな変革を迫られている。完成車メーカーやそれを支えるTier1、Tier2といった部品メーカーだけでなく、素材メーカーや加工メーカーなど非常に幅広い業界において、将来的に今の仕事がなくなってしまうのではないかという脅威が広がっている。それと同時に、これまで自動車産業とは縁遠かった業界や企業の中に、この変革時に自社の技術が必要になるのではないか、と動き出している企業も存在する。

時代が動くときには、必ず脅威と機会が生まれる。未曽有の大変革時代を迎え、自動車産業に関連する企業も、そうではない企業も、それぞれの視点で新規事業開発の必要性とチャンスが生じている。

背景②:サステナビリティ意識の高まりの文脈

二つ目は、世界的な動向を受けて注目の集まるサステナビリティ意識の高まりの文脈である。

ご承知の通り、脱炭素の動きは今後世界中でより普遍的なものとなっていく。売上利益優先のこれまでの経済活動の論理だけではなく、脱炭素への取り組みがこれからの企業の説明責任となっていく中で、現状の排出量を把握し、より削減していくための技術や工夫が求められてくる。そこに新たな技術や事業のチャンスが産まれるのだ。

背景③:デジタル・トランスフォーメーション(DX)の文脈

最後にデジタル・トランスフォーメーション(DX)の文脈である。

新型コロナウイルスによる経済活動の変化は、結果としてDXをより加速させ、浸透を速めた結果となった。それ以前にも進められてきたデジタル化の流れは、新型コロナによる外出や移動の制限によって、半ば強制的にデジタルの効果を実感させられる“実験場”を得て、シナリオが一気に加速した感がある。

デジタル化による企業活動の効率化、さらにはデジタルと事業を融合することによる新たな事業の開発に対する関心は、業種を問わず多くの企業の間で高まり続けている。

数年前、「両利きの経営」という書籍が大きな注目を浴びた。この本の中では、既存事業の追求・深化と、新規事業の探索・挑戦の両方を不断なく継続していくことが、企業経営にとっての大きなミッションであることを説き、その困難性や課題克服のために意識すべきことが提言されていた。既存事業の深化と新規事業の探索の両立には経営者のリーダーシップと戦略、価値観の共有、幹部の結束に基づく、組織としての強い推進力が不可欠であることを、詳しい事例と共に解説している。

新規事業に王道はなく、「これをすれば必ず成功する」という魔法は存在しない。しかし、先人たちの経験からより成功率が高い新規事業開発を考えるための筋道は存在する。このレポートでは特に製造業にフォーカスし、製造業にとって重要な経営資産である技術を活用した新規事業開発の手法として、特許分析を活用する方法について考えていきたい。

2. 技術起点の新規事業開発とは

新規事業を語るうえでよく使われるフレームワークに、『アンゾフのマトリックス』がある。経営学者のイゴール・アンゾフが1957年に提唱したフレームワークで、縦軸に「市場」、横軸に「製品」を取り、それぞれに「新規」「既存」の2区分を設けて、図表1のような4象限に分割したものである。ここでは「製品」を、「技術・製品」に置き換える。

いわゆる新規事業開発は、市場もしくは技術・製品のいずれかに「新規」を含む象限、つまり「新規市場開拓戦略(既存技術・製品×既存市場)」「新技術・新製品開発戦略(新規技術・製品×既存市場)」「多角化戦略(新規技術・製品×新規市場)」の3つの象限を指す。新技術・新製品の開発や新規市場の開拓はいずれもリスクを伴うものであるため、その両方を備える「多角化戦略」は、新規事業開発の中でも最もリスクの高い戦略と考えられる。市場と技術・製品のどちらかは、既存事業の事業資産を活用したほうが成功率の高い事業となりやすいといえる。

製造業にとって、技術は最も重要な事業資産の一つである。長年の研究開発活動や生産現場の経験と努力などから生まれた技術を核とした新規事業開発は、他社の追従が難しく、持続的に差別化優位が実現できる新規事業戦略の策定につながりやすい。先のアンゾフのマトリックスに準じていえば、自社の技術を活かせる新たな市場分野を探索する「新規市場開拓戦略」が、製造業にとって最も有効な新規事業戦略となり得ると考える。

過去の例を紐解けば、写真フィルム事業で培った化学技術を化粧品・医薬品・再生医療等に活用して事業の大転換を図った富士フィルムや、繊維産業から自動車ブレーキ、そしてエレクトロニクスへと発展した日清紡などは、自社の強みの技術を見極め、その技術を核にして事業領域を拡大させた好事例である。大企業ではなくとも、磨かれた基盤技術を持った中小企業が、その技術を活かして既存事業とは全く異なる事業を見出した例も数多く存在する。


図表1 アンゾフのマトリックス
図表1

  1. (資料)各種文献等を参考にみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2は、一般的な新規事業開発プロジェクトのフローを示している。Step1の事業アイディアをブレイン・ストーミングによって幅広く集め、Step2でその中からアイディアを選定・ブラッシュアップしながら絞り込み、Step3では絞り込まれたアイディアを元に事業構想をプランニングする、という段階を踏むものである。

言うまでもなく、新規事業開発の成功は、良質な事業アイディアを生み出すことができるかどうかがカギとなる。Step1において事業アイディアの創発においてはブレイン・ストーミングによるアイディアの質と量の担保が大きな課題となる。より多角的で自由な発想による事業アイディアを創出するためには、ブレイン・ストーミングによってより多くのアイディアを集めることが望ましいが、何の手掛かりのない中でただアイディアの数を増やしたとしても、新事業につながる良質なアイディアが生まれにくいという面もある。


図表2 一般的な新規事業開発のフロー
図表2

  1. (資料)各種文献等を参考にみずほリサーチ&テクノロジーズ作成

筆者は技術起点の新規事業開発において、図表3のフローのように、アイディア創出の前に自社技術の強みを今一度整理し、その技術が既存市場以外の分野でどのような価値を生む可能性があるかを分析するプロセスを重視している。


図表3 技術を起点とした新規事業開発のフロー
図表3

  1. (資料)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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