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Mizuho RT EXPRESS

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消費の落ち込みと生産・物流の停滞が鮮明に

─ 経済指標で見る上海ロックダウンの影響 ─

2022年5月18日

調査部アジア調査チーム 主任エコノミスト 月岡直樹
naoki.tsukioka@mizuho-rt.co.jp

上海の経済活動が麻痺。景況感は急激に悪化、消費も大きく落ち込み

2022年3月28日に始まった上海の都市封鎖(ロックダウン)が長期化し、中国経済に大きな打撃を与えている。上海市政府は当初、市を東西に分けてそれぞれ4日間封鎖し、大規模なPCR検査で陽性者と濃厚接触者を洗い出す考えであったが、無症状を含む感染者が多数見つかり、感染拡大が収まらなかったため、そのままロックダウンを継続した。開始から50日が経過し、上海での感染は収束に向かいつつある(図表1)。上海市政府は、5月16日より商業施設の営業を段階的に再開させており、5月22日以降に外出制限を順次解除し、6月中には市民生活と生産活動を正常化させる見通しを示している。

長江デルタという世界の一大産業集積地の中心に位置し、金融・国際貿易の大動脈である上海の経済活動が麻痺した影響は、経済統計に色濃く現れている。上海のロックダウンを受けて全国各地で感染対策が厳格化されたこともあり、景況感は急激に悪化し、購買担当者景気指数(PMI)は製造業・非製造業ともに2020年2月以来の低水準となった(図表2)。特にサプライヤー配送時間が節目の50を大きく下回る37.2まで低下(リードタイムが長期化)する一方、完成品在庫が50.3と、2013年3月以来初めて50を上回る水準まで膨らんでおり、後述するように物流の停滞が大きく影を落としていることがみてとれる。

図表1 新型コロナ国内新規感染者数

(注)無症状感染者を含む。7日間移動平均。直近は5月16日
(出所)国家衛生健康委、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 購買担当者景気指数(PMI)

(出所)国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

消費の落ち込みも激しく、4月の社会消費品小売総額は前年同月比▲11.1%となった(図表3)。店舗営業や外出の制限等を受け、新車販売台数が同▲47.6%減少したほか、飲食消費も同▲22.7%と落ち込んだことが響いた。また、省を跨ぐ移動を制限・自粛する動きが強まり、労働節休暇(4月30日~5月4日)の旅行者数はコロナ前の7割以下に、旅行収入に至っては5割以下に落ち込んだ(図表4)。

図表3 社会消費品小売総額・新車販売台数

(注)2021年は2019年対比の平均成長率(年換算)
(出所)国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 長期休暇時の国内旅行者数・旅行収入

(出所)文化旅行部より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

人とモノの移動制限が最大のネック。国内外のサプライチェーンに影響

上海市内の工場はロックダウンにより軒並み稼働停止に追い込まれたが、一部の工場は従業員を工場敷地内に寝泊まりさせ、外部との接触を遮断する「クローズド・ループ(閉環)」方式をとって生産を続けた。上海市には自動車や半導体、電子機器受託製造(EMS)等の大手企業が生産拠点を置いており、生産の停止・制限は国内外のサプライチェーンに混乱をもたらしている。実際、物流の寸断も相まって上海からの部品供給が滞った日本の完成車メーカーは、日本国内工場の稼働を一時停止せざるをえなくなった。事態を重く見た上海市当局は4月中旬以降、生産企業を順次ホワイトリストに掲載し、厳格な感染対策を義務付けた上で稼働再開を許可した。5月13日時点で市内の一定規模以上の工業企業9,000社超のうち4,400社以上が生産を再開した模様である。4月の全国の工業生産は同▲2.9%となり、半導体生産は同▲12.1%、自動車生産に至っては同▲46.1%の落ち込みとなった(図表5)。

市民生活においても生産活動においても、一番のネックとなっているのは人とモノの移動制限である。封鎖措置により各地で交通が遮断され、物資を運ぶトラックも許可証がなければ通行できない状況となった。市内交通だけでなく、全国各地で道路封鎖や運転手隔離等の感染対策がとられたことにより長距離輸送に支障が出ており、中央政府は全国統一の通行証を発行する等の措置をとって物流の円滑化を図らざるをえなくなった。上海の道路運輸貨物量指数はロックダウン以降、平常時の2割以下に落ち込んだ状態が続き、足元ようやく回復の兆しがみえる(図表6)。市内の企業は順次、生産活動を再開しているものの、外出制限が続き従業員の復帰が思うように進まないことや、原材料の供給と完成品の出荷が滞っていることから、全面稼働にはほど遠い状況にある工場も少なくないとみられる。

図表5 工業付加価値・自動車生産・半導体生産

(注)2021年は2019年対比の平均成長率(年換算)
(出所)国家統計局、中国汽車工業協会、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表6 道路運輸貨物量指数・交通混雑指数

(注)道路混雑指数は、全く障害のない状態での到達時間を1とした場合の実際の到達時間。7日間移動平均。直近は5月16日
(出所)高徳地図、Windより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

海上輸送に目を向けると、4月の上海港のコンテナ取扱量は同▲17.1%の308万TEUにとどまった。上海港は世界一のコンテナ取扱量(2021年4,703万TEU)を誇り、中国全体のコンテナ取扱量の16.6%を占める。港湾はロックダウン以降も正常に稼働しているが、港湾に出入りするコンテナトラック等の通行が制限を受けたため、上海港とその周辺海域で貨物・船舶が滞留している状況とみられる。これは、上海の後背地である江蘇省等の企業による貿易活動も停滞していることを意味する。物流各社は、上海港への搬出入に内陸水路を活用したり、船積地・寄港地を寧波舟山港等の周辺港に切り替えることで急場をしのいでいる。

ゼロコロナ政策は当面不変。上海経済の正常化で供給網がひっ迫するおそれも

経済の急減速を前にしても、中国政府はコロナ封じ込めを徹底する姿勢を崩していない。習近平総書記は、5月5日の党中央政治局常務委員会の会議において、「動態清零(ダイナミックゼロ)の総方針を揺るぎなく堅持し、断固としてわが国の防疫方針・政策を歪曲、懐疑、否定する一切の言行と闘争する」と強調している。秋の党大会を控えて、ゼロコロナ政策が変更される可能性はないといえる。上海で感染拡大を許した反省から、複数の都市で予防的なロックダウン措置がとられており、大規模な感染拡大が再発する可能性は下がっているが、感染対策の厳格化は経済活動の阻害につながるため、景気の下押し圧力が今後も続くことになる。

前述のとおり、上海は6月中に正常化する見込みだが、混乱した生産や物流の全面復旧にはなお時間を要するとみられる。経済活動の正常化後は、ロックダウンによる遅れを取り戻すための挽回生産によって物流が活発化し、リベンジ消費も手伝って、ただでさえタイトなサプライチェーンをさらにひっ迫させるおそれがある。エネルギーの需要が急回復すれば、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた資源高がさらに進む可能性もある。感染収束後も上海ロックダウンの余波は続きそうである。

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