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Mizuho RT EXPRESS

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中国経済に忍び寄る人口減少の影響

─ 影響強まる2030年代に向け、残された時間は少ない ─

2022年11月4日

調査部アジア調査チーム 上席主任エコノミスト 伊藤秀樹
hideki.ito@mizuho-rt.co.jp

党大会で強調した「人材育成」は人口減少への危機感も

中国共産党は、5年毎の全国代表大会(党大会)を2022年10月に開催し、習近平氏をトップとする3期目の指導部を発足させた。今後5年間の政策方針等を示す中央委員会報告(以下、「報告」)のなかで経済分野に焦点を当てると、従来の方針から大きな変化は見られなかった。第3章に示される中長期的な発展の大枠では、2035年までに「1人あたりGDPを中等先進国の水準に到達させる」という従来の目標を繰り返し掲げ、経済政策では、質と効率の向上に基づく持続的成長を目指す第14次五カ年計画(2021年~2025年)を踏襲するものが列挙された(今般の党大会の全体感及び解説については、月岡直樹(2022年)を参照)。

ただし、経済発展の基礎をなす人材育成については、報告の中に新たな章を設けたことが注目される。人材を「第一の資源」と位置付け、青少年への教育から高度人材の育成支援まで幅広く人材戦略に踏み込んでいる。人材育成を通じて経済的な生産性や効率性の向上を狙うものだ。

人材育成に注力する背景には、今後、中国で予想される人口減少への危機感があろう。2022年7月に発表された国連の人口推計「World Population Prospects 2022」によれば、中国の総人口の減少は、前回(2019年)推計より10年前倒しされ、早くも今年から始まるとしている(以下、人口に関する記載は、特段の明示がない限り、国連の推定値及び中位推計値を指す)(図表1)。また、出生数の減少と、医療の進歩等による平均寿命の延びをうけて高齢化率は上昇し、2023年には、65歳以上人口が総人口の14%超を占める高齢社会へ突入する。わずか11年後の2034年には超高齢社会(高齢者比率21%超)になることが見込まれ、世界でも早いとされる日本の移行ペース(高齢社会:1994年~超高齢社会:2007年)を上回る早さだ。

人口減少による経済下押しは2030年代に本格化

中国では国勢調査を10年毎に実施しており、2020年までの人口統計が2021年に公表され、抽出調査をもとにした2011年~2019年のデータが改定された1。先の国連による推計値は、この国勢調査の結果を反映している。

中国の国勢調査を反映した今回(2022年)の国連人口推計と、反映していない前回(2019年)の推計を比較することで、多岐にわたる示唆が浮き彫りとなる。なかでも、中長期的な経済成長の観点から3つの点に注目したい。

一つ目は、15歳未満の人口が大幅に下振れている、すなわち出生数が大幅に下方修正されている点である(図表2)。2025年時点で、2,172万人、2030年時点で4,575万人の下振れが確認できる。2030年時点の下振れ幅は、総人口の約3%に相当し、無視できない規模である。この背景としては、足元で少子化が加速していることが挙げられる。中国では一人っ子政策の軌道修正を2010年代前半より実施し、二人目を容認するなどしてきたが、国連の推計によれば2018年以降、合計特殊出生率は低下の一途をたどる(図表3)。2021年の出生数は1,088万人と、コロナ禍前の2019年対比で375万人減少している2

図表1 人口動態と国連予測

(注)国連の先行きは中位推計
(出所)中国国家統計局、国連、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 15歳未満人口

(注)先行きは中位推計
(出所)国連より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表3 合計特殊出生率

(出所)国連より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

二つ目は、15~64歳の生産年齢人口について、2035年までの下方修正幅は限定的である一方、2035年以降の下振れが大きい点だ(図表4)。一つ目で述べた出生数の減少が2035年以降の生産年齢人口に大きく影響するからだ。同人口は、2016年より既に減少に転じており3、2035年までは年率▲0.42%、2035年~2050年は同▲1.28%のペースで減っていく見込みだ。生産年齢人口の減少は、中国の中長期的な潜在成長率の下押し圧力として作用する。

最後に、住宅購入層といわれる30代人口が、2030年以降に下振れている点である(図表5)。2019年時点の予測でも、2030年代にかけて減少が見込まれていたが、それを下回ることで住宅需要の追加下押しの可能性が出てきた。建設業を含む広義の不動産関連の産業はGDPのおよそ3割を占め、住宅需要の低下が、2030年代の経済成長の足かせとなる可能性がある。

以上を踏まえると、人口減少の経済への下押し圧力は徐々に現れ、本格化するのは2030年代以降と考えられる。中国政府は、人口減少に対して産児制限の緩和や子育て世代に対する個人所得税軽減、休暇制度の拡充といった少子化対策を打ち出している。しかし、少子化対策が効果を現すには時間を要するだろう。また、近年にみられる子育て負担の増加や、晩婚化や結婚しても子供をもうけない「DINKs」といった若年層における価値観・ライフスタイルの変化を考慮すると、少子化対策が必ずしも目指した成果を上げるとも限らない。

そのため、今後5年間に人材育成を通じて青少年・現役世代の生産性を底上げすることが、2030年以降の経済成長率を左右する重要な要素となる。忍び寄る人口減少による経済的影響を跳ね返すことができるのか、3期目を迎えた新しい指導部に残された時間は少ない。

図表4 生産年齢人口伸び率(前年比)

(注)先行きは中位推計
(出所)国連より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表5 30代人口

(注)先行きは中位推計
(出所)国連より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

[参考文献]

月岡直樹(2022)「『強国』路線を継続する中国~3期目を始動させた習近平指導部が直面する課題~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2022年11月2日


  • 1 日本経済新聞社「中国、人口14億人超を2年前倒し修正 高齢化不安消えず」(2021年6月3日)
  • 2 国連による推計値。中国国家統計局によれば、2021年の出生数は1,062万人と発表
  • 3 中国国家統計局によれば、生産年齢人口は2014年より減少に転じている
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