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Mizuho RT EXPRESS

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ユーロ圏PMIはサービス業も「縮小」間近

─ 7月はインフレに加え熱波がサービス消費を下押しか ─

2022年7月29日

調査部経済調査チーム 上席主任エコノミスト 江頭勇太

7月PMIは1年5か月振りの低水準

7月22日に公表されたユーロ圏の7月PMIは49.4(6月52.0)へと大幅に低下し、2021年2月以来の中立水準(50)割れとなった。これは企業活動が「拡大」から「縮小」に転じたことを表す。業種別に見ると、新規受注や生産の減少を受けて製造業PMIが大きく落ち込んだほか、これまで相対的に底堅かったサービス業PMIも50.6とほぼ中立水準まで低下した(図表1)。公表元のS&P Globalによると、サービス業については、インフレによる生活費の上昇に加え、当月は熱波とそれに伴う火災などが下押しに寄与したという。

図表1 PMIの推移

(出所)S&P Globalより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

平年比+10℃超の気温を記録する地域も

欧州では6月~7月中旬にかけ熱波が襲来し、英国などで気温が40℃を超える地点も出るなど、複数の地域で観測史上最高の気温を記録した。こうした中、熱波による山火事でスペインなどでは数万人規模の住民が避難を強いられたほか、高齢者を中心に熱中症による死者も多発した。WHO(世界保健機関)によると、スペインとポルトガルだけで1,700人以上の死者が出ているという。

図表2は、EU27か国+英国について、今年7月1日~22日までの平均気温の平年(2018~21年)比を見たものである。今年は多くの地域で気温が平年を上回っており、特にスペインやポルトガルは平年比+3℃弱、フランス、ドイツ、英国でも同+1~2℃程度となっている。日次ベースで見ると、7月18~19日にかけ多くの地域で気温が急上昇し、フランスや英国などでは平年より+10℃以上高い気温を記録した地域もあった。

図表2 7月の欧州の気温

(注)EU27か国+英国を図示。今年7月1日~22日の平均気温の平年(2018~21年)比。気温は原則として首都のものを使用し、首都のデータが得られない場合は首都と地理的に近い地点の気温を使用した
(出所)気象庁より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

熱波は外食需要を▲1%程度下押し

熱波はどの程度サービス消費を下押ししたのか。ここでは、外食需要(レストラン予約数)と連動性が高く、地域別の日次データが公表されているモビリティ・データを用いて熱波の影響を分析したい(図表3)。

図表3 モビリティと外食需要(ドイツ)

(出所)Google、OpenTableより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

具体的には、ユーロ圏5か国(ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル)+英国の主要都市を含む計23地域について、6月1日~7月22日の日次パネルデータを用いて、気温(平年比)の上昇がその日のモビリティに与える影響を回帰分析により推定する。推定に当たっては、気温が高い時ほどそこからさらに1℃上昇した場合のモビリティへのインパクトが大きくなるとの想定の下、回帰直線の傾きがある閾(いき)値で屈折するようなモデル(区分線形関数)を用いた。

推定結果によると、気温(平年比)の上昇はモビリティを有意に押し下げる(図表4)。具体的には、気温の平年比が+0~5℃の区間では、気温が1℃上昇するごとにモビリティが▲0.5%程度押し下げられる。さらに、気温の平年比が+5℃以上と極端に暑い状況下では、気温の追加的な上昇によるモビリティ下押し効果は▲0.9%程度と約2倍になる。なお、説明変数として気温の他に降水量や曜日ダミーを加えた分析も行ったが、気温の回帰係数に大差は出なかった。

図表4 気温とモビリティの関係

(注)地域別×日別のパネルデータを用いて固定効果モデルにより推定した。推定期間は2022年6月1日~7月22日、回帰係数は全て5%水準で有意。図上のモビリティは固定効果除去後
(出所)気象庁、Googleより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

既述の通りモビリティと外食需要(レストラン予約数)は密接に連動しており(両変数の弾力性は1程度)、モビリティの低下はそのまま外食需要の減少につながり得る。こうした弾力性と、回帰分析で得られたパラメータ、及び7月の気温の実績値をもとにすると、熱波によって7月の外食需要はユーロ圏で▲0.9%、英国で▲1.4%程度下押しされた計算になる(図表5)。ユーロ圏の中でも、特に気温上昇が大きかったスペインやポルトガルの下押し幅は▲1.5%程度と相対的に大きい。もちろん、冷房器具や飲料など、気温の上昇によって逆に消費が促される品目もあるため、こうした外食需要の減少がそのまま消費全体の減少に繋がる訳ではない。ただ、足元では、インフレ率が前年比二桁に迫る中で消費は既に弱含みとなっており、熱波のような外的要因による消費への下押し圧力が顕在化しやすい状況にある点には注意が必要だ。

熱波は一旦ピークを過ぎたが、英国では気象当局が8月も平年より高い気温が続く可能性が高いと予想するなど、まだ油断はできない。熱波が再来すれば、もともとインフレの影響で弱含んでいた個人消費がさらに落ち込み、7~9月期の英国やユーロ圏はマイナス成長に転じるリスクが高まる。そうなれば、インフレ対応の利上げを続けてきたBOE(イングランド銀行)、7月に11年振りの利上げを決めたECB(欧州中央銀行)ともに、加速するインフレと景気悪化の間で難しい判断を迫られることになろう。

図表5 気温上昇による7月外食需要の下押し効果

(注)図表4の推定結果と、7月1日~22日の各地域の気温の実績値をもとに試算
(出所)気象庁より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

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