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Mizuho RT EXPRESS

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高インフレでも粘り腰の欧州経済

─ サービス業が下支えも、先行きは景気後退不可避 ─

2022年11月21日

調査部経済調査チーム エコノミスト 川畑大地
daichi.kawabata@mizuho-rt.co.jp
調査部経済調査チーム 上席主任エコノミスト 江頭勇太
yuta.egashira@mizuho-rt.co.jp

7~9月期のユーロ圏経済はプラス成長を維持

2022年7~9月期のユーロ圏実質GDP(2次速報)は前期比+0.2%と、前期(同+0.8%)から伸びが鈍化したものの、プラス成長を維持した(図表1)。2次速報時点で需要項目の詳細が公表されているフランスを見ると、インフレ高進を受け財消費が減少する一方、宿泊・飲食などサービス消費の持ち直しが個人消費を下支えした。また、業種別の内訳が公表されているスペインについても、やはり宿泊業等が押し上げに寄与しており、コロナ規制緩和に伴うサービス業の回復が7~9月期のユーロ圏経済を下支えした模様である。

サービス業は、内需のみならず外需(インバウンド需要)も取り込んでいる。ユーロ圏のインバウンド客数は主要国の中でも回復が速く、直近(2022年8月)では2019年同月対比92%程度の水準まで戻っている(図表2)。入国規制の緩和に加えて、米国との金利差拡大などを背景にユーロ安が進展したことも、インバウンドの増加に寄与しているとみられる。

図表1 ユーロ圏GDP

(注)2022年第3四半期は、内訳未公表
(出所)Eurostatより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 各国・地域のインバウンド

(注)ユーロ圏は、域内旅行も含む
(出所)Eurostat、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

先行きはサービス需要の減少でマイナス成長へ

もっとも、観光シーズンを終えた足元では、ドイツのレストラン予約数が減少に転じるなど外食需要に息切れの兆しがみられる。また、ホテル予約数やネット検索数などの高頻度データは宿泊需要の回復一服を示唆しているほか、インバウンド客数も直近9月のデータが得られる主要国においてピークアウトの兆しがみられる(図表3)。今後冬場にかけて、インフレ率の一段の上昇や世界経済の減速を背景に、サービス需要は内需・インバウンドとも減少に向かう公算が大きい。欧州委員会のサーベイを見ても、サービス業の先行き3カ月間の需要見通しは宿泊・飲食業を中心に低下が鮮明となっている(図表4)。サービス業による下支えが剥落する中、ユーロ圏経済は2022年10~12月期以降、マイナス成長に転落すると見込まれる(経済見通しの詳細は、みずほリサーチ&テクノロジーズ(2022)を参照)。

図表3 観光関連指標(ユーロ圏4カ国)

(注)ドイツ、フランス、イタリア、スペインについて集計。各国語での「ホテル」のキーワード検索数をGDP比で加重平均した(例えば、イタリアの場合は「Albergo」の検索数)
(出所)Eurostat、Googleより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 ユーロ圏のサービス需要期待

(注)先行き3カ月間の需要期待
(出所)欧州委員会より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

サービス物価のピークアウトは来年初以降か

サービス需要の動向は、ユーロ圏インフレの先行きを占う上でもカギとなる。ユーロ圏の10月の消費者物価は前年比+10.6%、エネルギーと食料品等を除くコア物価は同+5.0%と高い伸びが続いている。こうしたコア物価の上昇のうち、宿泊・飲食・娯楽サービスなどコロナ規制緩和(経済再開)に係る品目の押し上げ寄与が4割程度を占めている(図表5)。

上述の通りサービス業の需要見通しは足元で低下しており、こうした中で雇用見通しも下向きに転じているが、一方で販売価格の見通しは依然として上昇が続いている(図表6)。需要と価格の見通しが乖離している一因として、光熱費の上昇という供給サイドの要因があると考えられる。ユーロ圏の産業連関表によると、宿泊・飲食業の産出額に占める「電気・ガス」の中間投入割合は1.6%で、これは製造業(1.5%)と同程度である(サービス業全体では0.8%)。ガス高に伴うこのところの光熱費の高騰は、モノの生産コストだけでなく、宿泊・飲食などサービスの生産コストも押し上げ、それがサービス物価の上昇につながっている。ECB(2022b)も、エネルギー価格の上昇が旅行・娯楽セクターの投入コスト上昇につながっている可能性を指摘している。

図表5 ユーロ圏のコア物価上昇率

(注)経済再開要因には、ECB(2022a)を参考に、宿泊・飲食、娯楽、衣類、航空運賃等の品目を採用
(出所)Eurostatより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表6 サービス業の雇用・販売価格見通し

(出所)欧州委員会より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

こうした点に鑑みると、先行き需要が減少しても、光熱費の上昇が続いている間は、サービス物価も下げ渋る可能性が高い。サービス物価がピークアウトに向かうのは、景気が落ち込み、かつ暖房需要によるガス価格押し上げも一服する、来年初以降になりそうだ。年末にかけて景気が悪化に向かう中で物価はしばらく高止まりする可能性があり、ECB(欧州中央銀行)は急速な利上げを継続するか、利上げペースを緩めるか、難しい判断を迫られることになろう。

[参考文献]

みずほリサーチ&テクノロジーズ(2022)「2022・2023年度 内外経済見通し~政策が高める不確実性。蓋然性増すインフレ下の景気後退リスク」、2022年10月24日

European Central Bank(2022a)“The role of demand and supply in underlying inflation ? decomposing HICPX inflation into components”, 7. October, 2022

European Central Bank(2022b)“Supply bottlenecks and price pressures in euro area goods trade and tourism”, 10. November, 2022

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