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Mizuho RT EXPRESS

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米政策金利は4%を睨むが終着点は見えず

─ 6月FOMCは0.75%利上げ、引き締めは長期化 ─

2022年6月16日

調査部プリンシパル 小野 亮
makoto.ono@mizuho-rt.co.jp

直前報道通り、6月FOMCは0.75%の利上げ決定

6月15日、米連邦公開市場委員会(FOMC)は、直前のリークと思われる報道通り、0.75%の利上げ――3倍速利上げ――を決定した。5月会合後の物価情勢が予想以上に悪化しており放置できないことが引き締めを急いだ理由である。さらにパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は「7月会合では0.5%または0.75%のいずれかの利上げになるだろう」と述べており、次回会合後には政策金利は中立的水準に到達することになる。

0.5%の利上げを決めた前回5月会合では、「経済情勢が見通し通りに推移する」という条件付きで6・7月会合でも0.5%の利上げを検討する方針であることが公表された。今回の0.75%の利上げはそうしたFOMCの期待に反して、経済情勢、とりわけ物価情勢が前回会合以降悪化していることが、唐突な0.75%の利上げ決定に結び付いた。「次の会合まで待てなかった」とパウエル議長は述べている。

ジョージ・カンザスシティ連銀総裁は0.75%の利上げに反対し、0.5%の利上げを支持した。ジョージ総裁は急な変更を好まなかったためだろうと言われている。

0.75%の利上げを促した物価情勢の悪化は、5月消費者物価指数(CPI)と、消費者のインフレ期待の上振れである。パウエル議長は「インフレ期待について幅広い指標をみている」と述べつつ、「たとえ指標の一部にでも怪しい動きがあれば深刻にとらえる。そうした中でミシガン大調査の結果は目を引くものだった」と評した。

0.75%の利上げは1994年11月以来だが、今回だけというわけではない。パウエル議長は記者会見冒頭で「7月会合では0.5%または0.75%のいずれかの利上げになるだろう」と述べている。これにより、次回会合後には「2-3%」とされる中立金利のレンジ内に政策金利が到達することになる。

利上げ継続で政策金利のピークは3.5-4%、2024年末まで引き締めモード

FOMC参加者らの政策金利見通し(ドットチャート)によれば、9月以降も利上げが続き、政策金利のピークは2023年前半に3.5-4%に達する。政策金利が中立金利のレンジを超える「引き締めモード」の状態は2024年いっぱい続く。こうした引き締めの下で、成長率見通しは下方修正、失業率見通しは2024年末に向けて上昇する形に修正されている。後者は経験則として景気後退を示唆する。

深刻な物価情勢を受けて、ドットチャートは前回3月に公表されたものから大幅に上方修正されている。2022年末の中央値は1.9%(誘導レンジでみると1.75-2.0%)から3.4%(同3.25-3.5%)、2023年末は2.8%(同2.5-2.75%または2.75-3.0%)から3.8%(同3.5-3.75%または3.75-4.0%)、2024年末は2.8%から3.4%(3.25-3.5%)となった。2022年末から2024年末にかけて政策金利が3%を超える見通しということは、米金融政策の引き締めが2024年末まで続くことを意味する。もっとも、2024年末の政策金利予想は最も低いものが2.0-2.25%、最も高いものが4.0-4.25%と上下で2%Ptの幅があり、それだけ金融政策の先行きは不透明である。

2年以上にわたる引き締めによってFOMCが狙うのは、米国経済の拡大ペースを潜在成長率以下に減速させ、労働需要を抑えて需給をバランスさせることで、物価安定への道筋をつけることである。今回の経済見通しでは、実質GDP成長率が2022年、2023年とも1.7%に下方修正され、長期的な成長率とされる1.8%を小幅ながら下回る推移となった。また失業率は2024年末に向けて4.1%に上昇する形に修正された。

米国では「失業率が前年比で0.5%上昇すると景気後退入りする」ことが知られている。失業率の上昇を示す見通しとなった点について、記者会見で「FOMCはインフレを引き下げるために景気後退を誘発しようとしているのではないか」と問われたパウエル議長は、当然ながらこれを否定した。見通しに示した4.1%という失業率でも歴史的に見れば非常に低い水準であり、FOMCが維持しようとしている強い労働市場であることには変わりがないと述べている。

今や物価安定の回復は金融政策だけでは困難

今回の声明文から消えた一節がある。「金融政策のスタンスを適切に引き締めることによって、インフレ率が目標の2%に戻り、強い労働市場が維持される」というものだ。パウエル議長は、ウクライナ戦争とグローバル・サプライチェーンの機能不全という金融政策で手に負えない要因が高インフレをもたらしており、この一節は適切ではないとした。この声明文の変更は、消費者のインフレ期待に重要な影響を与えるヘッドラインのインフレ率が高止まりする限り、いくら需要が冷え込もうともFOMCは引き締めを続けるという覚悟の表れである。

パウエル議長は「物価安定の回復と強い労働市場の維持に向けた道は残っている」としつつ、「その道筋は金融政策によっては対応できない要因によってますます困難になっている」と述べた。「ウクライナ戦争の影響や、より広範にはサプライチェーンの問題が予想以上に長期化していることで、エネルギー、食品、肥料、工業化学品などの価格が急上昇している。その多くは金融政策に起因するものではない。削除した一節は、金融政策だけで実現できると言っているようなものであり、適切ではない。だから削除した。」

ウクライナ戦争と長引くグローバル・サプライチェーンの機能不全という、金融政策の影響を受けない要因によって高インフレが続けば、消費者のインフレ期待はさらに上振れてしまう。パウエル議長は、消費者のインフレ期待にとって重要なのは、中央銀行が重視するコアではなくヘッドラインのインフレであるという。「消費者が経験するのはヘッドラインのインフレである。消費者は(中銀が重視する)コアなど知らない。」インフレ期待の安定は金融政策の究極の目的である。その期待に影響を与えるヘッドラインのインフレ率が高止まりする限り、いくら需要が冷え込もうともFOMCは引き締めを続ける。声明文の変更は、そうした覚悟の表れである。

見えない引き締めの終着点

FOMCは「インフレ率が低下しているという説得力のある証拠」、すなわち幅広い需要の減速とインフレ率の趨勢的減速を待ち望んでいる。経済指標、特に物価関連指標が期待通りなら、ドットチャートの大幅な変更は今回が最後だろう。一方、上振れが続くようならFOMCは1%の利上げも排除しないと考えられる。記者会見で7月会合での1%利上げの可能性を聞かれたパウエル議長は、経済指標次第と答えるにとどまった。

在庫不足や割高感の高まりに加えて、住宅モーゲージ金利の上昇を反映し、住宅販売は悪化し始めている。FOMCの当日に発表された5月小売売上高も前月比減少した。こうした動きが続き、さらに雇用統計や求人データの減速が伴うようになれば、「幅広い需要の減速」への道が開かれていく。しかし、政策金利を引き上げたとしても、本当にそれが「引き締め」になっているかどうかは事後的にしか分からない。インフレ期待が上振れているなら、名目中立金利は逃げ水のように上昇しているはずである。需要の減速に物価関連指標、特にインフレ期待がどのように反応するかも極めて不透明である。FOMCはインフレ抑制にようやく本気を出したが、終着点はほとんど見えていないと言ってよい。

[参考文献ほか]

小野亮(2021)「インフレ抑制なくして雇用なし~FRB次期体制と当面の米金融政策の展望~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『みずほインサイト』、11月26日
―――(2022)「困難な調整が待ち受ける米国経済~迅速な引き締めでもインフレ抑制には高い壁」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、4月7日
―――(2022)「焦りを見せる5月FOMC~期待を通じた引き締め前倒しは米物価情勢の深刻さの裏返し~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、5月10日
―――(2022)「政策的逆風下でも米家計の流動性は潤沢~巨額の現金保有と構造変化を受けた米企業の積極採用が支え~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、6月3日
―――(2022)「3倍速利上げも視野?~米金融政策の引き締め強化と景気後退リスクの高まり~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、6月14日

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