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Mizuho RT EXPRESS

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9月0.75%利上げも示唆した7月FOMC

─ 2四半期マイナス成長でも物価安定の回復が最優先 ─

2022年7月29日

調査部プリンシパル 小野 亮
makoto.ono@mizuho-rt.co.jp

7月FOMCは2度目の0.75%利上げ決定、3度目も示唆、緩やかな引き締めへ移行

米連邦公開市場委員会(FOMC)は7月27日、前回6月に続いて0.75%の大幅利上げを決定、政策金利はようやく中立ゾーンに達した。FOMCは、足元の景気減速を認めつつも、物価安定の回復を最優先課題として次回0.75%の利上げも示唆、米金融政策は緩やかな引き締めに移行していく。

今回の利上げにより、フェデラルファンド(FF)金利誘導レンジは2.25%~2.50%となり、FOMC参加者の多くが長期的に中立とみなす水準に到達した。3月に利上げが開始されて以来、累積利上げ幅は2.25%Ptにのぼる。5カ月という短い間にこれほど大幅な利上げが行われたケースは、FF金利が誘導目標として返り咲いた1982年10月以降では例がない。(注:1979年10月~1982年9月の間、当時のFOMCは高インフレ対策としてより強力な引き締めを行うため、FF金利ではなく準備の「量」を誘導目標とし、FF金利の大幅変動を許容した。)

記者会見で多くの質問が出たように、足元の米国経済には景気後退懸念が高まっている。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長も「4~6月期の需要減速ははっきりしている」と述べた。港湾機能の回復による輸入急増という供給要因や、季節調整済みにも関わらず特定の時期に経済指標が上振れたり下振れたりする「残余季節性」と呼ばれる統計技術的要因によってマイナス成長となった1~3月期とは状況が全く異なるとの認識である。

実際、米国商務省によれば、4~6月期の国内最終需要は前期比年率マイナス0.3%と小幅ながら2年ぶりの減少に転じた(7/29)。国内最終需要が足踏みする中で、小売セクターの大幅な在庫調整によって(在庫投資の寄与度はマイナス2.0%Pt)、実質GDP成長率はマイナス0.9%となった。

FOMC後のパウエル議長は、非常に強い労働市場の状況に鑑みて「今の米国経済が景気後退にあるとは思えず、米国経済は今年下期もかなりいいということだ」と述べている。金利に敏感な住宅市場の調整は今後も続くものの、底堅い雇用・所得環境が下支えとなり個人消費は緩やかな拡大が続き、省力化投資等を中心に設備投資も再拡大すると予想される。こうした中、FOMCの優先課題は引き続き物価高への対応になろう。7月FOMCでも、従来に引き続き「継続的な利上げが適切」との方針が示され、記者会見では「次回会合での異例の大幅利上げ(another unusually large increase)が適切となり得る」と3回連続の0.75%利上げの可能性も示唆された。

「7月は0.5%か0.75%の利上げ」としていた6月のフォワードガイダンスと比べるとタカ派的であるが、0.75%とするかどうかは9月会合までに公表される経済指標次第である。加えて「金融政策のスタンスがさらに引き締まるにつれ、これまでの政策調整が経済やインフレにどのように影響しているかを評価しながら、引き上げペースを緩めることが適切になっていく」との考えも示している。インフレが落ち着けば、景気に配慮した政策運営もできるが、先行きは厳しいだろう。

強く、広がりを持つインフレ圧力、年末のFF金利は3.75%~4.0%と予想

米国のインフレ圧力は強く、広がりを持つようになっている。FOMCの大幅利上げは年末まで続き、FF金利は3.75%~4.0%に達すると予想される。

6月CPIは前年比+9.1%となり、1981年11月(同+9.6%)以来の高さに一段と悪化した。6月コアCPIは前年比+5.9%となり、3月をピークに低下が続いている。しかし前月比年率という瞬間風速のインフレ率は+8.8%に達する。中央値や刈込平均といった他の基調的物価指標もそれぞれ+9.1%、+10.1%と瞬間風速のインフレ率は極めて高い。これは、前年比でみたコアCPIのピークアウトは一時的なものに過ぎず(偽ピーク)、むしろ先行きは、より高い水準でインフレが定着してしまう可能性が高いことを示している。

なおFOMCは、より正確な物価情勢を表すとして個人消費支出デフレーター(PCED)を重視しているが、最近はCPIを取り上げることが多くなっている。パウエル議長によれば、ニュースなどを通じて人々の目に入るインフレ情報はCPIであることがその理由だ。CPIが示す持続的な物価高のニュースは、人々のインフレ期待を押し上げかねない。パウエル議長としては、CPIを参照することで物価高への懸念を人々と共有すると共に、引き締め姿勢を示すことでインフレ期待の安定化を図ろうとしているということだろう。

高インフレの定着リスクは、企業アンケート調査からも読み取れる。全米独立企業連盟(NFIB)によれば、6月時点で調査対象である中小企業の44%Ptが「今後3カ月のうちに値上げする」と回答している(「値下げする」との回答を差し引いたネット)。この数字は昨年11月の54%Ptと比べると10%Ptも低下している。ところがこの間、実際に値上げを行った中小企業の割合は59%Ptから69%Ptへと、10%Pt上昇し、値上げを計画していた中小企業の割合を25%Ptも上回る状況となっている。値上げの計画と実績について、これほど長い間、かつ大きな逆転現象がみられたのは、米国経済が高インフレに見舞われた70年代後半以来のことである。

パウエル議長は記者会見で、6月の政策金利見通しを引き合いに出し「2022年末のFF金利は3.25%~3.50%、2023年入り後も追加で0.5%の利上げが予想されている」と述べた。政策金利見通しによれば、FF金利のピークは3.5%~4.0%である。米国内におけるインフレ圧力の広がりを踏まえると、FF金利がこうしたピークを迎える時期は年内に前倒しする必要があるだろう。

[参考文献ほか]

小野亮(2021)「インフレ抑制なくして雇用なし~FRB次期体制と当面の米金融政策の展望~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『みずほインサイト』、11月26日
―――(2022)「困難な調整が待ち受ける米国経済~迅速な引き締めでもインフレ抑制には高い壁」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、4月7日
―――(2022)「焦りを見せる5月FOMC~期待を通じた引き締め前倒しは米物価情勢の深刻さの裏返し~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、5月10日
―――(2022)「政策的逆風下でも米家計の流動性は潤沢~巨額の現金保有と構造変化を受けた米企業の積極採用が支え~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、6月3日
―――(2022)「3倍速利上げも視野?~米金融政策の引き締め強化と景気後退リスクの高まり~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、6月14日
―――(2022)「米政策金利は4%を睨むが終着点は見えず~6月FOMCは0.75%利上げ、引き締めは長期化~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、6月16日
―――(2022)「険しさ増す米ソフトランディングへの道~景気後退によるデフレ効果はわずか~」みずほリサーチ&テクノロジーズ、『Mizuho RT EXPRESS』、6月24日

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