ページの先頭です

Mizuho RT EXPRESS

ダウンロードはこちら (PDF/986KB)

リポートに関するアンケートにご協力ください(所要時間:約1分)
(クアルトリクス合同会社のウェブサイトに移動します)

中国は追加の景気刺激策に慎重姿勢

─ 自然体で「+5.0%前後」の成長を目指す構え ─

2023年5月12日

調査部アジア調査チーム 主任エコノミスト 月岡直樹
naoki.tsukioka@mizuho-rt.co.jp

党中央政治局会議は需要不足を認識しつつも景気対策には踏み込まず

中国では、労働節の連休(4月29日~5月3日)を挟んで経済政策における党と政府の重要会議が相次いで開催された。

連休前日の4月28日に開催されたのが党中央政治局会議である。同会議は月1回のペースで開催して党と国家の重要政策を話し合っており、4月末と7月末の会議では経済政策を議題とし、足元の経済動向に合わせて政策の微調整を図るのが通例である。中国経済はコロナ禍からの回復途上にあるが、中国政府は3月の全人代後も市場が期待する景気刺激策を打ち出しておらず、今回の会議で新たな経済対策を決定するのかに注目が集まった。

同会議は、足元の経済動向について、中国経済が直面している3重の圧力(需要縮小、供給ショック、先行き期待低下)は緩和し、年初来の経済成長は予想よりもよかったと評価しつつ、経済の内生的な動力は強いとはいえず、需要が依然として不足しているとの認識を示した。その上で、需要拡大が経済の持続的な回復のカギになると強調し、サービス消費や新卒雇用の拡大を図る考えを明記した。このほか、新エネルギー車やAIをはじめとする現代的な産業体系の構築、プラットフォーマーを含む民営経済に対する支援、不動産投機の抑制と実需の支援、地方政府債務の管理強化など、従来の政策方針を繰り返した。

1~3月の中国経済はサービス消費主導で順調な回復を見せ、実質GDP成長率は市場予想を上回る前年同期比+4.5%を記録したが、4月に入って早くも息切れの兆しがみられる。4月の非製造業PMI(購買担当者景気指数)は56.4と、飲食や旅行、スポーツ・娯楽などのリベンジ需要に支えられ高水準を維持したが、製造業PMIは49.2と前月(51.9)から低下し、景気拡大・縮小の節目である50を4カ月ぶりに下回った(図表)。PMIを構成する生産(3月54.6→4月50.2)と新規受注(3月53.6→4月48.8)が大幅に低下したためである。これを裏付けるように、4月の貿易統計では輸入が前年同月比▲7.9%まで落ち込んだ。いずれの指標も需要の弱さから在庫調整が続いていることを示唆しており、コロナ収束後の中国の財消費が力強さと持続力を欠いていることが明らかとなった形である。

図表 製造業・非製造業PMI

(出所)中国国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

同会議は、こうした現状を認識しつつも追加の景気対策には踏み込まなかった。習近平政権は、サービス消費の急回復により自然体でも経済成長率の政府目標「+5.0%前後」を達成できる見通しであることから、大規模な景気刺激策で成長率を無理に底上げする必要はないと判断しているものと考えられる。過剰貯蓄や景気刺激策による消費の盛り上がりを見込んでいた経済界にとっては期待外れとなりそうであるが、不動産不況による土地使用権譲渡収入の大幅減少で悪化している地方財政にさらなる負荷をかけることを考えれば、この判断はむしろ賢明といえよう。

党中央政治局会議を受けて、連休後の5月5日に開催されたのが国務院常務会議である。この会議は、国務院総理が主催し、副総理(4名)と国務委員(副総理級閣僚、5名)が参加して経済・行政運営における具体的な政策措置を決めるもので、前任の李克強総理の時代は原則として毎週開催していた。しかし、今年3月に李強総理が就任して以降、会議は不定期化され、経済・行政運営における位置づけが大きく低下している。

この日の会議では、党中央政治局会議の方針に沿って、産業のハイエンド化やサプライチェーンのレジリエンス向上を図るために先進製造業クラスターの発展を後押しすることや、農村地域で新エネルギー車を普及させるために充電インフラの建設を加速させることなどを決めた。これらは、製造業やインフラ分野の投資拡大を促すものではあるが、中期的な産業政策目標であって足元の景気を下支えするものではない。追加の景気刺激策に慎重な政権の姿勢を反映した内容といえよう。

人口の「質の高い発展」の実現には構造改革の着実な推進が必要に

国務院常務会議が開かれたのと同じ5月5日には、党中央財経委員会も開催された。同委員会は、政府の経済運営を指導する党の意思決定調整機関で、委員会トップの主任を習近平氏が、副主任を李強氏が務めており、短期的な経済対策ではなく、中長期的な経済構造課題に重点を置いて討議を行っている模様である。

今回の委員会では、①経済運営における党の全面的な指導を強化すること、②AIなどの新たな技術を踏まえた現代的な産業体系を建設すること、③安全を重視した産業政策を推進しコア技術の開発を強化すること、④人口動態を踏まえて人口の「質の高い発展」を図ること、⑤教育改革で人材の質を高めるとともに子育て支援を強化すること、の方針を示しており、とりわけ人口問題については「中華民族の偉大な復興に関わる大事」と語気を強めている。

中国の2022年末時点の総人口は前年末比85万人減の14億1,175万人と、61年ぶりの減少を記録し、高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は14.9%まで上昇した。同委員会は、少子高齢化や一部地方における過疎化の進展という現実を踏まえつつ、育児・教育負担の軽減などで子育てに優しい社会を建設し人口の長期均衡を図ることや、労働参加率を安定させて人的資源の利用効率を高めること、高齢者サービスの充実などでシルバー経済を発展させることを明記した。

李強総理は今年3月、全人代閉幕後の記者会見で人口減少について問われ、「(毎年新たに1,500万人の労働力が生まれ、教育水準も向上していることから)“人口ボーナス”は消失しておらず、“人材ボーナス”が形成されつつあり、(経済)発展の動力は依然として力強い」と強調している。ただ、人口減少に転じた中国が引き続き「人口・人材ボーナス」を享受しようとすれば、「異次元の」少子化対策に加え、人材育成の強化による生産性の向上や定年退職年齢の引き上げによる労働力の確保が必要となる。構造改革を着実に推し進める習近平政権の決意が試されることになろう。

[参考文献]

月岡直樹・鎌田晃輔(2023)「1~3月の中国経済はサービス消費主導で回復 ─ 財消費は力強さ欠き、回復ペースの持続性には不透明感 ─」みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT Express』(4月26日)

鎌田晃輔(2023)「低調が続く中国の輸出入 ─ 特に輸入が大幅減だが、内需回復の失速とは言いきれず ─」みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT Express』(3月23日)

月岡直樹(2023)「習近平政権3期目の新政府が始動 ─ 組織再編で政府に対する党の指導をさらに強化 ─」みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』(3月22日)

伊藤秀樹(2022)「中国経済に忍び寄る人口減少の影響 ─ 影響強まる2030年代に向け、残された時間は少ない ─」みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT Express』(11月4日)

ページの先頭へ