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Mizuho RT EXPRESS

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中国からの訪日客激減の背景と23年の見通し

─ 団体旅行の10月再開で約100万人上振れと試算 ─

2023年8月2日

調査部 経済調査チーム 上席主任エコノミスト 坂中弥生
yayoi.sakanaka@mizuho-rt.co.jp

訪日外客数の回復が続く一方、中国からの訪日客は低迷

2023年の訪日外客数は回復傾向が続いているが、中国からの訪日客は低迷したままだ。2023年1~6月累計でみると、中国以外からの訪日客数は2019年同期間対比で84%となった一方、中国からの訪日客数は同13%にとどまり、回復が大幅に遅れている(図表1)。

訪日客数の2019年同月対比回復率を国・地域別にみると、訪日客数全体に占める割合が大きい韓国(2023年1~6月累計ベースでシェア29%)、台湾(同17%)、ASEAN5(同14%)の回復率は6月時点で8~9割と高い水準にある。さらに、シンガポール(シェア2%)や欧米主要国(同16%)の回復率は2019年を上回る勢いだ。他方、中国(同6%)は回復傾向にはあるものの、6月時点でも回復率が24%と他国・地域対比で大幅に低い水準である(図表2)。

中国とそれ以外の国・地域でここまで回復率の水準が違う要因は何であろうか。以下では、中国からの訪日客が低迷する要因と、今後の中国人訪日客数の見通しについて検討する。

図表1 訪日外客数の2019年対比回復率
(1~6月累計)

(出所)日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 国・地域別訪日外客数の回復率
(単月、2019年同月比)

(注)欧米主要国は、英国・フランス・ドイツ・イタリア・ロシア・スペイン・スウェーデン・フィンランド・デンマーク・ノルウェー・米国・カナダ・メキシコの合算値
(出所)各種報道より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

中国からの訪日客は「観光・レジャー」目的が激減。日本への団体旅行が再開されず

訪日外国人の主な来訪目的のシェアを確認すると、中国と中国以外で傾向が大きく異なっている。観光庁「訪日外国人消費動向調査」で公表されている主な来訪目的のシェアについて、2019年(年報)と2023年(1~3月期・4~6月期調査)を比較すると、中国以外の国では「観光・レジャー」目的が7割、「業務」目的が1割程度という傾向が変わらない一方、中国では「観光・レジャー」目的の割合が2019年の84%に対して2023年は13%(1~3月期)・41%(4~6月期)と急低下している。その代わりに割合が高まったのが、「業務」(2019年10%→2023年1~3月期・4~6月期ともに37%)や、「親族・知人訪問」(2019年3%→2023年1~3月期20%・4~6月期16%)、「留学」(2019年1%→2023年1~3月期27%・4~6月期2%)だ(図表3)。

中国からの「観光・レジャー」目的が激減した背景には、中国から日本への団体旅行が再開されていないことがある。中国政府は、2023年1月より段階的に中国国外への団体旅行再開を発表(1月20カ国1、3月40カ国2)しているが、本稿執筆時点では日本は再開先リストに含まれていない。観光庁「訪日外国人消費動向調査」で中国からの訪日客の旅行手配方法を確認すると、「団体ツアーに参加」の割合は27%(2019年)と多数派ではないものの、中国政府が日本向け団体旅行を再開していないことを受けて、日本への個人旅行も控えられているようだ。一方で、中国人を対象とした海外旅行に関するアンケート調査(2023年4月)3によれば、2023年に訪れたい旅行先として、香港・マカオ・タイに続く4位として日本が挙げられており、今後、日本への団体旅行が再開されれば、中国からの訪日客が大幅に増加する可能性がある。

図表3 訪日外国人の来訪目的別シェアの変化

中国以外

中国

(注)「業務」は、展示会・見本市、国際会議、企業ミーティング、研修、その他ビジネス、の合算値。「その他」は、ハネムーン、学校関連の旅行、スポーツ・スポーツ観戦、イベント、治療・検診、インセンティブツアー、トランジット、その他、の合算値
(出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

2023年の中国人訪日客数は、団体旅行10月再開ケースで346万人と試算

2023年の中国からの訪日客数について、今後どの程度増加が期待できるのか。団体旅行の再開時期が本稿執筆時点では不透明なため、日本への団体旅行が再開されないケースと再開されるケースに分けて試算を行った。「観光・レジャー」目的以外での訪日客数については、2019年同月対比の回復率の上昇ペースが2023年末まで継続するとし4、「観光・レジャー」目的については、団体旅行が再開されないケースと再開されるケースで2019年同月対比の回復率に差をつけて試算した。具体的には、再開されないケースは現在の回復率の上昇ペースが12月まで続くとし、再開されるケースでは再開時点(ここでは10月と仮定)以降の回復率が中国以外の国・地域並みの水準へ上昇すると想定した。

すると、2023年1~12月合計の中国人訪日客数は、団体旅行が再開されないケースでは249万人(2019年対比26%)にとどまる一方、団体旅行が10月に再開されるケースでは346万人(2019年対比36%)まで増加する結果になった。10月再開ケースでもコロナ禍前の2019年水準を大幅に下回るが、再開されないケースに比べると、「観光・レジャー」目的の訪日客数が100万人近く上振れる計算だ(図表4)。

団体旅行再開で、特に岐阜県・静岡県・山梨県・奈良県・愛知県が恩恵大の可能性

最後に、中国からの団体旅行が再開された場合、日本国内でどの都道府県がその恩恵を受けやすいか検討する。

観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2023年1~5月累計の延べ宿泊者数(従業員10人以上施設)は、全国平均で2019年同期間対比92%と回復が進んでいる。内訳では、日本人宿泊者が同98%、外国人宿泊者は中国以外の国籍が同93%、中国国籍が同17%となっている。全体の約8割(2019年)を占める日本人宿泊者の回復が全体をけん引しているものの、中国人(2019年のシェア6%)の動向が与える影響は小さくない。

宿泊者全体に占める中国人の割合(延べ宿泊者数、従業員10人以上施設)が全国平均を上回る都道府県(2019年)について、2023年の中国人宿泊者数の回復率をみたところ、岐阜県(3%)・静岡県(4%)・山梨県(4%)・奈良県(5%)・愛知県(7%)の5県が、全国平均(17%)を10%Pt以上下回っていた(図表5)。相対的に中国人宿泊者数の割合(2019年)が高く、2023年に入ってからは中国人の宿泊者数が落ち込んでいるこの5県では、今後、団体旅行再開により中国からの訪日客数が拡大した際、特にその恩恵が大きくなる可能性がある。

中国政府がいつ団体旅行再開リストに日本を追加するか現時点では不透明ではあるものの、旅行客の母数が多いだけに再開された場合のインパクトは大きい。また、本稿では訪日客数の観点から中国人のインバウンドについて分析したが、今後は個人旅行客を中心として、中国からの訪日客の消費内容や観光体験志向の変化といったことも起こり得る5。諏訪・小野寺(2023)や酒井他(2022)が指摘するように、サービス業を中心とした人手不足の深刻化が見込まれるなか、訪日客数というインバウンド需要の量的な面だけでなく、質的な面も踏まえて、今後のインバウンド戦略を考えていく必要があるだろう。

図表4 中国からの訪日外客数試算結果と
ケース別回復率の推移(2023年)

(出所)日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表5 中国人宿泊者数割合(2019年)と
2023年1~5月累計の回復率

(出所)観光庁「宿泊旅行統計調査」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

[参考文献]

みずほリサーチ&テクノロジーズ「内外経済の中期見通し~ポストコロナのメガトレンド、日本の賃金は緩やかに上昇~」pp.62-63、2022年12月23日

諏訪健太・小野寺莉乃「今春から中国人観光客の回復本格化へ~航空産業やサービス業の人手不足が課題に~」みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2023年2月7日

酒井才介・風間春香・小野寺莉乃・諏訪健太・中信達彦(2022)「人手不足がサービス業の回復の足かせに ~価格転嫁力の弱い企業は苦境に。サービスの高付加価値化が鍵~」みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2022年10月18日


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