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Mizuho RT EXPRESS

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「リーマン前」に似ている米銀行株の値動き

─ 銀行株の急変動は金融危機に先行する ─

2023年3月31日

調査部総括・市場調査チーム 主席エコノミスト 宮嵜浩
hiroshi.miyazaki@mizuho-rt.co.jp

米銀破たんで急落した米株式相場は、いったん落ち着きを取り戻す

米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破たん(2023年3月10日)に始まった、世界的な銀行株の下落に歯止めがかかりつつある。米国および欧州の銀行株は、SVBの経営破たんから2週間後の3月24日に下げ止まった。日本の銀行株も、その翌営業日(3月27日)に既往ボトムを付けている(図表1)。

SVB破綻以降、米銀の連鎖破たんに対する懸念が高まる中、米金融当局は極めて迅速に対応した。米連邦準備制度理事会(FRB)による銀行システムへの潤沢な流動性供給や、日米欧の6中央銀行と協調した市場へのドル供給強化、さらには米財務省による金融危機拡大時の預金保護の拡大表明が、米銀行株の下落圧力の緩和に繋がった格好である。一方、米信用不安が波及する形となった、スイスのクレディ・スイスの信用不安に関しても、UBSによる救済合併を経て、落ち着きを取り戻している。

別名「恐怖指数」とも呼ばれる、米国株の変動性指数(VIX)は、SVB破たん前の水準に低下した。ただ、米銀行システムに対する市場の不安は、必ずしも払しょくされたわけではない。株式相場全体の動きでは説明できない、米銀行株に固有の変動性を示す「米銀行株固有ショック」1は、SVB破たん後に2%台まで急上昇し、その後も2%近傍で高止まりしている(図表2)。

図表1 日米欧の銀行株指数の推移

(注)1. 日本:TOPIX銀行業指数、米国:S&P500銀行株指数、欧州:The STOXX 600 Banks (Price) Index
2. 直近は2023年3月30日
(出所)Bloombergより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 米株式相場および米銀行株の変動率

(注)米銀行株固有ショックは、S&P500銀行株指数の騰落率を同総合指数の騰落率に回帰した残差の分散をGARCH(1,1)モデルで推計(標準偏差に変換)。推計期間は2000年初から直近2023年3月30日まで(日次データ)
(出所)CBOE、Bloombergより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

米株式市場は依然として金融危機発生リスクを警戒

一般に、株価の変動性(ボラティリティ)は、時間の経過とともに拡大・縮小する傾向を持つ。特に銀行株に関しては、株式相場全体の変動性を示すVIXが落ち着いていても、金融システム不安が燻っている局面では、銀行株の変動性が高まって「銀行株固有ショック」が上昇するケースがある。

近年、銀行株固有ショックが大きく上昇した局面は、2020年に発生した「コロナ・ショック」と、米大手銀行リーマン・ブラザーズが経営破たんし、未曽有の金融危機が発生した2008年の「リーマン・ショック」である(図表3)。両局面に比べると、足元の銀行株固有ショックの水準は相対的に低く、当面は金融システム不安を警戒する状況ではないようにも見受けられる。

しかし、先行きは決して楽観視できない。2008年のリーマン・ショック当時を振り返ると、米銀行株固有ショックが現在の2%に達した時期は、2007年12月である。それから半年余りの期間、米銀行株固有ショックは2%前後で推移した。2008年7月に入ると米銀行株が乱高下し、米銀行株固有ショックは一気に5%台まで上昇したが、米株式相場全体の変動性(VIX)の上昇幅は相対的に小さかった。それから2ヵ月後の9月にリーマン・ブラザーズが経営破たんし、世界経済は深刻な不況に見舞われることになる。銀行株の乱高下が、金融システム不安に先行して発生した様子がうかがえる(図表4)。

金融危機発生リスクは水面下で増大する

金融システム不安が発生するタイミングを予見することは不可能に近い。銀行株が乱高下するタイミングについても同様である。ただ先行き、米銀行株固有ショックがSVB破たん前の水準に戻らず、現在の2%近傍の水準にとどまった場合、将来の金融危機発生リスクが水面下で増大している可能性は否定できない。今後、銀行株の乱高下が市場参加者の不安心理を増幅し、金融システムの機能不全を招くという波及経路にも、十分な目配りが必要だ。

図表3 日米欧の銀行株固有ショックの比較

(注)1. 各国・地域の銀行株固有ショックは図表2の注を参照
2. リーマン・ショックは2007~2008年の最大値、コロナ・ショックは2020~2021年の最大値
(出所)Bloombergより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 米株式相場および米銀行株の変動率
(2007~2009年)

(注)1. 米銀行株固有ショックは図表2の注を参照
2. 直近は2023年3月30日
(出所)CBOE、Bloombergより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

[参考文献]

日本経済研究センター(2019)「日銀のETF買い入れと地域金融のリスク―ストレス事象の発生で金融システム不安再燃も―」、日本経済研究センター、『2019年度金融研究班報告②:金融リスクの総点検』、12月25日
宮﨑孝史(2023)「JCER金融ストレス指数は0.135 2023年3月27日公表」、日本経済研究センター、『JCER金融ストレス指数』、3月27日
みずほリサーチ&テクノロジーズ(2023)「米国:信用不安による消費者・企業経営者のマインドへの波及に注視」、みずほリサーチ&テクノロジーズ、『みずほ経済・金融マンスリー』、3月22日


  • 1日本経済研究センターが作成・公表している『JCER金融ストレス指数』をもとに作成した。詳細は宮﨑(2023)を参照
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