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Mizuho RT EXPRESS

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半導体株は「生成AI一人勝ち」ではない

─ 米半導体銘柄の企業業績、9割が市場予想を上回る ─

2023年8月29日

調査部総括・市場調査チーム 主席エコノミスト 宮嵜 浩
同 主任エコノミスト 坂本明日香
hiroshi.miyazaki@mizuho-rt.co.jp

生成AI以外でも株価は堅調

2022年末以降、米国の株式市場で半導体関連銘柄の高騰ぶりが目立つ。生成AI向け半導体の需要拡大に対する過度な期待が、特定銘柄の株価上昇を際立たせているが、生成AI関連に限らず、半導体株は概ね堅調に推移している。

米国の半導体株全体の値動きは、米半導体関連銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)で把握できる。SOX指数は2022年の年末にかけて、他の代表的な米株価指数と同様に底打ちし、その後はS&P500種株価指数やナスダック総合指数を上回る株価パフォーマンスを示してきた(図表1)。急速に成長しつつある生成AI向け半導体需要の拡大期待から、一部の関連銘柄が高騰し、SOX指数全体を大きく押し上げた格好である。

図表1 米株価指数の推移(2020年以降)

(注)直近は2023年8月28日終値。図表2も同様
(出所)Bloombergより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 米株価指数の年初来騰落率

(注)加重中央値は、騰落率の高い順に指数構成銘柄のウエイトを累積して50%近傍にある銘柄の騰落率
(出所)Bloombergより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

ただ、生成AIに関連する銘柄のみ、株価が上昇しているわけではない。各種指数の基調(トレンド)判断に用いられる加重中央値を、3つの米株価指数の年初来騰落率で比較すると、SOX指数はナスダック総合指数を下回ったものの、S&P500種株価指数を引き続き上回る騰落率であった(図表2)。ごく一部の生成AI関連銘柄の急騰を除いても、半導体株の基調は上向きと評価できる。

業績の上振れが、半導体銘柄全体の株価を押し上げる

もっとも、米半導体関連企業の業績が、既に本格回復したわけではない。市場予想に対する業績の上振れが、将来の業績回復に対する市場の期待を高め、株価を押し上げた格好だ。業績の上振れは、大半の半導体銘柄で確認されている。株価同様、業績の回復期待も生成AIに限った話ではない。

成長(グロース)株の一角と位置付けられる半導体銘柄の業績は、アナリストの事前予想を上振れるケースが相対的に多い。過去10年(2013年以降)の四半期決算において、SOX指数を構成する30銘柄のうち、最終利益がアナリストの平均予想を上回った銘柄の割合(業績サプライズ)は、平均で80%に上る。直近2023年第2四半期の業績サプライズは90%と、2四半期連続で90%台の高水準を記録した(図表3)。業績上振れ銘柄の裾野の広がりは、昨年来の半導体不況の終焉を予感させる1

2020年から2021年にかけての世界半導体売上高の増加局面は、米半導体銘柄の業績サプライズが90%に急回復した時期を起点としている。4年弱の周期性を有するシリコンサイクルは、2023年央に底打ちした可能性があり2、実際に世界半導体売上高(3ヵ月後方移動平均値)は直近2023年6月まで3ヵ月連続で増加している。現時点では株価先行ないしは期待先行の半導体景気だが、実際の業績回復が生成AI関連から他分野へと裾野を広げてゆけば、半導体株の上昇基調は一段と強まると予想される。

図表3 米半導体銘柄の業績サプライズと
世界半導体売上高の推移

(注)1. 米半導体銘柄業績サプライズは、SOX指数構成30銘柄のうち最終利益が

アナリスト平均予想を上回った銘柄数の割合。四半期ベース

2. 世界半導体売上高は月次ベース(3ヵ月後方移動平均)

(出所)米半導体工業会(SIA)、Refinitivより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

[参考文献]

越山祐資・鎌田晃輔・宮嵜浩(2023)「シリコンサイクルは漸く底打ち~前年比プラスとなる「回復」局面は来春の見込み~」みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2023年7月10日

みずほリサーチ&テクノロジーズ(2023)『みずほ経済・金融ウィークリー』2023年8月29日号


  • 1米半導体銘柄の業績サプライズと世界半導体売上高の時差相関係数を計測すると、3四半期のタイムラグ(業績サプライズが先行)で相関係数が最も高いものの、その水準は0.59にとどまる。
  • 2越山・鎌田・宮嵜(2023)は、世界半導体売上高の前年比に対するスペクトル解析およびバンドパスフィルタを用いて、シリコンサイクルの「谷」を2023年5月頃と推定している。
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