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Mizuho RT EXPRESS

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2024年のインバウンド見通し

─ 19年を超える訪日客数・単価を維持、消費総額は7兆円超に ─

2024年6月18日

調査部 経済調査チーム 上席主任エコノミスト 坂中弥生
yayoi.sakanaka@mizuho-rt.co.jp

インバウンドは順調に回復。訪日客数・単価ともに2019年を超える水準が継続

2024年入り後もインバウンドの好調さが続いている。2024年4月の訪日外客数は304万人と、2カ月連続で300万人超えの高水準となった(図表1)。国・地域別で2019年同月対比の回復率をみると、米国が2019年を大幅に上回る水準が続いているほか、欧州主要国の拡大傾向が続いている。さらに、2023年8月の日本への団体旅行再開後も回復が緩慢であった中国からの訪日客数についても、持ち直しが続いている。一方で、韓国1や台湾、香港の2019年同月対比回復率は高水準ながらも小幅に水準を落としているほか、ASEANの一部の国では足元で100%割れとなっている(図表2)。訪日外客数はコロナ禍前を超える良好な水準が続いているが、一部の国でコロナ禍の繰り越し需要がはく落している可能性があると言えよう。

訪日外客数に加え、一人当たり消費支出も好調さを維持している。2024年1~3月期の訪日外国人一人当たり消費支出は20.9万円と、政府の2025年までの達成目標である20万円を超える水準が継続している。全体の約8割を占める観光・レジャー目的の訪日客について、主要な費目別の支出額をみると、全ての項目で2019年を上回っている(図表3)。宿泊料金の伸びが目立つほか、娯楽サービス費が(水準自体は他項目に比べ低いものの)2019年対比で倍増するなど、コト消費が拡大している様子も見て取れる。訪日客数の回復と高水準の単価継続を受けて、2023年の訪日外国人旅行消費総額は5兆円を超え、2023年の実質GDPを0.7%Pt押し上げるに至った。

インバウンドは人数・単価ともに2019年を超える水準まで順調に回復してきたが、先行きも好調さを維持できるのかを本稿で検討していきたい。

図表1 訪日外客数

(注)欧州主要国は英国・ドイツ・フランス・イタリア・スペインの合計、ASEANはタイ・シンガポール・マレーシア・インドネシア・インドネシア・フィリピン・ベトナムの合計
(出所)日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数・出国日本人数」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 訪日外客数の2019年同月対比回復率

(注)イースター休暇の時期のズレの影響を排除するため、直近値は2024年3・4月平均値としている
(出所)日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数・出国日本人数」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

訪日旅行への満足度は高く、リピーター割合が拡大。他方で、地方訪問は縮小

訪日外客数が順調に回復した背景には、訪日旅行への満足度が高く、リピーターの獲得に繋がっていることがある。訪日旅行全体の満足度(観光・レジャー目的、全国籍・地域ベース)をみると、「大変満足」の回答割合が2019年の55%から2023年10~12月期には69%まで高まった。更に、日本再訪意向についても、「必ず来たい」が7割、「来たい」が2割を占め、リピーター(訪日が2回目以上)の割合が7割まで拡大している。訪日旅行でしたこと(複数回答)をみると、「日本の酒を飲む」「日本の日常生活体験」「テーマパーク」「四季の体感」「映画・アニメ縁の地を訪問」「美術館・博物館・動植物園・水族館」などの割合が高まっており、リピーター客が拡大するなかで、訪日旅行でのコト消費が拡大しているようだ(図表4)。

図表3 日本滞在中の費目別支出

(注)観光・レジャー目的、全国籍・地域ベース
(出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 訪日旅行でしたこと(複数回答)

(注)観光・レジャー目的、全国籍・地域ベース
(出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

訪日旅行の内容に広がりが出ているなか、足元では地方への訪問が2019年対比でやや縮小している。訪日外国人の都道府県別の訪問率2を2019年と2023年10~12月期で比較すると、東京都や福岡県、千葉県の訪問率が上昇する一方、奈良県・愛知県・沖縄県・静岡県・北海道の訪問率が低下し、訪問率が1%未満の都道府県が19県から22県に増加した。外国人の宿泊地が東京都・大阪府・京都府など三大都市圏3に集中する状態も継続しており、三大都市圏のシェア合計は2019年の63%に対し、2024年3月には71%となっている。国際旅客定期便の便数(2024年夏期スケジュール)を空港別にみると、羽田や福岡では2019年を上回る水準になる一方、関西や中部、新千歳、那覇など他の空港では2019年を下回っている。羽田・成田の合算では2019年並みの便数、それ以外の空港の合計は2019年対比8割程度と差が開いており、地方への訪問縮小がここでもうかがえる。国内線も含めた航空需要が回復するなかで、グランドハンドリング人材不足等から地方空港では国際線の復便や増便に対応できない面もあり、地方訪問縮小の一因となった可能性がある。

2024年の訪日外客数は19年超え、単価も高水準維持で消費総額は7兆円超を予想

旺盛な訪日需要は今後も続くとみられ、2024年の訪日外客数は3,477万人と、2019年(3,188万人)を超える水準を予想する(図表5)。訪日客数の2019年超えという2025年の政府目標を2024年に早々と達成することにはなるものの、人気観光地でのオーバーツーリズムの問題もあり、訪日外客数の伸びは今後緩やかになっていくだろう。羽田や福岡以外の空港では航空便の増便余地があるとみられるが、航空機燃料不足により今夏の増便を見送る空港が出るなど、地方での増便やそれに伴う地方への訪日客増に供給面でのハードルもありそうだ。中国以外からの訪日客数は2019年を上回るものの、2024年後半にかけて小幅に水準を落とした後、緩やかな回復軌道を続けると予想する(図表6)。中国からの訪日客数は持ち直しが継続し、2025年半ば頃に2019年並みの水準になるとみている。

訪日外国人一人当たり消費支出は先行きも20万円台が続くとみられ、訪日外国人旅行消費総額は2024年に7.3兆円と、2023年(5.3兆円)に続き過去最高を更新すると予想する(図表5)。宿泊施設の人手不足感が高まり、稼働率の上昇余地が狭まるなか、外国人の宿泊割合(延べ宿泊者数ベース)が徐々に上昇している(2019年19%→2024年4月26%)。限りある客室数での収益拡大を目指し、より高い単価が期待できるインバウンド向けを宿泊施設が強化している可能性があり、先行きもインバウンド向けを意識した高めの宿泊料金が続くとみられる。平均泊数(全国籍・地域ベース)は2023年中に一時は2019年を1泊上回る水準まで拡大したものの、2024年1~3月期には2019年並みの水準まで低下している。日本の物価上昇により飲食費や交通費といった他項目の提供価格が2019年よりも上昇し、全体的に旅行費用が押し上げられていることを考慮すると、平均泊数拡大による単価上昇は難しいとみている。さらに、買い物代については、円安効果もあり2023年に大幅な上昇がみられたが、先行き日米の金融政策の変化などを受けて為替が円高方向に振れれば、水準が頭打ちになる可能性もある。

図表5 インバウンド予測値(2024・25年)

(出所)日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数・出国日本人数」・観光庁「訪日外国人消費動向調査」などより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表6 訪日外客数19年同月対比回復率の予測値

(出所)日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数・出国日本人数」などより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

2024年の訪日外国人旅行消費総額は7兆円超が期待でき、インバウンドは日本経済にとって非常に大きな「稼ぐコンテンツ」となっている。ただし、人気観光地への集中が現在も続くなか、訪日客数をむやみに増やそうとすれば、訪日外国人に対するネガティブな感情を引き起こしかねないほか、訪日旅行の魅力低下にも繋がる可能性がある。「経済財政運営と改革の基本方針2024」(原案)では、「2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人・消費総額15兆円を目指し、戦略的に取り組む」ことが示された(図表7)。オーバーツーリズム対策が道半ばであるほか、宿泊施設や航空便の供給制約など、解消されていない問題が山積している現状を踏まえると、訪日外客数6,000万人達成は難しい。訪日外客数の増加を無理に追うよりも、訪日外客数×一人当たり消費単価でみた「消費総額」を増やすことを念頭に、サービスの付加価値向上・差別化を通じた単価の引き上げや地方への訪問の分散によるオーバーツーリズム緩和などに引き続き注力すべきであろう。

図表7 インバウンド関連の政府目標

(注)インバウンド関連の目標を抜粋
(出所)「観光立国推進基本計画(令和5年3月31日閣議決定)」、「経済財政運営と改革の基本方針2024原案」(令和6年第8回経済財政諮問会議資料)より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成


  • 1韓国からの訪日客数は2019年夏場以降日韓関係の悪化により大幅に減少していたため、2019年同月対比回復率の水準が8月から12月は高くなる。2018年同月対比でみると、2023年12月が115%に対し2024年3・4月平均値は105%と、水準がやや下がっている。
  • 2訪日客のうち何%の人が当該都道府県を訪れたかを示したもの。
  • 3埼玉県・千葉県・神奈川県・東京都・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県を三大都市圏とした。
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