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Mizuho RT EXPRESS

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日銀は「遠くない将来」にマイナス金利解除へ

─ 1月の「主な意見」にみられる解除の気配 ─

2024年2月1日

調査部 総括・市場調査チーム 上席主任エコノミスト 上村未緒
mio.uemura@mizuho-rt.co.jp

「物価見通し実現の確度上昇」と明記し、政策変更へ地ならしを進める

日本銀行が物価見通しに自信を持ち始めている。2024年1月の日銀・金融政策決定会合(1月22日・23日)は現状維持を決定したが、会合後に公表した「展望レポート」には「見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっている」との文言が明記された。市場では、マイナス金利解除に向けた地ならしを進めるコミュニケーションとの受け止めが広がった。

植田総裁は決定会合後の記者会見で、前回10月の「展望レポート」で掲載した消費者物価指数(除く生鮮・エネルギー)の前年比見通し(中央値)は、必ずしも自信がもてないなかで置いたと述べた(図表1)。そのうえで、今回の1月「展望レポート」で、新しいデータ・情報を踏まえ再度分析して置いた見通しが10月と一致したことで、見通し実現の確度が上昇したと説明した。

図表1 植田総裁の1月決定会合後の記者会見での発言

(出所)日本銀行より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

植田総裁はかねてより、政策変更の際の見極め材料として「賃金・物価の好循環」の実現を挙げてきた。物価上昇の賃金への波及を反映して、今春の春季労使交渉(春闘)では、大企業を中心に昨年を上回る賃上げが予想されている。一方、賃金から物価への波及については、賃金上昇が価格転嫁に結び付くか、企業の価格設定行動を見極める局面にある。そうした中で、日銀は1月の「展望レポート」に、賃金と物価の好循環のメカニズムを具体的に明記1したうえで、見通し実現の確度がより高まったとの認識を示した。日銀が、従来の慎重な姿勢から一歩前進した証左といえよう。

加えて、1月決定会合後の記者会見での植田総裁の発言は、遠くない将来の政策変更を織り込ませる意図を持った情報発信であり、日銀が政策変更に向けて歩を進めている様子が窺える。

例えば、「マイナス金利を解除しても極めて緩和的な金融環境は当面続く」との発言だ。短期政策金利を現在の▲0.1%から0%に引き上げても、物価上昇率がこれを上回る限り実質政策金利がマイナスの状態は続く、すなわち、緩和的な金融環境が維持され、現状から大きな変化は起きない。そうした議論が日銀内でなされている様子が表れている。また、「大きな不連続性が発生する政策運営は避けられる」との発言も、正常化の第一歩となるマイナス金利の解除後も、その時々の経済・物価・金融情勢に応じて利上げを判断すると日銀が考えている証左ととれる。

さらに、政策変更の際の条件についても、植田総裁は「需給ギャップがはっきりプラスでないと物価目標に達しないわけではない」「実質賃金が近い将来プラスに転じる見通しができれば政策変更可能」と発言した。全ての指標が「青信号」でなくても、日銀が政策の変更に踏み切る可能性はある。

「主な意見」は、遠くない将来の政策変更を前提とした発言が目立つ

1月31日に公表された「金融政策決定会合における主な意見」は、同月の決定会合で交わされた議論を具体的に明らかにしたが、その内容は、日銀の情報発信の意図を窺わせるものだった。公表された文面には、政策変更を前提とした発言が多くみられたことに加え、金融政策の正常化の第一歩となるマイナス金利解除後の政策や金融環境まで幅広く議論がなされたことが表れている(図表2)。

図表2 1月決定会合の「主な意見」(抜粋)

(出所)日本銀行より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

物価の見方については、これまでの慎重論が後退し、賃金・物価の好循環の実現や、物価目標の達成を見通せる状況を視野に入れていることを印象付ける内容だった。前向きな評価が多い一方、価格転嫁の難しさや見極めにまだ時間が必要といった、これまでの慎重な指摘の掲載はなかった。

さらに、「サービス価格の上昇を踏まえると、賃金上昇に伴う物価上昇圧力は高まりつつある」などの発言からは、物価から賃金の波及にもある程度自信を持っている様子が窺える。

金融政策運営に関する意見をみると、政策変更のタイミングや情報発信、政策変更後などについて多く議論されている。例えば、「マイナス金利解除を含めた政策修正の要件は満たされつつある」「物価安定目標の達成が現実味を帯びてきている」など、政策変更のタイミングが着実に近づいていることを示唆する発言が多かった。また、「市場に不連続な動きを生じさせないよう、コミュニケーション、オペレーションの両面で工夫する必要がある」「マイナス金利の解除等を実施したとしても、緩和的な金融環境は維持される可能性が高い」などの指摘もなされている。こうした指摘が、植田総裁の記者会見での発言の背景にあったことが窺われる。

政策変更に前向きとも捉えられる、日銀による一連の情報発信を受けて、3月ないし4月の決定会合でマイナス金利は解除されるとの予想が市場のメインシナリオになっている。みずほリサーチ&テクノロジーズは、日銀が2024年春闘での賃上げモメンタムをある程度精査したうえで、物価目標達成が見通せる状況に至ったとして、「展望レポート」公表のタイミングに合わせて、4月にマイナス金利解除に踏み切るとの見方を維持している。


  • 1「物価上昇を反映した賃上げが実現するとともに、賃金上昇が販売価格に反映されていくことを通じて、賃金と物価の好循環は強まっていく」と展望レポートに記載された。
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