Introduction

日本社会が抱える最重要課題の一つである、少子化に伴う人口減少。特に2025年には国民の4人に1人が75歳以上になり、働く現役世代の減少が加速することで社会保障制度や財政に深刻な影響を及ぼすと予測されている。医療費をはじめとした社会保障費の増大、生産年齢人口の減少という、日本社会にとって憂慮すべき事態に対し、様々なアプローチが試みられている中で、重要なカギを握るのが「健康維持・向上」だ。当社は、かねてから医療保険者が実施する「データヘルス計画」策定に関するデータ分析やコンサルティングを行い、「健康維持・向上」の実現、またそれによる医療費適正化に貢献してきた。ここでは、「データヘルス計画」の高度化に向け、新たに始動したプロジェクトの取り組みをレポートする。

システムエンジニア

佐藤 恭一郎

プロジェクトデザイン本部 ビジネス企画部 ヘルスケア企画チーム

佐藤 恭一郎Kyoichiro Sato

1998年入社

入社後は、医療保険や特定健診関連のシステム開発・運用に従事。2018年から、社内の事業計画等の企画業務に携わる中で、今回の新規事業プロジェクトに参画。

システムエンジニア

小川 公仁子

プロジェクトデザイン本部 ビジネス企画部 ヘルスケア企画チーム

小川 公仁子Kuniko Ogawa

2001年入社

入社後、介護保険に係る新規システム開発に従事。2006年からは医療・健診のデータ管理・決済システムの入札提案対応等、システム提案・営業などの上流工程を中心に様々なプロジェクトを担当。

「データヘルス」により、
効果的・効率的な
保健事業を支援。

国民の「健康維持・向上」を実現するために欠かせないのは、一人ひとりの健康状態を正確に把握、分析し、適切な保健指導を行うことだ。それを実現する仕組みが「データヘルス」である。具体的には、健康保険組合などの医療保険者が、健診やレセプト(診療報酬明細書)といった健康医療情報を分析した上で行う、被保険者の健康状態に即した、より効果的・効率的な保健事業を行うものである。近年、健康医療情報の電子管理が進んだことで、これらの情報を活用した分析が可能となった。

当社では医療費の請求支払システムや医療保険者向けシステムの構築・運用を長く手掛けており、そのノウハウを活用して早い時期から「データヘルス」の取り組み支援を行っている。皮切りとなったのは、2012年、お客さま(医療保険者)が保有する健診・医療情報をもとにデータ分析を行う健康医療情報分析ソフト「healthage®(へルサージュ)」を独自開発したことだ。その後2014年には、健康保険組合や共済組合などの医療保険者を対象にhealthage®を活用した「データヘルス計画PDCAコンサルティング」の提供を開始。このサービスは、医療保険者が行う特定健診 (生活習慣病予防のために、メタボリックシンドロームに着目した健診)ならびに、健診結果に基づいた特定保健指導の結果やレセプトデータ等に基づき、被保険者の実態に合ったPDCAサイクルを支援し、「効果のある保健事業」の実現を目指すものである。
データ分析によって判明した生活習慣病の発症リスクが高い被保険者に対し、適切に保健指導を計画し、実行、改善するPDCAサイクルを促していくことで、生活習慣病の予防効果を高める可能性があり、結果的に保健事業の実効性を高めることにつながる。
当社は、これまでに蓄積してきた事業基盤や知見を礎に、PDCAサイクルのさらなる高度化を目指し「データヘルス計画PDCAコンサルティング」の高度化プロジェクトを始動させることになった。

データヘルス計画 PDCA コンサルティング:健康に関するデータを分析、PDCAサイクルを促すことで生活習慣病の予防効果を高める

オープンイノベーションを通じた
新たなサービスづくり。

プロジェクトメンバーの一人である佐藤は、社会保障や医療関連のシステム開発に長年携わってきた。今回のプロジェクトでは、開発のみならず、プロジェクト全体を推進する役割を担っている。プロジェクトが目指す「データヘルスの高度化」とは何なのか。

「これまでは、特定健診や特定保健指導などの“過去・現在”の情報をデータ分析の対象として、保健事業を支援してきました。しかし、今回の我々の取り組みは、“将来”を予測する技術を導入するという全く新しいものです。具体的には、被保険者の現状をデータとして把握し、AIを活用して生活習慣病の発症リスクをはじめとする将来的な健康面の変化を予測することで、将来の医療費の見通しを立て、保健事業の戦略立案や保健指導の高度化、それによる医療費の削減、財政負担の軽減など多くのメリットにつながるものです。

被保険者の現状把握→AIによるデータ分析→健康面の変化を予測→将来的な医療費の推計→【保険事業の戦略立案→保険指導の高度化→財政負担の軽減→医療費軽減】

「私はこのプロジェクトにおいて、サービス内容やシステム構成の検討、AI等新技術の導入、営業・マーケティングなど、横断的に役割を担っています。
新規事業検討は初めて担当する業務であり、業務範囲が広いことに加え、多くの関係者とのコミュニケーションも不可欠です。悩みつつ仮説検証を繰り返し、利用開始へ向けて、最適解を模索しながら進んでいます。まさに、走りながらサービスをつくり上げている状況です。」(佐藤)

佐藤と同様に、長く社会保障や医療関連のシステム構築に携わってきたのが、小川だ。小川は、公共団体を対象に、医療・介護等のシステム開発から特定健診やデータヘルス計画に係る業務支援のコンサルティング業務まで経験し、ヘルスケア領域の幅広い知見を評価されプロジェクト管理を任されることになった。

「私はサービス検討やシステム開発、営業など、カテゴリーごとの進捗状況や課題について確認しつつ、整理・対応するなど、全体の取りまとめ役としてプロジェクト推進を担当しました。今回のプロジェクトの特長の一つが、複数のパートナーと連携し、世の中に新たなサービスを提供するもので、正にオープンイノベーションと言えるものです。今回のプロジェクトでは、当社以外にみずほ銀行、〈みずほ〉の関連会社に加え、大手生命保険会社、ヘルスケアサービス会社が共同で、事業化を進めました。多くの関係者とコミュニケーションを取っていく過程では、認識齟齬や情報伝達の非効率も発生しやすくなるため、どのようにすればプロジェクトを円滑に推進できるかを常に考え、関係者への働きかけを含めて積極的に行動することを心掛けていました。」

お客さまの視点で考え、
行動し続ける。

今回のプロジェクトでは、従来からの「データヘルス計画」支援で得られた現場の声や、課題解決を導いてきた経験値が、事業を推進するための方向付けや原動力となった。

特に、プロジェクトに集結したメンバーの中にはシステムエンジニアとして社会保障や医療に関する開発やデータ分析に携わってきた者がいる一方で、コンサルタントとして最適な保健事業の実現をサポートしてきた者もいる。それぞれの知識や情報を持ち寄り意見交換することで、より深いレベルでの議論や検討を行うことができた。2021年4月にサービスインを迎えた以降も、さらなるサービスの品質向上を目指している。

「プロジェクトに参画しているコンサルタントたちは、お客さまとの関わりを通じて、現場における課題を認識し、解決に向けてどのように貢献できるかを日々思い巡らせています。こうして得られた知見とAIを活用した分析を組み合わせ、お客さまに寄り添ったサービスをお届けしていきたいという思いから、さらなる磨き上げを続けています。」(佐藤)

そうした思いは、小川も共有している。
「基本的なことではありますが、極めて重要なのは、世の中のニーズを知ることです。まずは自分だったらどういったサービスを求めるか、さらに相手の立場に立ってイメージすることを常に意識しています。今回は新たなサービスを提供していくにあたって、お客さまの視点で必要なサービスを想像し、検討し続けることが、より良いサービスの提供につながっていくと確信しています。」(小川)

健康、そして活力ある
社会の実現を目指して。

新たな「データヘルス計画PDCAコンサルティング」サービスは、全国的に普及することで国民の「健康維持・向上」、ひいては「健康寿命の延伸」を実現するものだ。国民の多くが「健康」であることが社会の活力を生むと同時に、医療費の抑制・適正化につながることから、最終的には国の財政再建にも貢献していくことになる。

「今後もヘルスケア領域の課題解決を通じて、人々が心身ともに健康に活き活きと過ごすことができる社会の創造に関わっていきたい。このプロジェクトの後は、それを実現する新規事業をまた新たに立ち上げたいと考えています。」(佐藤)

「今回のプロジェクトは、新たな事業であり、社会貢献の実感もありました。今後も、このサービスがより多くの人に認知されるように取り組みを続けていきたい。そしてさらに次のステップとしては、自らの構想・発想、企画で新しいサービスを生み出していきたいと思っています。」(小川)

みずほリサーチ&テクノロジーズが究極的に目指すのは、国民の多くが健康であることで生まれる、活力ある社会づくりにほかならない。

※所属部署は取材当時のものになります。