Introduction

過労死や人手不足の問題がクローズアップされるなか、「働き方改革」が大きな注目を集め、2018年6月には働き方改革関連法が成立した。ひと口に「働き方改革」といっても、ワークライフバランスをはじめとする働き手の視点と、生産性向上などの雇い手の視点があり、マスコミの報道や議論には、混乱も見られる。
実態を可能な限り正確に把握し、真に求められる「働き方改革」の在り方を考えるために、本格的な調査が必要であるとの思いから、経済調査部を主体とする調査本部横断的なプロジェクトチームを立ち上げた。

エコノミスト

有田 賢太郎

調査部 総括・市場調査チーム

有田 賢太郎Kentaro Arita

2002年入社

みずほ銀行にて、自動車業界などの産業調査や産業総括担当を経て当社へ異動し、為替などの市場関連調査を経験。その後、経済調査チームで企業・家計部門を担当したのち、日本経済総括を担う。現在は、内外経済見通しの取りまとめを担当するとともに、生産性や「働き方改革」などの調査を幅広く行っている。

メンバーの課題意識を活かし、
様々角度から「働き方改革」を
見つめる。

「働き方改革」という言葉には、残業時間の抑制、女性や高齢者の就労拡大、テレワークの推進、ITの利活用による生産性向上、副業・兼業の推進、リカレント教育(社会人の学び直し)など、実に様々なテーマが含まれている。しかも、それぞれのテーマには必ず働き手、雇い手の視点が存在し、しばしば整理されないまま論じられている。そのような課題意識を持ちながら、有田はプロジェクトリーダーとしてメンバーの考えをヒアリングし、できる限りそれに即した形でテーマを割り振った。
そして、有田を含めたプロジェクトメンバーからのアウトプットをもとに毎月レポートを発信し、年度末にはそれらを包括的な調査研究としてまとめ、具体的な提言につなげることとした。ひとつの題材に対して、シリーズとしてレポートを発信するという試みは、これまでにほとんど例がなく、調査本部全体としての大きな取り組みになった。

〈みずほ〉のネットワークを活用しながら
プロフェッショナルとして結果を追い求める。

いざ調査に取り掛かると先行研究が膨大にあり、その結果を追跡するだけでも大きな労力を要することが分かった。それらを咀嚼し、いかに付加価値のある政策提言につなげていくかがエコノミストとしての腕の見せどころになる。そのためにも、定量的なデータに基づいて分析を行い、経済効果や政策効果を数字で示すことが必要になるのだが、それらの数字を示したものが必ずしも多くないことがわかった。
そのため、求める定量データが完全な形でない場合も、関連する情報を一部利用したり、仮説を立てることで有効性を高めるなどの工夫をしながら補完をしていくことになった。その際に力となったのは、社内ならびに〈みずほ〉にいる有識者の存在であった。彼らとの議論を積極的に行い、実際にそれらから多くのヒントを得て、レポートに活かすことができた。

事実を正しく伝え、
社会の実態に合わせた
あるべき姿をともに考える。

[「働き方改革」シリーズ]として連続してリリースしたレポートは、11本に上り、いずれも大きな反響を呼んだ。「働き方改革関連法の評価と課題」というレポートでは、テレビ番組の特集が組まれ、有田自らがこれまでの調査結果について語った。また、テレワークに関するレポート発信後には、東京都と国が設立した「東京テレワーク推進センター」からの依頼によりメンバーが講演することもあった。
それにとどまらず、「働き方改革」に対する包括的提言を行うべく、企業関係者や大学の研究者を招聘した講演会活動も続けた。我々の調査結果が、人々が働く現場に活かされはじめたと感じることが多くなった。

新型コロナウイルス感染拡大に
より
進展した「働き方改革」。
新たな行動様式を
見据えた調査は続く。

2019年4月以降、働き方改革関連法が順次施行され、企業も関連法に基づいた制度への対応を進めていった。制度設計等の「形式」要件が整うと、企業の関心はいかに効果的に改革を進めていくかという「実質」要件に移っていった。
こうした中で、「働き方改革」に纏わるどのような施策が労働時間の抑制や生産性改善の効果を真にもたらすかを計測するため、大学との共同研究により大規模なアンケート調査を実施し、現在その結果に基づく実証研究を進めている。
2020年に入ると、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振ったことにより、各企業でリモートワークの導入が急速に進展した。形式的にリモートワークを導入した企業は生産性が低下した一方、実質的な取組をした企業への影響は小さかったとみられる。今後、各社の業績にこうした影響が表れてくる可能性があり、その実態の検証も、企業への示唆を得る上で興味深いテーマになると考えている。

現在、有田は内外経済の見通しを取りまとめる立場にあり、新型コロナウイルスの実態経済への影響を多面的・多角的に評価している。その中で強く感じているのは、コロナ禍で起きた行動変容が、ワクチンが普及したAfterコロナの世界でも一部続く、或いは新たな潮流を生み出す可能性だ。「働き方改革」に関しても、リモートワークの利便性を世界中の人々が享受したことで、例えば出張需要が元に戻らない可能性は相応にある。また、リモートワークによるコミュニケーションをはじめとする不都合を解消するためのイノベーションも加速するのではないか。更にこうした変化は個別企業、個別業種の動きのみならず、経済全体のトレンド変化にも結び付きうる。真に意義のある「働き方改革」とは何か、「働き方改革」が何をもたらすのか。それらを巡る調査に終わりはない。

※所属部署は取材当時のものになります。