Introduction

2015年、国連サミットで採択された「SDGs(Sustainable Development Goals)=持続可能な開発目標」。持続可能な世界の実現に向けて、17の目標と169の具体的なターゲットを示したものだ。それを受けて、企業活動においてもサステナビリティに関する重要性が高まっており、ステークホルダーからもその開示が求められている。本編では、企業のサステナビリティ戦略の策定支援に取り組んだ、コンサルタントの姿と取り組みを紹介する。

コンサルタント

伊藤 望

経営コンサルティング部
経営戦略チーム

伊藤 望Nozomu Ito

2020年入社

民間企業の中期経営計画策定をはじめ、事業戦略や経営戦略に関するコンサルティングを担当。クライアントの外部・内部環境における調査分析、課題抽出に向けた検討など、幅広い業務を行う。

SDGsへの強い関心。
そして抱いた問題意識。
すべての企業が、
サステナビリティ経営を
実践するために。

当社がかねてから関わりのあったクライアントから受けた相談。それは、サステナビリティ戦略に関わるものだった。クライアントがその重要性を強く認識したきっかけは、2021年6月のCG(コーポレート・ガバナンス)コードの改定である。CGコードとは、上場企業が行う企業統治において、ガイドラインとして参照すべき原則・指針だ。
東京証券取引所は、2022年4月より「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つの市場に再編されるが、このプライム市場上場企業においては、「サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取り組みを開示」することが、改定後のCGコードで明記されたのだ。クライアントはプライム市場に属していることから、喫緊の課題として支援を求めてきたのである。

伊藤もまた、入社当時から「SDGs」には強い関心を持っていた。
同時に、そこには問題意識もあった。
そもそもなぜ必要なのか、企業は否応なくやらされているだけではないのか――。
そこから「SDGs」に関する情報収集、文献調査、他のコンサルタントとの議論を通じて、知見を深めていった。そして一つの結論を得るに至る。
「サステナビリティ経営は企業規模に関わらず、すべての企業が積極的に取り組んでいくことが大切だと考えるようになりました。なぜなら、持続可能性を確保しなければ経済、社会自体が崩れてしまう懸念があるからです。法人は単に利益追求をすればいいのではなく、持続的な経済・社会を維持していく当事者だと私は捉えています。その責務を果たすためにも、サステナビリティへの取り組みは避けては通れない。しかし、中堅中小を含めた多くの企業においてサステナビリティへの理解は浅く、またその実践は少ないのが現状です。今回のプロジェクトは、すべての企業がサステナビリティ経営を実践できるように支援する、その第一歩と考えています。」

伊藤は周囲に対して自分の考えを発信する中で、2021年8月に環境エネルギー第2部を兼務することとなる。これは伊藤が架け橋となり、コンサルティング第1部と環境エネルギー第2部が連携してプロジェクトを推進することを意味した。環境エネルギー第2部は民間企業に対して脱炭素を中心とした環境ビジネス戦略を支援するのがミッションであり、今回のプロジェクトとの親和性は非常に高い。
「サステナビリティ経営に関するコンサルティングの絶好の環境と機会を与えてもらった」と、伊藤は当時を振り返る。そうして部署を横断するチームが発足し、このプロジェクトは動き出した。

サステナビリティ経営の必要性。
その本質を問いただす。

伊藤は、クライアントへのヒアリングを進める中で、危機感を抱かずにはいられなかった。そもそもクライアントは、「サステナビリティについての基本的な方針策定」にまったく手付かずの状態であり、それが必要だとの認識も薄い状態だった。さらに、サステナビリティへの取り組みが負荷になるとネガティブに捉える空気さえもあった。
「高い壁に突き当たった。」それが伊藤の率直な実感だった。

「サステナビリティへの取り組みは、企業が自ら前向きに実施しなければ意味がありません。私たちはあくまで支援をする立場。そのため、ミーティングのたびに、なぜやらなければならないかということを問いただし、クライアントの理解を促すことに力を注ぎました。」この取り組みは、CGコードで要請されていることが直接的なきっかけではあるものの、経済や社会、そして企業が未来向けて持続可能な発展を遂げていくための本質的な意義を持っており、その実践こそが社会や地球環境に貢献するものであることを強く訴えた。

基本方針を策定するための、
3つの支援。

伊藤のミッションは、クライアントのサステナビリティ戦略策定を支援するものだが、より正確に言えば、CGコードで要請された「サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取り組みを開示」することを支援するものだ。ポイントは情報開示であり、その情報がサステナビリティに資するものであることを明確にするのが伊藤の役割だった。支援の内容は「マテリアリティ特定分析」「TCFDシナリオ分析」「GHG排出量算定」が中心となる。

1つ目の「マテリアリティ(重要課題)特定分析」は、サステナビリティ分野の国際的なガイドラインで推奨されている取り組みであり、クライアントにとって重要度が高い課題の抽出が求められる。伊藤はESG※の観点からヒアリングを進めていった。その結果、各項目において、以下の課題が浮かび上がった。

クライアントが持つ「ESG」に関する課題 E(Environment):事業の性質上、気候変動の影響を受けやすく、また環境負荷にも影響を及ぼす可能性がある/S(Social):女性社員の登用率やダイバーシティに対する懸念/G(Governance):情報の開示水準が、自社に比べて低い

※ESG:Environment(環境)、 Social(社会)、 Governance(企業統治)からなる企業の集合的な誠実性の評価

これら課題解決に向けたアクションについては、クライアントが自ら判断していくことになる。

続いて、「TFCD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」。こちらでは4つの項目で財務的影響のある気候関連情報を開示することを推奨しているが、その中で「戦略」が特に重要だ。気候変動は中長期的にわたることから、異なる条件で戦略を分析する「シナリオ分析」が、基本方針の核心部分になる。
「そもそもTCFDシナリオ分析とは何か。」クライアントの問いは、当然ここからはじまる。そのため、勉強会を開催するなど、理解促進への活動も欠かすことができない。

3つ目の「GHG(温室効果ガス)排出量算定」においては、算定する方法、そのロジック、必要とされるデータ、その粒度の判断基準等を示した。
「GHG排出算定に関して、環境エネルギー第2部は日本でトップクラスの知見を有しています。すでに150社以上のGHG排出算定に関わってきましたし、TCFDシナリオ分析においても多くの実績があります。環境エネルギー第2部と連携したことで、それらの知見をフルに活かせたことが、今回のプロジェクトを前進させる大きな力になっていると強く実感しています。」

サステナビリティをさらに
展開することで持続可能な
社会の実現を目指す。

本プロジェクトは、現在も情報開示に向けた取り組みを継続している。その後は、サステナビリティ経営実現のためのロードマップの作成など、具体的な提案やコンサルティングサービスの提供へと展開していく可能性もある。
プロジェクトの中で一貫して伊藤が大切にしてきたことは、クライアントの立場に立つということだった。
「サステナビリティ戦略の策定に初めて取り組むクライアントに対して、どのようなアプローチをとることが適切かは、非常に考えました。必要性を感じつつも、どう取り組めばよいかわからないという課題から出発しましたが、クライアントに寄り添い、不安を取り除きながら一緒になって前へと進めてきました。クライアントにとって、サステナビリティ戦略の策定とは、意識変革やパラダイムシフトの実践です。その先に大きな発展があることを、私自身は信じています。」

伊藤は今回のプロジェクトをきっかけに、サステナビリティ分野のサービスを積極的にリリースしていきたいと考えている。そのためにも、サステナビリティ分野を自身の専門性として磨くことが当面の目標だ。そして、すべての企業が前向きにサステナビリティ経営に取り組めるよう、最適な支援を継続していく。それがクライアントのみならず、人や環境、社会の持続可能性につながることを確信している。

※所属部署は取材当時のものになります。