背景及び目的
ヘマグルチニン(HA)はインフルエンザウイルスタンパク質の1つであり、ウイルスが宿主に感染する過程にかかわります。また、抗原抗体反応における抗原になるため、HAと抗体との相互作用を解明することで、ウイルスの変異予測やワクチン開発に貢献できると期待できます。
解析事例
フラグメント分子軌道法を用いて、HAタンパク質とFab抗体との相互作用を、残基単位で明らかにしました。HAは三量体として機能することが知られているため、三量体を丸ごと計算しました。MP2/6-31Gに加えて、地球シミュレータを用いたMP3法による計算を行い、高精度な相互作用解析をおこないました。本計算では、分子サイズ、計算精度ともに世界最大規模の全電子計算事例となっています。
成果及び今後の展望
左図では、Fab抗体(2個)に対するHA三量体の各アミノ酸残基の相互作用を示しています。赤色は抗体と引力的な相互作用、青色は抗体と反発的な相互作用をしているアミノ酸残基です。赤色のアミノ酸残基が突然変異を起こせば抗体圧から逃れることができると考えられ、ウイルス変異の予測やワクチン開発に役立つことが期待されます。また、中・右図のように、Fab抗体1個やHA単量体に対する、その他の部分の相互作用を解析することで、三量体としての機能の理解に役立つと考えられます。

図:HA三量体とFab抗体との相互作用。黄色の部分に対して、赤色が引力的、青色が反発的な相互作用をしているアミノ酸残基を示す。
参考文献
T. Takematsu, K. Fukuzawa, K. Omagari et al., J. Phys. Chem. B 113, 4991-4994 (2009).
Y. Mochizuki, K. Yamashita, K. Fukuzawa, et al., Chem. Phys. Lett. 493, 346 (2010).