みずほ情報総研株式会社
みずほ情報総研株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:向井 康眞)は、2018年9月に「定年後再雇用者の働き方と賃金に関するアンケート調査」を実施し、この度その結果を取りまとめましたのでご案内いたします。
少子高齢化が進む中で相対的に比率の大きくなる高齢者は貴重な労働力であり、生涯現役社会の実現は我が国にとって急務となっています。しかし、現状を見ると「定年の廃止」や「65歳超への定年延長」はなかなか進んでおらず、高齢期を迎えて働き続ける方の多くは、一度退職してから再度雇用される「定年後再雇用」という雇用形態に属しています。
従来、定年後再雇用者の賃金は定年時と比較して6~7割程度の水準まで低下することが一般的とされてきました。しかし、2018年に相次いだ複数の司法判断において定年後再雇用者の処遇が争点となり、その中には、最高裁判所の決定で「再雇用においては、定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが原則である」と指摘されたものがあります。
本調査は、前述の最高裁判所の決定を踏まえて「連続的再雇用環境(定年前との連続性ある労働環境)」に着目し、以下を目的として行なったものです。
- 1.「連続的再雇用環境」について、以下の実態を把握する。
- どの程度の企業で実現しているか
- 同環境では、賃金にも連続性が見られるか
- 同環境では、労働意欲(*)にも連続性が見られるか
- *本調査における「労働意欲」とは企業による評価であり、定年後再雇用者本人による主観的認識ではない。
- 2.「連続的再雇用環境」を実現している企業に見られる特徴(企業属性や人事制度等)を検討する。
なお、本調査では、「連続的再雇用環境」を(1)業務の内容、(2)業務に伴う責任の程度、(3)所定労働時間の全てについて定年前と変化がない労働環境と定義しています。
回答企業の分類
分析にあたり、定年前後の(1)「業務の内容」の変化、(2)「業務に伴う責任の程度」の変化、(3)「所定労働時間」の変化という3つの観点から、回答企業を以下の通り分類した。この分類においてはタイプAが「連続的再雇用環境」を実現する企業にあたる。
定年前との比較 |
企業 |
||
(1)業務の内容 |
(2)業務に伴う責任の程度 |
(3)所定労働時間 |
|
同じ |
同じ |
同じ |
A |
違う |
B |
||
違う |
同じ |
C |
|
違う |
D |
||
違う |
同じ |
同じ |
E |
違う |
F |
||
違う |
同じ |
G |
|
違う |
H |
※3つの観点において「同じ」、「違う」の分類は以下の通り
|
定年前との比較 |
||
(1)業務の内容 |
(2)業務に伴う責任の程度 |
(3)所定労働時間 |
|
同じ |
「全く変わらない」 |
「変わらない」 |
「フルタイムのまま」 |
違う |
「ほぼ変わらない」 |
「かなり小さくなる」 |
「フルタイムからパートタイムになる」 |
主な調査結果
- 1.
連続的再雇用環境を実現している企業の比率
連続的再雇用環境を実現している企業(タイプA)は全体の15.4%。最も該当企業数が多かったのはタイプG((1)業務内容が変わり、(2)責任は小さくなるが、(3)所定労働時間はフルタイムのまま、とする企業タイプ)で、全体の42.2%を占める。 - 2.
賃金における連続性
定年直前の基本給を100としたときの定年後の基本給水準は、タイプAでは85.7であり、すべての企業タイプの中で最も高い。これに対して、タイプGにおける定年後基本給水準は74.0である。 - 3.
労働意欲における連続性
定年前後で定年後再雇用者の労働意欲が「変わらない」と回答した企業は、タイプAでは70.6%であり、すべての企業タイプの中で比率が最も大きい。これに対して、タイプGでは40.2%であり、すべての企業タイプの中で比率が最も小さい。 - 4.タイプGと比較したタイプAの企業の特徴
- 業種については「医療・福祉」、「運輸業、郵便業」が多い
- 正社員は「すでに十分確保している」と回答した企業が多く、最も正社員人数が多い年代として「40代後半」およびそれ以上を選択した企業が60.0%を占める
- 定年前後で処遇(役職や賞与・寸志等、手当など)に高い連続性が見られる。加えて、定年前後で「期待役割」を全く変えていないとする企業が61.3%を占め、すべての企業タイプの中で最も多い
- 定年後再雇用者に期待する役割を「担当者として成果を出すこと」とする企業が多い(16.6%。なお、タイプGでは9.9%)
- 定年後再雇用者を「戦力である」と評価する企業は93.1%で、すべての企業タイプの中で最も多い
考察
- 「連続的再雇用環境」を実現しているタイプAの企業は約15%。タイプGにおいては、定年後再雇用者の処遇や人材活用のあり方を見直す必要に迫られる可能性がある
- 調査の結果、連続的再雇用環境を実現している企業(タイプA。以下「連続的再雇用企業」と記載)は15.4%にとどまり、最高裁判所が指摘したように「原則」と呼べるほどの比率ではないという実態が明らかとなった。
- 一方で、該当企業数が最も多かったのはタイプG((1)業務内容が変わり、(2)責任は小さくなるが、(3)所定労働時間はフルタイムのまま、とする企業タイプ)である。しかしながら、タイプGでは定年後再雇用者の定年前後の労働意欲低下が最も激しかった。
- 今後、定年後再雇用者が全従業員に占める比率がさらに高まると予測される中では、タイプGにおいては、定年後再雇用者の処遇や人材活用のあり方を見直す必要に迫られる可能性がある。
- 「連続的再雇用企業」では、40代後半以降の中高年齢層の人材を活用することで人手不足を回避しているのではないか
- 該当企業数の最も多かったタイプGと比較すると、タイプAに該当する業種としては「医療・福祉(16.3%)」「運輸業、郵便業(6.9%)」の比率が大きかった(タイプGでは9.8%、3.4%)。
- これらは人手不足が深刻な業種であるが、タイプAではタイプGと比較すると「十分に人材を確保している」と回答する企業が多かった(タイプAでは8.5%、タイプGでは1.8%)。
- タイプAでは、正社員に最も多い年代が「40代後半」からそれ以上で6割を占めていることを考慮すると、タイプAでは、40代後半以降の中高年齢層の人材を活用することで人手不足を回避している可能性が示唆される。
- 「連続的再雇用企業」において、定年後再雇用者は企業が負担する人件費コストに見合うパフォーマンスを上げている可能性がある
- タイプAでは、6割を超える企業が「期待役割」を定年の前後で「全く変えていない」と回答しており、また、基本給だけでなく役職や賞与・寸志等、手当など処遇の多くの点で定年前と水準を維持していることがわかった。
- さらに期待役割の「内容」を見ると、タイプGと比較してタイプAに多いのは「担当者として成果を出すこと」であった。定年後再雇用者が「実際に果たしている役割」に関しても、タイプAでは「担当者として成果を出すこと」が最上位である。そして、定年後再雇用者を「戦力である」と評価する企業はタイプAでは9割を超え、すべての企業タイプの中で最も比率が大きかった。
- 定年の前後で処遇の水準を維持することは企業にとって負担となるが、以上の結果を踏まえると、タイプAにおいて定年後再雇用者は、企業が負担する人件費コストに見合うパフォーマンスを上げている可能性が示唆される。
アンケート調査の概要
調査期間 |
2018年9月~10月 |
調査対象 |
全国に所在する総従業員数10人以上の企業のうちから、従業員規模と業種(*)により比例配分して抽出した16,000社
|
調査手法 |
紙媒体調査(郵送配布・郵送回収方式) |
有効回答数 |
2,393社(有効回答率 15.0%) |
主な調査項目 |
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<集計対象データについて>
以下の全ての条件を満たす回答に限定したため、集計対象のデータ数はN=1,042である。
項目 |
条件 |
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(1) |
総従業員数 |
300人未満 |
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(2) |
定年到達者を65歳まで雇用するために講じている雇用確保措置 |
自社で再雇用する制度を導入している |
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(2)(i) |
最も多くの定年後再雇用者に当てはまる職種 |
職種の回答がある |
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(2)(ii) |
定年に伴う「責任の程度」の変化 |
変わらない/やや小さくなる/かなり小さくなる |
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(2)(iii) |
定年に伴う「所定労働時間」の変化 |
フルタイムのまま/フルタイムからパートタイムになる |
- *本調査では、定年前後の労働環境の変化を問う際は、各社において「最も多くの定年後再雇用者に当てはまる職種」に就いている定年後再雇用者に関して回答するよう求めた。そのため、「最も多くの定年後再雇用者に当てはまる職種」について回答しなかった企業は集計対象から除外した。
より詳しい調査結果は、以下のページから報告書をご確認ください。
みずほ情報総研の「働き方改革」に関する取り組み
少子高齢化が進む日本において、組織が持続的に成長していくためには「人材」が鍵を握ります。みずほ情報総研では、年齢や性別等に関わらず、また各人が持つ多様な事情を踏まえながら、誰しもが活躍し続けることができる職場づくりに向け、国や自治体の政策立案等に資する調査研究や、労働雇用政策実行支援・政策普及および実行に向けた実証事業等の展開、企業・機関等の働き方改革推進、人づくり推進に向けた調査研究・支援等を行っています。
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