
*本稿は、『生活経済政策』 2019年8月号(発行:一般社団法人生活経済政策研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
はじめに
親と同居する中年未婚者が増加している。世帯としてみれば、「老親と中年の未婚子からなる世帯」の増加である。
これまで日本は、様々な生活上のリスクに対して家族の役割が大きい社会と言われてきた。その基盤になっていたのは、夫が正社員として働き、妻が親の介護や育児等を担う「夫婦と子どもからなる世帯」である。性別分業を前提とした同世帯は、長らく「標準世帯」と言われてきた1。
しかし、「老親と中年の未婚子からなる世帯」が増加するなど、世帯が多様化している。そしてこれら世帯では、生活上のリスクに対応することが難しくなっている。例えば、「老親と中年の未婚子からなる世帯」では、80代の親が50代の未婚の子を支えるといった「8050問題」が生じている。また、親の介護などを理由に離職し、その後も仕事を諦めてしまう「ミッシングワーカー」などの問題も指摘されている。
そこで本稿では、親などと同居して二人以上世帯を形成する中年未婚者に着目して、生活上のリスクを考察する。具体的には、親と同居する中年未婚者の増加の実態をみた上で、経済状況、親の介護、社会的孤立の状況、老後への備え、といった点をみていく。最後に、どのような対策が求められているのかを考察する。
親と同居する中年未婚者の増加の実態
まず、親と同居する中年未婚者2の増加の実態をみていこう。総務省『国勢調査』によれば、親と同居する40代・50代の未婚者は、1995年は113万人であったが、2015年には341万人となり、3.02倍になった(図表1)。40代・50代人口に占める「親と同居する未婚者」の割合をみても、1995年の3.1%から、2015年には9.9%に上昇している。
ちなみに、この間、40代・50代の人口は6.2%程度減少しているが、40代・50代の未婚者数は1995年の277万人から2015年には650万人へと2.34倍になった。そして、2015年現在、650万人いる中年未婚者のうち、52.4%は親と同居をし、41.4%は単身世帯となっている。1995年は、親と同居する中年未婚者の同比率よりも、単身世帯となる中年未婚者の比率が若干高かったが、2015年は親と同居する中年未婚者の比率の方が高い状況になっている。
図表1 親と同居する中年未婚者の増加—1995年と2015年の比較
総数 | 男性 | 女性 | ||||||||
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1995年 | 2015年 | 倍数 | 1995年 | 2015年 | 倍数 | 1995年 | 2015年 | 倍数 | ||
40代・50代人口([1]) | 3650 | 3423 | 0.94 | 1818.4 | 1719.7 | 0.95 | 1831.6 | 1703.7 | 0.93 | |
うち未婚者([2]) | 277 | 650 | 2.34 | 180.3 | 404.8 | 2.24 | 96.9 | 245.3 | 2.53 | |
([2] / [1]) | 7.6% | 19.0% | — | 9.9% | 23.5% | — | 5.3% | 14.4% | — | |
うち親と同居([3]) | 113 | 341 | 3.02 | 74.0 | 211.7 | 2.86 | 38.6 | 128.8 | 3.33 | |
([3] / [2]) | 40.6% | 52.4% | — | 41.0% | 52.3% | — | 39.9% | 52.5% | — | |
うち単身世帯([4]) | 121 | 269 | 2.23 | 81.3 | 177.8 | 2.19 | 39.3 | 91.1 | 2.32 | |
([4] / [2]) | 43.5% | 41.4% | — | 45.1% | 43.9% | — | 40.5% | 37.1% | — |
(単位:万人)
(注)2015年の40代・50代人口は、年齢不詳と配偶関係不詳を案分しているため、『国勢調査』の数値とは一致しない。一方、2015年の「未婚者」「親と同居」「単身世帯」については、年齢不詳が掲載されていないため、配偶関係不詳のみ案分した。
(資料)総務省『平成27年国勢調査 世帯構造等基本集計』(第40表)、同『平成27年国勢調査 人口等基本集計』( 第6表)、同『国勢調査時系列データ』(第4表)、同『平成7年国勢調査 特別集計』(第9表)、同『平成7年国勢調査 第1次基本集計 全国編』により、藤森作成。
「二人以上世帯に属する中年未婚者」の生活上のリスク
では、親などと同居して「二人以上世帯に属する中年未婚者」は、どのような生活上のリスクを抱えているのであろうか。以下では、公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構「第4回独身者(40~50代)の老後生活設計ニーズに関する調査」を活用して、「二人以上世帯に属する中年未婚者」の生活状況や意識を「単身世帯に属する中年未婚者」と比べていこう3。
この調査は、全国の40代と50代の独身者―結婚経験がなく、かつ現在、異性と同棲をしていない人―を対象に、2015年12月10日~14日まで、調査会社(株式会社インテージ)が行ったインターネット調査である。同調査の回収状況は、調査客体数は3,506サンプルに対して、有効回答数は2,275(男性1,136、女性1,139)サンプルであり、回収率は64.9%となっている。さらに回答者のうち、現在の就業形態と公的年金の加入状況の整合性や本人の仕事からの収入が世帯年収を大幅に上回るケースなど論理矛盾がある標本を分析対象から除いた。その結果、分析対象の標本数は2,083サンプルとなった。
なお、「二人以上世帯に属する中年未婚者」の同居者をみると、男性の94.9%、女性の92.2%が親と同居している(藤森 2016:82)。厳密には、「二人以上世帯に属する中年未婚者」には親以外の人と同居する中年未婚者を含んでいるが、その9割以上は親と同居する中年未婚者である。
以下では、親などと同居する「二人以上世帯に属する中年未婚者」の生活上のリスクとして、(1)経済状況、(2)親の介護、(3)社会的孤立の状況、(4)老後への備え、を取り上げる。そして、「二人以上世帯に属する中年未婚者」と「単身世帯に属する中年未婚者」を男女に分けて、[1]二人以上世帯に属する中年未婚男性(二人以上世帯男性)、[2]二人以上世帯に属する中年未婚女性(以下、「二人以上世帯女性」)[3]単身世帯の男性(以下、「単身男性」)、[4]単身世帯の女性(以下、「単身女性」)の4つのグループに分けて考察していく。
1. 経済状況
「本人が過去1年間に得た年収」を比べると、二人以上世帯男性の25.4%、二人以上世帯女性の38.5%が本人年収100万円以下となっていて、単身男性19.6%、単身女性15.5%に比べて高い水準にある(図表2)。
では、二人以上世帯に属する中年未婚者は、なぜ低所得者の比率が高いのだろうか。この一因として、二人以上世帯は、単身世帯と比べて無業者の比率が高いことがあげられる。従業上の地位を比べると、二人以上世帯の2割前後が無職となっており、単身世帯に比べて高い(図表2)。一方、非正規社員の割合をみると、世帯の違いよりも男女の違いの方が大きい。そして、二人以上世帯女性では、非正規社員の構成比が34.7%、無職が20.3%となっていて、非正規社員と無職者の比率が、4グループの中で最も高い。
次に、二人以上世帯について「親が生計維持の中心者」となっている人の割合をみると、二人以上世帯男性43.9%、二人以上世帯女性66.8%が「親が生計維持の中心者」となっている。さらに、本人年収100万円未満の二人以上世帯に限ってみると、「親が生計維持の中心者」の割合は、二人以上世帯男性の70.4%、二人以上世帯女性の80.2%にのぼる(藤森 2016:85)。したがって、二人以上世帯の中には、低所得者を中心に、本人の収入が低いために親との同居によって生計を維持している人が相当程度いると推察される。
図表2 本人年収100万円以下の人の割合と従業上の地位
本人年収100万円以下 | 従業上の地位 | ||||||
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正社員 | 非正規社員 | 自営業・家族従業員 | 自由業・内職 | 無職 | その他 | ||
二人以上世帯男性 | 25.4% | 39.8% | 19.6% | 14.9% | 4.6% | 18.7% | 2.5% |
二人以上世帯女性 | 38.5% | 31.8% | 34.7% | 6.6% | 5.0% | 20.3% | 1.6% |
単身男性 | 19.6% | 47.7% | 19.0% | 12.3% | 3.1% | 13.9% | 4.0% |
単身女性 | 15.5% | 43.4% | 31.2% | 4.4% | 7.5% | 11.7% | 1.8% |
(資料)藤森克彦(2016)「中年未婚者の生活実態と老後リスクについて―『親などと同居する2人以上世帯』と『単身世帯』からの分析」(Web Journal『年金研究』No.3、公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構、2016年6月)より転載。
2. 親の介護
「家族に要介護者がいるか(いたか)」を尋ねると、「要介護者がいる(いた)人」の割合は、二人以上世帯女性21.5%、二人以上世帯男性18.2%、単身女性14.3%、単身男性9.6%、となっている(藤森2016:93)。二人以上世帯の2割前後が、家族に要介護者を抱えているか、抱えていた。
そして、家族に要介護者がいる(いた)と回答した人に対して「どのような対処をしているか(したか)」を尋ねると、「仕事をやめて自分で介護」は、二人以上世帯男性23.1%、二人以上世帯女性19.9%、単身男性11.6%、単身女性5.5%となっている(藤森 2016:94)。家族に要介護者のいる(いた)二人以上世帯では、2割程度が介護離職をしている。
ところで、先述の通り、二人以上世帯は無業者の比率が高い。そこで二人以上世帯の無職女性に対して「無職の理由」を尋ねると、上位3位は、[1]親の介護など、家庭の都合で手が離せないから(37.7%)、[2]希望する仕事に就けないから(27.5%)、[3]仕事をするには体がきついから(23.9%)となっている(藤森 2016:87)。二人以上世帯に属する無職の中年未婚女性の4割弱は、「親などの介護など、家庭の都合で手が離せないから」を無職の理由にあげており、最も高い。
一方、二人以上世帯の無職男性に無職の理由を尋ねると、上位4位は、[1]仕事をするには体がきついから(29.0%)、[2]希望する仕事に就けないから(27.1%)、[3]自分が仕事に就かなくても生活できるから(23.4%)、(4)親などの介護など、家庭の都合で手が離せないから(21.5%)、となっている(藤森2016:87)。二人以上世帯の無職女性ほど高い割合ではないが、2割程度の同男性が無職の理由として「親などの介護」をあげている。
3. 社会的孤立の状況―病気のときに頼れる人
「現在、病気のときに看護や家事をしてくれる人」の有無を尋ねると、「特にいない」という比率は、単身男性76.5%、単身女性61.8%、二人以上世帯男性46.8%、二人以上世帯女性35.4%、となっている(藤森 2016:92)。二人以上世帯の方が単身世帯よりも「特にいない」という比率が低い。この背景には、二人以上世帯は、現在、親などと同居しているので、同居人から「病気のときに看護・家事」といった支援を受けられることが考えられる。
一方、「老後、病気のときに看護や家事をしてくれる人」について「特にいない」という比率は、単身男性85.9%、二人以上世帯男性82.1%、単身女性77.1%、二人以上世帯女性68.4%となっている(藤森 2016:104)。二人以上世帯、単身世帯ともに「現在」よりも「老後」の方が「特にいない」という比率が高まるが、その上昇幅をみると、二人以上世帯男性35.3ポイント、二人以上世帯女性33.0ポイント、単身女性15.3ポイント、単身男性9.4ポイントとなっていて、二人以上世帯で老後の比率が急上昇している。この背景には、二人以上世帯では、老後に親が死亡する可能性があり、親から「病気のときの看護・家事」といった支援を受けることが難しくなるためと考えられる。
4. 老後への備え
公的年金の加入状況をみると、二人以上世帯男性の66.0%、二人以上世帯女性の60.7%が国民年金のみに加入している(国民年金第1号被保険者)。一方、単身世帯では、単身男性の55.0%、単身女性の48.6%が国民年金のみに加入している(藤森 2016:98)。
また、「国民年金加入者に占める国民年金保険料の未納者」の割合をみると、二人以上世帯男性10.3%、単身男性10.3%、単身女性6.8%、二人以上世帯女性5.6%となっている。男性において未納者の比率が高い。
さらに、老後に備えて預貯金や株などの金融資産残高を尋ねると、金融資産残高がゼロの人の割合は、二人以上世帯女性45.4%、二人以上世帯男性34.2%、単身女性34.1%、単身男性24.2%となっている(藤森 2016:101)特に、二人以上世帯女性では、その5割弱が老後に備えた金融資産がない状況である。
求められる対策
では、親などと同居して二人以上世帯を形成する中年未婚者の生活上のリスクに対して、どのような対策が必要であろうか。以下では、必要な対策として、地域における相談窓口の拡充、就労支援策の強化、短時間労働者への厚生年金の適用拡大、介護保険制度の拡充、をあげていく。
1. 地域における相談窓口の拡充
第一に、社会的孤立に陥っている人に対する相談窓口の拡充である。一般に、中年層であれば就職をしているので、社会的孤立には陥りにくいと考えられてきた。また、二人以上世帯に属する中年未婚者は親などと同居しているので、この点からも孤立しにくいと考えられている。
しかし、無職の中年未婚者は、職場での人間関係をもたないので、孤立に陥りやすいことが推察される。また、二人以上世帯では親の介護を抱える中年未婚者の比率も高く、世帯全体として孤立に陥りがちなことが考えられる。さらに、親亡き後、孤立の問題が深刻化することも懸念される。
まずは、孤立を含む様々な生活上のリスクについて、相談できる窓口が必要である。この点、2015年に生活困窮者自立支援制度が施行され、全国の福祉事務所設置自治体には、生活困窮者の相談窓口の設置が義務付けられた。この相談窓口では、経済的困窮のみならず、社会的孤立を含めた幅広い相談にのっている。
一方、孤立に陥っている人の中には、自ら相談窓口に来られない人も多い。相談員が地域に出向くことが望まれるが、このような活動を行えるだけの体制が整っていないところも少なくない。財源を確保して、相談体制を強化することが必要であろう。
2. 就労支援策の強化
第二に、二人以上世帯の中年未婚者に対して就労支援を強化していくことだ。中年未婚者が無職であっても、親に年金等の収入があればそれに頼ることも考えられるが、親亡き後の生活に困難が予想される。一方、長期に無職であった中年未婚者の中には、様々な事情を抱えているために、自力で生活再建が難しい人が少なくない。単に職業を紹介するだけでは就職に結びつかず、それぞれの方の事情をじっくり聞き、本人に寄り添いながら、一緒に生活再建の道筋を考えていくことが重要になる。
また、すぐに一般就労を始めることが難しい人には、何らかの支援を受けながら就労していく場も求められる。こうした「支援付き就労」は、「中間的就労」と呼ばれ、先述した生活困窮者自立支援制度の中に公的な制度として位置づけられた。
しかし、中間的就労への潜在的なニーズを考えると、現在の中間的就労の場は大きく不足していると推察される。今後中間的就労を広げていくためには、中間的就労を行う民間事業者への政府による支援の拡充と、中間的就労を受ける訓練生への生活費等の支援も必要であろう。
3. 短時間労働者への厚生年金の適用拡大
第三に、短時間労働者への厚生年金の適用拡大である。先述の通り、二人以上世帯に属する中年未婚者の6割以上は、国民年金のみに加入して厚生年金に加入していない。この中には、90年代半ば以降の「就職氷河期」に就職活動を行ったため、不本意ながら非正規労働に従事して、中年期を迎えた現在も短時間労働を続ける人が含まれる。国民年金の受給額は、満額で月6.5万円なので、高齢期の収入源が国民年金(基礎年金)だけであれば、貧困に陥りやすい。
問題なのは、短時間労働者は被用者であるにもかかわらず、自営業者等グループが加入する国民年金第1号被保険者となっていることである。短時間労働者は被用者なのだから、被用者グループが加入する厚生年金に加入すべきである。もし短時間労働者に厚生年金が適用されれば、国民年金(基礎年金)に報酬比例部分が上乗せされる。そして、40代・50代の中年未婚者には、10年以上の就労可能期間が残されている人が多い。この期間を厚生年金に加入すれば、高齢期の貧困を自ら予防できる人が増える。厚生年金の適用拡大は、待ったなしで進めていくべき政策である。
4. 介護保険の拡充
第四に、財源を確保して、公的介護保険を強化していくことである。先述のように、二人以上世帯に属する中年未婚者を中心に、親の介護をきっかけに離職し、未婚のまま中年期を迎える者が少なくない。現在は親の年金で生活していても、親亡き後の生活に不安を抱えている人も多いだろう。
公的介護保険制度を充実させて「介護の社会化」を強化できれば、親が介護になっても離職せずに働き続けられる人が増えていくだろう。また、仕事と介護の両立ができるようになれば、日常生活が親の介護だけに終始することなく、様々な人との交流の場をもつことも可能になろう。
以上のように、老親と同居する中年未婚者が増加する中で、世帯内の支え合いだけでなく、社会保障制度や地域における支え合いを強化することが求められている。
注
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*1総務省(2004)『平成16年家計調査』の「用語の解説」では、「標準世帯」の定義として「夫婦と子供2人の4人で構成される世帯のうち,有業者が世帯主1人だけの世帯に限定したものである」と記されている。なお、2005年版以降の『家計調査』には、「標準世帯」という表記はない。
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*2本稿において、「中年未婚者」とは、40代と50代の未婚者をいう。
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*3本節は、藤森(2016)の一部を要約して執筆した。
参考文献
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奥田知志・稲月正・垣田裕介・堤圭史郎(2014)『生活困窮者への伴走型支援』明石書店
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訓覇法子・田澤あけみ(2014)『実践としての・科学としての社会福祉』法律文化社
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玄田有史(2013)『孤立無業(SNEP)』日本経済新聞出版社
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厚生労働省年金局,2018,「被用者保険の適用拡大について」(第4回社会保障審議会年金部会、資料1、2018年9月14日開催)
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藤森克彦(2017)『単身急増社会の希望』日本経済新聞出版社
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