CCU技術の社会実装に向けた環境価値の定量化 カーボンリサイクルにおける炭素除去のGHG算定ルール

2023年10月12日

サステナビリティコンサルティング第1部

松崎 祐太

カーボンニュートラル実現のためには、現在は化石燃料から製造されている燃料や化学品を化石燃料以外から製造する必要がある。それを実現する技術の1つとして、化石燃料を利用した際に発生するCO2や大気中のCO2を回収し原料として利用するCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)が注目されている。国内では、NEDOが設立した予算規模2兆円のグリーンイノベーション基金において、合成燃料をはじめとして、コンクリートなどさまざまな製品を対象としたCCU技術の研究開発・実証が行われている。

CCUなどの次世代の脱炭素技術の導入においては、エネルギー効率向上、安全性確保、コストダウンなどに係る技術開発が重要となる。それと同時に、CCU製品の製造、利用に伴うCO2排出量に閾値を定め、その数値以下のCCU技術に対しては補助金を支給するなどのインセンティブを与える観点から、技術を導入した場合のCO2排出量・削減量を算定することも重要となる。

CCU技術は、このCO2削減量評価の点でほかの次世代技術にはない複雑さを抱えている。たとえば、CCU製品の原料となるCO2には、化石燃料を利用した際に発生するCO2や大気中に存在するCO2などさまざまな回収源があり、どのCO2を利用するかで削減の考え方が異なる。また、CCU製品の利用・廃棄によってCO2が再び大気中に排出される場合とそうでない場合があり、これによっても削減の考え方が異なる。さらに、CCU製品の製造事業者や利用事業者が異なる場合、どの事業者がどれくらい排出もしくは削減したかを取り決める必要が出てくる。実はCCU製品を対象とするCO2排出削減の算定方法が各国・各機関でさまざまに示されているが、現状において国際的に統一された算定方法はまだ確立されていない。

そのような状況の中で、GHGプロトコルイニシアティブは2022年9月に「Land Sector and Removals Guidance(土地セクター・炭素除去ガイダンス)」のドラフトにおいて、大気中からのCO2除去や除去したCO2の利用に係る算定方法案を提示した。GHGプロトコルは企業のGHG排出量算定手法として国際的に認知されており、この方法案はCCU利活用を検討する企業から注目を集めている。

同ガイダンスの特徴の1つは、大気へのGHGの放出を「排出(emissions)」、大気から大気以外の貯留層もしくは媒質へのGHGの移動を「除去(removal)」と定義し、排出と除去を明確に区別した算定方法を示した点にある。同ガイダンスでは、大気から直接CO2を分離回収するDirect Air Capture(DAC)により回収したCO2を原料として利用した場合、その利用量をGHG除去量として計上することが可能となる。この考え方を、ある企業がDACにより回収したCO2をCCU技術によって合成燃料にして利用するケースに適用してみよう。このケースでは、大気から回収したCO2は「除去」に、合成燃料の燃焼に伴い発生するCO2は「排出」に計上される。その企業のGHG排出量は排出から除去を差し引いたものとなり、仮に両者が等しければゼロとなる。次に、化石燃料を原料として合成燃料を製造しそれを利用するケースに適用してみよう。このケースでは、CO2の除去は存在しないため、合成燃料の利用に伴って発生するCO2がそのままGHG排出量となる。

同ガイダンスのもう一つの特徴は、サプライチェーン上のどこかでGHG除去が行われた場合に、サプライチェーンに存在する全ての企業がGHG除去を計上できるとした点である。先の例で、合成燃料の回収・製造事業者と利用事業者が異なる場合を例に解説しよう。回収・製造事業者はGHG除去量をScope1(自社排出量)として計上し、合成燃料の燃焼に伴うGHG排出量をScope3(サプライチェーン排出量)として計上することになる。一方、利用事業者はGHG除去量をScope3として計上し、合成燃料の燃焼に伴うGHG排出量をScope1として計上することになる。

このように、国際的に統一されたCCU技術のCO2算定方法が確立されれば、企業によるCCU製品の製造や利用時のCO2排出量を評価することが可能となり、排出量をもとにした政策的支援の具体案の策定が進むことが期待される。その点で、同ガイダンスの発表はCCU技術の社会実装への一助となる。

しかし、CCU技術を早期に導入するためには大きな課題がある。それは、除去技術の実用化時期である。たとえば、経済産業省が策定した「カーボンリサイクルロードマップ」(2023年6月策定)では、DACの実用化の目標価格の達成時期は2050年とされている。その実用化時期まで企業にCCU技術を導入するインセンティブが生まれない。この課題を解決する方法の1つとして、たとえばDACなどの技術が実用化するまでと限定したうえで、化石燃料の利用時に発生するCO2を回収した場合も「排出削減」として、除去と同様の扱いを認めることが考えられる。実際にEUでは、再生可能エネルギー導入の目標設定を求める法的枠組みであるRED(Renewable Energy Directive)の改定案(2021年7月策定、2023年3月暫定的な政治合意)において、大気中のCO2だけでなく、化石燃料の利用時に発生するCO2を原料として合成燃料を製造した場合も合成燃料のライフサイクルGHG排出量からその原料CO2相当量を差し引くことを、最長2040年までの期限付きで認めている。

GHGプロトコルイニシアティブは、同ガイダンスのドラフトを公表した後、2022年9月28日から11月30日までの期間で、企業・団体からのパブリックコメントを受け付けた。このパブリックコメントを受けて、ガイダンスの確定版では内容が一部変更になる可能性もある。これは筆者の想像に過ぎないが、パブリックコメントには「化石燃料の利用時に発生するCO2を回収した場合、『排出削減』として認めてはどうか」というような意見が含まれているかもしれない。確定版は2024年第2四半期に公表される予定である。化石燃料の利用時に発生するCO2の取り扱いをはじめとして、確定版の内容に注目したい。

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