
2023年9月25日~29日にドイツ連邦共和国のボンで第5回国際化学物質管理会議(ICCM5)が開催され、「Global Framework on Chemicals (GFC) - For a Planet Free of Harm from Chemicals and Waste」が採択された*1。化学物質と廃棄物の適正管理に関する国際的な枠組みは、従来は2006年に策定の「SAICM(Strategic Approach to International Chemicals Management:国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ)」によって定められていたが、今後はGFCが国際的な枠組みとなる。
SAICMは、2002年のWSSD(持続可能な開発に関する世界首脳会議)で採択された2020年目標(2020年までに化学物質が人の健康・環境に与える著しい悪影響を最小化するような方法で生産・使用されるようにする)へ向けた戦略や行動計画を定めていたが、後述の例のように課題を残すこととなり*2、2020年目標は未達に終わったとされる。これを背景に、GFCは一層野心的で緊急の行動が必要であるとの認識のもと作成された。
たとえば、SAICMでは製造業以外のステークホルダーの関与の不足が指摘された。これを受け、GFCでは多様な分野(環境、経済、社会、保健、農業、労働等)の多様な主体(政府、政府間組織、市民社会、産業界、学術界等)によるアプローチであることや、化学物質のライフサイクル全体が対象であることが強調されている。しかし、SAICMも元々は多様な分野、多様な主体を掲げていたことから、これが有効に機能するためには、ステークホルダー間の緊密なコミュニケーションが前提として必要になるだろう。
また、SAICMでは5つの目的と273の行動項目が定められたが*3、進捗報告が低迷し、取り組みの把握が不十分であることが指摘された。GFCでは、5つの戦略的目的と28の目標が定められたところ、オンラインツールの導入によりこれらの進捗報告をしやすくし、取り組み状況を可視化するとされている*4。273の行動項目をベースにすると、数の規模感としても進捗把握に困難さがあると思われるが、GFCでは28の目標に絞られているため、この点でも進捗把握の観点からは意義深いところがあると思われる。
なお、SAICMの目的とGFCの戦略目標の趣旨を比較すると、基本的にはSAICMの要素が組み替えられてGFCが作成されているが、GFCでは持続可能性・イノベーション・安全な代替品に力点を置いた戦略目標Dが設定されている(下図)。従来の化学物質管理では、安全性はコストとの関係で捉えられてきた。しかし、今後は安全性と経済成長を同時に達成することがトレンドとなり、そのような流れの中で化学物質管理に対する認識や管理のあり方を見直すことが重要になるだろう。
GFCの戦略目標とSAICMの目的に係る比較
GFCの戦略目標 | SAICMの目的 |
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出所:みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
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*1UNEP SAICM「SAICM/ICCM.5/4 Report of the International Conference on Chemicals Management on the work of its fifth session (advance)」
https://staging.saicm.org/events/iccm5 -
*2UNEP SAICM「FINAL REPORT Independent Evaluation of the Strategic Approach from 2006 - 2015」(PDF/1,410KB)
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