
2024年6月末、資源エネルギー庁から持続可能な航空燃料(SAF)の導入目標量を「2019年度に日本国内で生産・供給されたジェット燃料のGHG排出量の5%相当以上」とする方針が「第5回持続可能な航空燃料(SAF)の導入に向けた官民協議会」で示された。これにより、これまでの「SAFを何リットル導入/供給するのか」といった“量”の議論から、GHG排出量をどのくらい削減できるのか、言い換えれば、環境負荷の軽減、持続可能性の担保という“質”の議論に大きく舵が切られたと感じている。拙作の「バイオエコノミー戦略から考えるバイオ燃料の発展に向けた課題」(2024年7月公開)では、バイオマスエネルギーの原料生産一般の難しさに触れたが、“質”の担保が加わり難しさはより増すものと思われる。本コラムでは、バイオ製品の“質”の議論について振り返りつつ、ともすれば“量”を確保するために技術偏重となってしまうバイオエコノミー関連の議論について問題提起をしたい。
国内でバイオ製品の“質”に言及した直近の事例は、2024年6月頭に示された「バイオエコノミー戦略」であろう。本戦略においては、バイオものづくり・バイオ由来製品の市場環境の整備に向けた取組として、「市場創出・拡大に向けては原料や製造プロセス、ライフサイクルの観点での環境負荷低減効果等の付加価値を適切に評価・算定を行った上で見える化することが重要である。」と明記されている。ただし、技術開発に関しては多く記載があるものの“質”に関する記載は上記のみであり、“質”の内容も主にGHG排出削減や工場廃水等による環境汚染が念頭に置かれているように読める。
しかしながら、バイオ製品においては従前から本戦略で念頭に置かれているものよりも広範囲に“質”の議論や評価が行われてきた。その中では、製造工程でのGHG排出や環境汚染に限らず、バイオマス原料生産時に係るものも言及されている。例として、食料競合や希少種や絶滅危惧種等の生息地の維持や児童労働及び強制労働がないことの証明が挙げられる。
燃料関係の事例でいえば、国内FIT/FIP制度の持続可能性基準では、GHG等の排出・汚染削減に加えて、土地利用変化への配慮、生物多様性の保存、児童労働・強制労働の排除等が求められている。国際的なものでいえば、CORSIA適格燃料でも持続可能性基準が設定されている。国内と同様にGHG排出量の要件に加え、水使用、廃棄物の適切な取り扱い、生物多様性の保全、労働者の人権や先住民族の土地利用権といった点にも言及がなされている。
昨今、脱炭素の取組や資源循環の分野で何かと話題に上がるSAFについても、冒頭述べたとおり、国内においてその“質”の議論がなされている。欧州においては既にバイオ燃料と同様にSAFに関しても、食料競合をしない原料から作られることや、生物多様性地域や炭素貯留量が多い土地からバイオマスを取得しないことを義務付けている。このようにバイオ製品についても、一般製品同様に製品の機能的な優位性に加え、原料の“質”が当然のように求められる風潮になってきている。
社会課題の解決と経済成長を達成する手段の1つとして、バイオエコノミーへの期待感が昨今高まっている。その定義は上述の「バイオエコノミー戦略」によれば「バイオテクノロジーや再生可能な生物資源等を利活用し、持続的で、再生可能性のある循環型経済社会を拡大させる概念」である。バイオエコノミー実現のためには、“量”の確保に向けての技術開発やそれに向けた人材育成は言うまでもなく必要だ。しかしながら、持続可能性といった“質”が担保された原料が入手できなければ、いくら優れた技術であっても昨今の市場で受け入れられることは難しい。企業においては、“量(のための技術開発)”のみに注力するのではなく、その“質(特に原料確保の観点)”においても同様に戦略を立てるべきである。この2つが達成されて初めて、本来の意味でのバイオエコノミー戦略となるのではないだろうか。
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