トランプ関税による企業への影響と今後の企業戦略策定について

2025年7月11日

戦略コンサルティング部

佐藤 翔樹
永瀬 颯馬

ナレッジ・オピニオン

不透明感を増す世界情勢

世界経済の動向は、企業の経営戦略策定のうえで考慮すべき重要な外部環境の潮流のひとつである。自国第一主義を掲げる米国の第2次トランプ政権における関税引き上げへの動きは、世界経済や地域経済、また各種貿易フローや金融市場に影響を与え、今後の経営環境への不透明感は、これまでになく強まっている。投資やM&A等、企業経営として重要な判断をしていかねばならない中で、今こそ外部潮流の変化への感度と骨太な戦略構築が重要ではないだろうか。今回は、トランプ関税*1による企業への影響が不透明な中での経営戦略策定について考えてみたい。

第2次トランプ米政権によるトランプ関税の概要

2025年4月2日、トランプ米政権は輸入品に対する相互関税を発表した。関税率は今後の政府間交渉により変更が予想されるが、日本に対しては、25%(各国一律関税10%に加え、日本独自の上乗せ関税15%)の関税率を適用すると発表している。みずほリサーチ&テクノロジーズでは、トランプ関税は日本のGDPの下押し要因になり、特に産業別では、自動車をはじめとした輸送用機器、設備機械、電気・電子機器、化学製品等への影響が大きいと予想している。

トランプ関税が日本企業に与える影響

各企業にとっての最優先事項は、長期的なトレンドへの変化の兆しを確認すると共に、自社の事業がトランプ関税による影響をプラスマイナス双方どれだけ受けるのかを迅速に把握することであろう。

①日本企業への直接的な影響

日本企業への直接的な影響としては、日本国内から米国への輸出品に対する関税賦課が生じることに加え、グローバルで活躍する多くの日本企業は生産拠点の海外移転を進めていることから、中国や中南米など第三国にて製造し米国に輸出する製品に対する関税賦課を考慮する必要がある。対象となる関税の対象品の製造・販売に関わる事業はもちろんのこと、その製造・販売に関わる原材料の生産・調達事業、輸送事業なども含まれることになる。これらの企業は関税による米国市場での代替品に対し価格競争力低下のリスクを考える必要があろう。また、日本から米国という地理的な方向性だけではなく、米国と中国、アジア等複眼的に地政学的な動向を確認する必要がある、更に、米国市場で輸入品の需要が低下することで、例えば中国からの米国への輸出製品が日本やASEAN諸国等米国以外の市場に流れることも想定され、米国以外の市場においても競争環境が変化する恐れもあろう。
一方、過去に地産地消の戦略を推し進め製造地がすでに米国に存在する場合は、トランプ関税によって輸入製品の価格競争力が低下することで、事業環境の追い風となる可能性がある。また、競争力が高く代替品が存在しない事業・製品については、高い関税を課せられたとしてもその需要は引き続き維持されよう。例えば、半導体や半導体製造装置といった業界は、短期的には米国内で代替となる製品の製造が難しく、米国への輸出事業もあまり大きな影響は受けないと予想される。従って、地産地消のサプライチェーン構築、高付加価値製品へのシフトといった長期戦略に大きな変化は考えにくいと言えよう。付加価値が低く他国・他社製品で容易に代替可能な製品・事業の場合は、関税による価格競争力の低下が業績の悪化にダイレクトに繋がるだろうが、米国がこういった産業まで保護するのかは今後の政策動向を注視する必要があり、結果としての変化は少ないかもしれない。

②日本企業への間接的な影響

日本企業への間接的な影響として、関税の価格転嫁によるインフレを背景とした米国消費者の購買力低下ならびに、関税引き上げに伴う各国 GDP の下振れ影響に考慮する必要がある。また、これらに加え、各企業の関税影響の少ない事業への転換による市場環境の変化も今後発生する可能性があろう。

トランプ関税を踏まえた企業の今後の動き

トランプ関税による影響を低減させるための、今後の産業や企業の動向として、以下の戦略が想定される。

①関税分の価格転嫁

関税の対象品の利益率を維持する、もしくは悪化を最低限にとどめるために、関税の上昇分を価格に転嫁する動きが予想される。実際、2025年4月にFRBが発表した地区連銀経済報告(ベージュブック)では、米国内で関税引き上げによる価格上昇を顧客に転嫁する動きが見られると報告されている。但し、価格転嫁については米政権ならびに米国消費者がセンシティブになっており、値上げによる需要・販売量の減少リスクを見極める必要がある。

②製品競争力の更なる強化

製品競争力と関税の影響は相関関係にあり、関税の影響は競争力の低い製品ほど強く受ける。従って、既存の製品の品質面等の競争力を磨き上げる、またはより競争力のある新製品を扱うことで関税による影響を低減することが最大の防御策であるともいえる。米国における重要産業となる程関税障壁は高くなる可能性はあるが、まずは価格以外の差別化要因、高付加価値化を目指すことに変わりはない。

③地産地消の進展とサプライチェーンの再構築

短期的には製品価格で調整可能も、長期的には生産地の移管という選択肢も考慮すべきである。もし自社製品の最終消費地が米国である場合は、地産地消としての米国進出が一番のリスク回避であり進めてきた企業も多い。トランプ関税以前にも、2010年前後の円高期も含め、生産地の消費地に合わせた最適調整は継続的な経営戦略のテーマである。これまでも米国内のM&A、新規投資への動きは見受けられたが、今後も米国域内での事業拡大は継続していくことが想定される。
一方、トランプ関税を受けて、高い関税が設けられた国から米国内やより関税の低い国にサプライチェーンを移すことで、関税を回避して米国への輸出事業を継続する方法も考えられる。実際、第1次トランプ政権時において、中国製品に対し最大25%の追加関税措置を講じたことがあったが、多くのグローバル企業は、中国の生産拠点をベトナムなどの第三国に移行して対応するなどしたため、効果は限定的であった。ただし、今回においては、関税政策の不確実性が高く、サプライチェーン再構築という施策の効果自体が限定的になる恐れがある点に留意が必要である。また、意図的に回避していると認識された産業や企業については、米政権による更なる関税措置の対象となる可能性もある。なお、新たな製造拠点の設置等、サプライチェーンの変更には多額の投資と多くの時間を必要とすることから、先行きが不透明な状況で多額の投資を行ってサプライチェーンの再構築を行う価値があるかは十分に検討する必要があろう。

④米国以外の市場の開拓

関税による不確実性を低減させるため、米国以外の有望市場にリソースを投入し、販売先としての地域分散として市場開拓を図る選択肢も考えられる。但し、製品によっては米国の代替市場を見つけることは容易ではなく、また同様に行き先を探している中国企業等、新たな市場で事業を行う上では多くの場合投資を含めた様々な準備や新たなる競争に備える必要があろう。

⑤ビジネスモデル転換

中長期において、例えばハード〈モノ〉からソリューション〈コト〉提供へのシフト等、企業のビジネスモデルを大きく変革することで関税の影響を受けにくい業態にシフトすることも選択肢となろう。

さいごに

トランプ米政権の関税政策が、今後どのように変化していくか予測することは難しい。ただ、この不確実性が定常化した中での経営判断が求められるという状況に変化は無いかも知れない。その為、企業ごとに自社の事業環境に関税がどのような影響を及ぼすのか影響面を地政学、金融市場、貿易やサプライチェーン上の影響、競合動向等、複眼的に認識し、どのような対策が考えられるのか、長期的な潮流としての軸を定めたうえで複数のオプションを検討しておく必要がある。みずほリサーチ&テクノロジーズでは、金融系シンクタンク・コンサルティングファームとしての総合力を活かし、外部環境の整理・既存事業の棚卸しを踏まえた中期経営計画の見直しや、バリューチェーンの影響を踏まえた新規事業の検討支援など、貴社の羅針盤としてあらゆる戦略検討の伴走支援を実施しているので、いつでもご相談いただきたい。

  1. *1
    トランプ政権が導入する関税措置のこと。すべての貿易国からの輸入品に一律の追加関税を課す「相互関税」のほか、輸入車およびその部品に対して追加関税を課す「自動車関税」、鉄鋼およびアルミニウムに対して追加関税を課す「鉄鋼およびアルミニウム関税」等で構成される

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