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単身世帯の増加と求められる社会政策の強化(2/2)

みずほ情報総研 主席研究員 藤森 克彦

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    本稿は、『月刊DIO』 2019年9月号(発行:公益財団法人連合総合生活開発研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

3 単身世帯が抱える生活上のリスク(続き)

(1)貧困リスク(続き)

A.勤労世代の単身世帯の貧困リスク

勤労世代の単身世帯で相対的貧困率が高い要因として、単身世帯は二人以上世帯と比較して、非正規労働者や無業者となる人の比率が高いことがあげられる。例えば、50代の単身男女と二人以上世帯の世帯主について、「非正規の雇用者」の比率を比べると、二人以上世帯の世帯主では10.0%なのに対して、単身男性では12.3%、単身女性では29.5%にのぼる(図表3)。また、「無業者」の比率も、50代の二人以上世帯の世帯主の無業者の割合は6.9%なのに、単身男性は17.9%、単身女性は22.5%と高い水準になっている。

では、現役世代の単身世帯は、二人以上世帯の世帯主に比べて、なぜ無業者や非正規労働者の割合が高いのだろうか。この背景には、無業者・非正規労働者は経済的に不安定なために結婚が難しく、結果として単身世帯になることが考えられる。

この点、正規労働者と非正規労働者を男女に分けて賃金カーブ(2014年)を比べると、男性の正規労働者の賃金は50代前半まで大きく上昇していく(図表4)。これに対して、非正規労働者の賃金カーブは男女ともにほぼ横ばいである。また、女性の正規労働者の賃金カーブも、男性の正規労働者の賃金カーブよりも低い水準で推移している。

一方、家庭をもてば、子供の成長に伴って教育費や住宅費が増えていくことが考えられるが、非正規労働者の賃金カーブはフラットなため、将来結婚した場合の教育費や住宅ローンを賄うことが難しく、雇用も不安定である。このことが未婚化の一因になっていると考えられる。

なお、厚生労働省『平成27年労働力調査(詳細集計)』から25~39歳の就業形態別の未婚率をみると、男性の正規労働者の未婚率は41.4%なのに対して、男性の非正規労働者の未婚率は75.7%と著しく高い。一方、女性では、正規労働者の未婚率は52.8%なのに、非正規労働者の未婚率は35.4%となっていて、正規労働者の未婚率が非正規労働者よりも高い。これは、女性の場合、結婚や出産の後に、子育てをしながら非正規労働に従事する人が多いためと考えられる。

図表3 単身世帯と二人以上世帯の世帯主の就業状態の比較 (2015年)

(単位:%)

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有業者 無業者
雇用者 自営・家族従業者 完全失業者 非労働力
正規の雇用者 非正規の雇用者
30代

二人以上世帯
の世帯主

96.7

83.6

6.9

6.1

3.3

1.6

1.8

単身
男性

91.3

74.7

12.6

4.1

8.7

5.5

3.2

単身
女性

90.5

66.1

21.8

2.6

9.5

4.8

4.7

40代

二人以上世帯
の世帯主

95.6

78.6

8.5

8.6

4.4

1.9

2.5

単身
男性

88.3

70.8

11.1

6.5

11.7

7.1

4.5

単身
女性

85.4

56.3

24.5

4.6

14.6

6.0

8.6

50代

二人以上世帯
の世帯主

93.1

71.9

10.0

11.3

6.9

2.5

4.4

単身
男性

82.1

61.5

12.3

8.2

17.9

9.0

8.9

単身
女性

77.5

42.0

29.5

6.0

22.5

5.8

16.7

  1. (注1) 単身世帯では就業状態の不詳者が数多く見られる。そこで二人以上世帯の世帯主も含め、不詳者は除外して把握できる就業状態数について割合を求めた。
    (注2) 「二人以上世帯の世帯主」は、男女を問わず、世帯主となっている者の就業状態を示す。
    (注3) 「完全失業者」とは調査期間中、収入を伴う仕事を全くしなかった人のうち、仕事に就くことが可能で、かつ公共職業安定所に申し込むなどして積極的に仕事を探していた人。「非労働力」とは、同期間中に収入を伴う仕事を全くしなかった人のうち、休業者や完全失業者以外の人。
    (資料) 総務省『平成27年国勢調査』(就業状態等基本集計)第11表により、筆者作成。

図表4 正規/非正規労働者の賃金カーブと教育費、住宅ローンの負担額(月額)

図4
  1. (注1)「教育関係費」と「土地家屋借金返済」は、二人以上の勤労世帯で住宅ローンを返済している世帯の支出額。
    (注2)正規労働者と非正規労働者の賃金は、おのおの総世帯の賃金であって、教育費や土地家屋借金返済の負担をしている世帯の賃金ではないことに注意。
    (資料)総務省(2014)『平成26年家計調査』および厚生労働省(2014)『賃金構造基本調査』により筆者作成。

B.高齢単身世帯の貧困リスク

次に、高齢単身世帯について、相対的貧困率が高い要因を考えていこう。まず高齢単身世帯の収入構成をみると、公的年金が70%を占めており、その比重が大きい。

そこで、公的年金との関係から、高齢単身世帯が貧困に陥りやすい要因をみると、[1] 高齢単身世帯は二人以上世帯に比べて、「国民年金(基礎年金)」のみを受給しており、公的年金の二階建て部分である「厚生年金・共済年金」を受給しない人の比率が高いこと、[2] 厚生年金・共済年金を受給する単身世帯であっても、女性を中心に現役時代の賃金が低い人や、就労期間が短い人の比率が高いこと、[3] 高齢単身世帯では、男性を中心に、現役時代に年金保険料を納めずに無年金者となった人の比率が高いこと、といった点があげられる。

(2)社会的に孤立するリスク

次に、社会的に孤立するリスクについて考察していく。「社会的孤立」については一義的な定義があるわけではないが、ここでは家族や友人、近隣の人々など、他者との関係性が乏しいことと定義する。

では、単身世帯の孤立状況は、どのようになっているのであろうか。孤立の測定指標は定まっているわけではないが、以下では、「会話頻度」と「頼れる人の有無」から、世帯類型別に孤立状況をみていこう。

まず、会話頻度をみると、高齢単身男性の15.0%が「2週間に1回以下」しか会話をしていない(図表5)。また、非高齢の単身男性においても同割合が8.4%と2番目に高い。現役期であれば職場における会話があるはずだが、無職の単身世帯は職場や世帯内での会話がなく、会話頻度が乏しいことが推察される。

次に、「頼れる人の有無」をみると、「(子ども以外の)介護や看病」については、「高齢の単身男女」「非高齢の単身男性」の4割以上が、「頼れる人がいない」と回答している。また、「日常生活のちょっとした手助け」については、「高齢の単身男性」の3割、「非高齢の単身男性」の2割強が、「頼れる人」がいない状況である。

総じてみると、高齢期及び現役期の単身男性が、他の世帯類型よりも孤立に陥りやすいことが推察される。なお、同じ単身世帯でも、女性は男性よりも孤立に陥る人の比率が低い。この背景には、単身女性は別居家族との関係を持つ人の比率が高いことに加えて、高齢の単身女性は「近所」、現役期の単身女性は「友人」とのつながりを持つ人の比率が男性よりも高いことがあげられる。

図表5 世帯類型別にみた社会的孤立の状況(2017年)

(単位:%)

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会話頻度 頼れる人がいない
2週間に
1回以下
子ども以外の介護や看病 日常生活のちょっとした手助け
単身世帯 高齢者 男性

15.0

58.2

30.3

女性

5.2

44.9

9.1

非高齢者 男性

8.4

44.3

22.8

女性

4.4

26.4

9.9

夫婦のみ
世帯
夫婦とも高齢者

2.3

30.6

6.9

夫婦とも非高齢者

1.1

22.0

6.6

三世代世帯(子どもあり)

0.5

18.8

3.0

二世代世帯(子どもあり)

0.6

21.6

5.1

ひとり親世帯(親と子から構成)

1.8

41.7

11.5

  1. (注1)高齢者は65歳以上、非高齢者とは0~64歳の世帯員をいう。また、「子ども」とは、20歳未満の世帯員をいう。
    (注2)網掛け部分は、各項目の上位3位。
    (資料)国立社会保障・人口問題研究所(2019)『2017年 社会保障・人口問題基本調査 生活と支え合いに関する調査結果報告書』により、筆者作成。

(3)要介護となった場合のリスク

最後に、要介護となった場合のリスクをみていく。2000年に公的介護保険制度ができたとはいえ、要介護者を抱える世帯に「主たる介護者」を尋ねると、「家族」と回答する人が7割いる。しかし、単身世帯は同居家族がいないので、要介護となった場合に同居家族に頼ることができない。

この点、要介護を抱える世帯に「主たる介護者」を尋ねると、単身世帯では「事業者」が約5割を占めている。残りは、「子」「子の配偶者」などの別居家族が「主たる介護者」となっている。 これに対して、「夫婦のみの世帯」「三世代世帯」では、「配偶者」「子」「子の配偶者」などが「主たる介護者」になっていて、事業者は1割にも満たない。

今後、高齢単身世帯の増加に伴って、事業者が提供する介護サービスへの需要が高まっていくだろう。問題は、こうした介護需要に対応できるだけの介護職員を確保していけるか、という点である。現行のまま推移すれば、日本の生産年齢人口は 2015 年から2030 年にかけて年平均で約57万人減少していくとみられている。一方、介護職員は、2012年度から2025 年度にかけて年平均で約7万人増やす必要があるという。生産年齢人口が大きく減少していく中で、介護職員を増やしていくのは容易ではない。

4単身世帯の増加に対する対応

(1)社会保障の機能強化

では、単身世帯が増加する中で、どのような対応が求められているのか。

第一に、社会保障の機能強化である。家族や世帯の支え合い機能が低下する中で、財源を確保して社会保障の機能強化を図る必要がある。具体的には、介護職員を増やしていくためには、処遇改善が必要であり、そのためには介護保険を強化することが求められる。また、非正規労働者への教育費や住宅費への公的支援も必要となろう。

幸いなことに、日本の国民負担率(GDPに占める租税と社会保険料の負担割合の合計)は主要先進国に比べて低い水準であり、税や社会保険料の引き上げの余地は残されている。具体的には、2016年度の日本の国民負担率(31.2%)は、米国(26.3%)よりも高いものの、イギリス(34.3%)、スウェーデン(37.6%)、ドイツ(39.9%)、フランス(47.7%)よりも低い水準にある。

ただし、日本は巨額の財政赤字を抱えているので、借金の元利払いもしなくてはならない。険しい道のりではあるが、税や社会保険料の引き上げによって、「財政再建」と「社会保障の機能強化」を両立させていくしかない。そして現段階であれば、両立は可能であるし、社会保障の強化によって国民の暮らし向きを高めていける。

(2)地域づくり

第二に、地域づくりである。身寄りのない高齢単身者であっても、安心して住み慣れた地域で自立した生活を送れるように、医療、介護、生活支援などを提供する専門職が、地域ごとにネットワークを築くことが求められる。

また、「住民サイドのネットワーク」の構築も重要だろう。地域の住民同士で交流し、支え合える関係をどのように築いていくのか。特に、今後75歳以上の高齢単身者が増えていくのは大都市圏である。大都市圏の大規模団地やマンションなどでは、隣近所と人間関係が築かれていないことも珍しくない。大都市圏で、どのように住民ネットワークを築いていくのかは大きな課題となっている。地域づくりを担える人材の育成も必要になろう。

(3)社会参加の場の構築

第三に、就労や社会参加活動など社会参加の場の構築である。単身世帯の抱える貧困や社会的孤立のリスクに対して、働き続けることが対策となる。働けば収入が得られるだけでなく、職場の仲間との間に人間関係が生まれる。仕事を通じて社会との接点ももてる。働くことは、単に収入を得るためだけでなく、社会的孤立にも有効だ。

ただし、全ての高齢者が働けるわけではない。働くことが困難な人々にはセーフティーネットの強化と地域における居場所作りが重要になる。また、中年層を含めて、就労困難者には、ケアをしながら職業訓練を行なえる場が必要になろう。

以上のように、単身世帯が増加する中では、世帯内の支え合い機能が従来よりも低下していくことが考えられる。社会として、公的な支え合いや地域での支え合いを強化していくことが求められている。

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