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多様な人材の活用実態 ―社員タイプと仕事レベル―(2/2)

雇用区分の違いによる不合理な処遇差の見直しに向けて 「同一労働同一賃金」への対応策を探る 第1回

みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム シニアコンサルタント 小曽根 由実

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    本稿は、月刊『人事実務』2018年11月号(発行:産労総合研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

3企業は多様な人材をどのように活用しているのか?

(1)社員タイプの組合せパターン

同一労働同一賃金の実現に向けた取組みを進める際にはまず、自社の社員タイプについて整理する必要があります。

本調査では、企業はどの社員タイプの社員を雇用しているか、すなわち、社員タイプの組合せパターンを確認しました(図表3)。

全31パターンのうち最も多いパターンは、「[1]無限定正社員-[3]フルタイム非正社員-[4]パートタイム非正社員-[5]嘱託社員」の4タイプを雇用するパターンであり(以降、このパターンを「パターンA」といいます)、全体の38.9%を占めました。次いで「[1]無限定正社員-[2]限定正社員-[3]フルタイム非正社員-[4]パートタイム非正社員-[5]嘱託社員」(同「パターンB」)の19.1%、「[1]無限定正社員-[4]パートタイム非正社員-[5]嘱託社員」(同「パターンC」)の9.5%で、これら主要3パターンで全体の67.5%を占めます。

業種別にみると、いずれの業種でも最も多いのは「パターンA」です(図表4)。2番目に多いのは、製造業、小売業、サービス業、医療、福祉の4業種では「パターンB」ですが、金融・保険業では「パターンC」でした。

ここで、限定正社員を雇用している企業に対し、最も社員数が多い限定のタイプを確認すると、「勤務地限定(転居を伴う異動がない)」が34.1%と最も多く、次いで「時間限定」が21.4%、「仕事限定かつ勤務地限定(転居に伴う異動がない)」が16.5%でした。

これまでの結果を踏まえ、本連載では主に「全体」「パターンA」「パターンB」に着目して分析を進めることにします。なお、各パターンに該当する企業における社員タイプ別雇用者数の平均は図表5のとおりです。

図表3 雇用者がいる社員タイプの組合せ

図表3

図表4 業種別にみた、雇用者がいる社員タイプの組合せ(上位5位)

図表4

図表5 社員タイプ別雇用者数

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全体(n=450) パターンA(n=183) パターンB(n=88)
平均人 構成比 平均人 構成比 平均人 構成比

(1)無限定正社員

452.2人

44.4%

431.5人

50.6%

656.5人

32.7%

(2)限定正社員

42.8人

4.2%

0人

0%

164.8人

8.2%

(3)フルタイム非正社員

137.7人

13.5%

123.2人

14.4%

366.5人

18.3%

(4)パートタイム非正社員

359.1人

35.3%

270.7人

31.7%

772.3人

38.5%

(5)嘱託社員

26.0人

2.6%

27.8人

3.3%

45.2人

2.3%

合計

1017.9人

100.0%

853.2人

100.0%

2005.4人

100.0%

  • *全社員タイプに人数の記入があった企業のみを抽出のうえ、算出。

(2)各社員タイプに担当させている仕事レベル

同一労働同一賃金の考え方では、正規雇用労働者と「均等待遇が求められる労働者」であるか、あるいは「均衡待遇が求められる労働者」であるかは、「職務内容(業務内容、責任の程度)」「職務の内容及び配置の変更範囲」に基づき決まります。

「正社員と非正社員の間に処遇差はあるのか?」を正確に把握するためには、同じ仕事レベルの「無限定正社員」と「限定正社員」「フルタイム非正社員」「パートタイム非正社員」「嘱託社員」の処遇を比較しなければなりません。そのためにはまず、企業が各社員タイプに担当させている仕事のレベルを把握する必要があります。本調査では、無限定正社員の仕事を10段階に分け、各社員タイプの仕事がどのレベル(範囲)に対応するかをたずねました(図表6)。その結果、大きく以下の2点の特徴がありました。

1点目は、限定正社員・嘱託社員とフルタイム非正社員・パートタイム非正社員の仕事レベルの違いです。限定正社員・嘱託社員には「担当Iレベル」を、フルタイム非正社員・パートタイム非正社員には「担当IIIレベル」を担当させている企業が最も多くみられます(嘱託社員は元正社員であることが影響していると考えられます)。また、パートタイム非正社員に高卒初任レベルを下回る「担当IV↓レベル」「担当IV↓↓レベル」を担当させている企業がそれぞれ2割を超えており、他の社員タイプと比較してその比率が高くなっています。

2点目は、限定正社員・嘱託社員とフルタイム非正社員・パートタイム非正社員に役職相当レベル(「係長相当レベル」以上)の仕事を担当させている企業の比率の違いです。たとえば、「課長相当レベル」を担当させている企業は、限定正社員では16.5%、嘱託社員では25.4%みられる一方、フルタイム非正社員、パートタイム非正社員ではともに5%を下回ります。

さらに、各社員タイプの平均的な仕事レベルをみると図表7になります。なお、無限定正社員の最も低いレベルが「7.4」となっていますが、これは回答企業には新卒採用の条件を「大卒者(=「担当IIレベル(大卒初任)」=レベル値6.0)」としているケースと、「高卒者(=「担当IVレベル(高卒初任)」=レベル値8.0)」としているケースがあり、その平均値を取ったことによります。ここからは、大きく以下の2点の特徴を指摘することができます。

1点目は、全体、パターンBともに、限定正社員と嘱託社員に、ほぼ同じレベルの仕事を担当させている点です。前述のように、嘱託社員は元正社員であることが影響していると考えられます。

2点目は、全体、パターンA、パターンBともに、限定正社員・嘱託社員、フルタイム非正社員、パートタイム非正社員に担当させている仕事レベルが、ほとんど重ならない点です。具体的には、限定正社員・嘱託社員ではおおよそ「担当I~担当IIレベル」、フルタイム非正社員では「担当II~担当IIIレベル」、パートタイム非正社員では「担当III~担当IVレベル」となります。すなわち、企業が、この3つの社員グループには異なるレベルの仕事を担当させるという雇用ポートフォリオ戦略を採っていることがわかります。

連載第1回目となる今回は、多様な人材の活用実態、すなわち各社員タイプの社員にどのレベルの仕事を担当させているのかを紹介しました。次回は基本給の面から処遇の実態をみることにします。

図表6 各社員タイプに担当させている仕事のレベル

図表6
  1. 注1 無限定正社員の仕事レベルを10段階に分け、各社員タイプの仕事がどのレベルに対応するかをたずねたもの。各タイプ内に複数の社員グループがある(たとえば「(4)パートタイム非正社員」に「メイト社員」「アルバイト社員」がある)場合は、最も人数が多いグループについて回答。
    注2 図表内では、「担当IVと比較してやや低い=「担当IV↓」、「担当IVと比較して低い=「担当IV↓↓」と表記。
    注3 たとえば「(3)フルタイム非正社員」のうち、最も高いレベルの仕事を担当させている者の仕事が、無限定正社員の「担当III」に担当させているレベルの仕事に対応、かつ、最も低いレベルの仕事を担当させている者の仕事が、同「担当IV」と比較してやや低い(担当IV↓)場合、“「(3)フルタイム非正社員」には「担当III」「担当IV」「担当IV↓」の3つのレベルの仕事を担当させている”として集計。

図表7 各社員タイプに担当させている平均的な仕事レベル

図表7

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