みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム シニアコンサルタント 小曽根 由実
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本稿は、月刊『人事実務』2018年12月号(発行:産労総合研究所)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
本稿の要約
- “同一労働同一賃金の実現(正社員と非正社員の不合理な待遇の相違の解消)”に向け、とりわけ基本給体系を見直すべきは「役職レベルにある非正社員(フルタイム非正社員、嘱託社員)」と「パートタイム労働者」。
- 嘱託社員の基本給は、課長相当以上では仕事レベルが上がってもそれほど昇給せず、無限定正社員との水準差が大きくなることから、とくに課題あり。
- “非正社員間での基本給水準”では、「一般職のパートタイム非正社員」と「一般職のフルタイム非正社員」の間のバランスに留意する必要あり。
はじめに
前回は、当社が実施した「多様な人材の活用戦略に関するアンケート調査(注)」の結果を通じ、各社員タイプにどのレベルの仕事を担当させているのか、すなわち、多様な人材の活用実態を紹介しました。そこからは、企業が「限定正社員・嘱託社員」「フルタイム非正社員」「パートタイム非正社員」の3つの社員グループには異なるレベルの仕事を担当させるという雇用ポートフォリオ戦略をとっていることがわかりました。
そこで今回は、各社員タイプの基本給水準を紹介し、「無限定正社員」と「限定正社員」「フルタイム非正社員」「パートタイム非正社員」「嘱託社員」の間にどの程度の差があるのか、また、その差にどのような特徴があるのかを明らかにします。基本給は待遇の体系の土台となるものであることから、まずは基本給に関する実態を把握することが重要だからです。
その前に、厚生労働省の労働政策審議会(職業安定分科会・雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会)での同一労働同一賃金にかかる議論内容を簡単に確認しておきましょう。厚生労働省のホームページには部会の資料が掲載されており、その1つに「同一労働同一賃金ガイドラインのたたき台(短時間・有期雇用労働者に関する部分)」があります。
2018年11月16日時点で確認できる最新のたたき台では、「我が国が目指す同一労働同一賃金は、短時間・有期雇用労働法にあっては、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消を、(中略)目指すものである」と明記されています。この際の待遇としては「基本給」「賞与」「手当」「福利厚生」「その他(教育訓練、安全管理)」が挙げられ、それぞれの待遇について「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものであり、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものでないか等の原則となる考え方及び具体例」が示されています。また、「原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理な待遇の相違の解消等を求められる」とされています。
併せて、たたき台では「事業主が、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で職務の内容等を分離した場合であっても、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で不合理な待遇の相違の解消等を行う必要がある」と記されています。
- (注)
本アンケート調査では、[1]無限定正社員、[2]限定正社員、[3]フルタイム非正社員、[4]パートタイム非正社員、[5]嘱託社員、の5つの社員タイプを設定し、社員タイプごとに「主に担当している仕事」「仕事レベルごとの基本給水準」「賞与・退職金等の支給状況」等の実態を把握しました。また各企業にどの社員タイプの社員を雇用しているか尋ね、雇用している社員タイプの組み合わせのうち、最も多いパターン([1]無限定正社員-[3]フルタイム非正社員-[4]パートタイム非正社員-[5]嘱託社員)を「パターンA」、次いで多いパターン([1]無限定正社員-[2]限定正社員-[3]フルタイム非正社員-[4]パートタイム非正社員-[5]嘱託社員)を「パターンB」として分析しています。詳しくは連載第1回目(2018年11月号No.1190)および次頁(注)参照。
基本給水準の捉え方
- 同一労働同一賃金の考え方では、「職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)」「職務の内容及び配置の変更の範囲」の2つが通常の労働者と同じ短時間・有期雇用労働者には「均等待遇」、すなわち、(合理的な理由がある場合を除き)すべての待遇を通常の労働者と同一にしなければなりません。
- それ以外の短時間・有期雇用労働者には、「職務の内容」「職務の内容及び配置の変更の範囲」「その他の事情」の3つの考慮要素のうち、個々の待遇の性質・目的に照らして適切な考慮要素に基づく、通常の労働者とのバランスを取った「均衡待遇」が求められます。
- なお、比較対象となる通常の労働者をだれにするか(通常の労働者のうちどの社員タイプにするか)の選定にあたっては、短時間・有期雇用労働者と「職務の内容」が近いかどうかが最も重視されます。
上記からわかるように、同一労働同一賃金に対応するためには、正社員と非正社員の賃金の相違を職務の内容との関連でみる必要があります。そのため本調査では、「無限定正社員」「限定正社員」「フルタイム非正社員」「パートタイム非正社員」「嘱託社員」の基本給水準を、仕事レベルに沿った給与カーブの形状で描くことにより確認しました。具体的な分析の考え方・手順は図表1のとおりです。また、分析にあたっては、「全体」「パターンA」「パターンB」に着目しており(上記(注)参照)、その結果を示したのが図表2~4です。
図表1 社員タイプ別・仕事レベル別基本給水準(給与カーブ)の分析の考え方・手順
問:「 [1]無限定正社員」のうち、「部長相当」「課長相当」「係長相当」「高卒初任」の平均的な基本給額は、「無限定正社員の大卒初任= 100%」とした場合、おおよそどの程度の水準ですか。(数値記入(整数))
問:「 [2]限定正社員」「[3]フルタイム非正社員」「[4]パートタイム非正社員」「[5]嘱託社員」について「、最も基本給額が高い者」「最も基本給額が低い者」の時間あたりの基本給額は、「無限定正社員の大卒初任= 100%」とした場合、おおよそどの程度の水準ですか。(数値記入(整数))
注:各タイプ内に複数の社員グループがある(たとえば「[4]パートタイム非正社員」に「メイト社員」「アルバイト社員」がある)場合は、最も人数が多いグループについて回答。
【[1]無限定正社員】
- 部長相当と課長相当の回答値に基づき、その間の仕事レベルである次長相当の基本給水準を「(部長相当+課長相当)÷ 2」と等分して算出。
- 同様に、係長相当の回答値と担当II(大卒初任)= 100%に基づきその間のレベルである担当Iの、担当IIと担当IV(高 卒初任)の回答値に基づきその間のレベルである担当IIIの基本給水準を算出。
【[2]限定正社員、[3]フルタイム非正社員、[4]パートタイム非正社員、[5]嘱託社員】
- 「 最も基本給額が高い者」の基本給水準を「最も高いレベルの仕事を担当させている者」の基本給水準、「最も基本給額が 低い者」の基本給水準を「最も低いレベルの仕事を担当させている者」の基本給水準、とみなす。
- 上記2レベルの回答値に基づき、その間の各仕事レベルの基本給水準を等分して算出。(※たとえば、前者が「担当III= 80」、後者が「担当IV↓↓= 50」の回答であった場合、「担当IV= 70」「担当IV↓= 60」。)
社員タイプ別にみた基本給の現状
まずは全体について、基本給の現状を給与カーブを用い、無限定正社員と他の社員タイプを比較しながらみていきましょう(図表2)。
無限定正社員は、「担当IV~担当II」と「担当II~部長相当」で、仕事レベルが上がるときの昇給幅に違いはある(担当II(大卒初任)を境に、給与カーブの傾きが異なる)ものの、一貫して、仕事レベルが高くなると基本給水準が上昇します。
限定正社員とフルタイム非正社員は、ほぼ同じ動きをします。すなわち、大卒初任にあたる担当IIまでは無限定正社員を上回りますが、担当Iでほぼ同水準となり、係長相当あるいは課長相当では下回ります。
それに比べてパートタイム非正社員は、すべての仕事レベルで無限定正社員の基本給水準を下回ります。
嘱託社員は、限定正社員やフルタイム非正社員と同様に、担当IIまでは無限定正社員を上回り、担当Iでほぼ同水準、係長相当以上で下回ります。ただし、係長相当以上の動きは、限定正社員やフルタイム非正社員と大きく異なります。第1に、係長相当、課長相当の水準が、限定正社員やフルタイム非正社員に比べて低くなっています。第2に、課長相当、次長相当、部長相当の水準がほぼ等しく、そのため、次長相当以上の高い仕事レベルにおいて無限定正社員との差が大きくなっています。
次に、パターンAをみると(図表3)、すべての社員タイプについて全体とほぼ同様の傾向を示しています。パターンBも「全体」と似た傾向ですが(図表4)、パートタイム非正社員が異なる動きをしています。具体的には、担当Iまでのすべての仕事レベルで無限定正社員とほぼ同水準です。
ここまでは、全体、パターンA、パターンBの別に、各社員タイプの仕事レベル別基本給水準を無限定正社員と比較しながらみてきましたが、続いて、無限定正社員以外の社員タイプ間にどのような違いがあるのかについても確認していきましょう。このことは、社員の多様化が進むなかで、企業が「全体としてバランスが取れた基本給体系とするために、異なる社員タイプ間にどのような相違を設けているのか」を知ることにつながります。
今回調査では、無限定正社員、限定正社員、フルタイム非正社員、パートタイム非正社員、嘱託社員の5つの社員タイプを設定しているため、社員タイプ間の違いを把握するための社員タイプの組み合わせは非常に多くなります。そこで以降は、同一労働同一賃金の対象となる「正社員と非正社員間の比較」、他の社員タイプと異なる傾向をみせた「嘱託社員」の給与カーブ、「非正社員の社員タイプ間での比較」という視点から、社員タイプ間の基本給水準の違いを明らかにします。
図表2 【全体】社員タイプ別・仕事レベル別基本給水準(給与カーブ)
(注) 図表内では、「担当IVと比較してやや低い=担当IV↓」、「担当IVと比較して低い=担当IV↓↓」と表記。図表3、4も同じ。
図表3 【パターンA】社員タイプ別・仕事レベル別基本給水準(給与カーブ)
図表4 【パターンB】社員タイプ別・仕事レベル別基本給水準(給与カーブ)
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