みずほ情報総研 グローバルイノベーション&エネルギー部 コンサルタント 西郡 智子
- *本稿は、『みずほグローバルニュース』 Vol.103 (みずほ銀行、2019年6月発行)に掲載されたものを、同社の承諾のもと掲載しております。
気候変動適応ビジネスの支援制度 ―緑の気候基金(GCF)―
(1)緑の気候基金(GCF)の概要
GCFとは、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)傘下にあり、開発途上国における気候変動への対応に係る取り組みを支援している資金支援制度である。各国からの拠出額は103億米ドルであり、日本は総額15億米ドルの拠出を約束している。また、これらの資金は気候変動の緩和と適応に均等に配分される。
資金支援申請方法としては、まず、民間事業者等の事業提案者*6は、提案事業の実施対象国となる途上国の国家指定機関(NDA*7)および認証機関(AE*8)と協議しながら事業形成を行い、NDAから同意書(NoL*9)を得る必要がある。その上で、AEを通してNoLを添付した資金申請書をGCFへ提出する。事業の採択後、資金はGCFからAEを通して事業実施者に提供される。
GCFを活用するメリットとしては、他の国際開発金融機関などが取らないリスクのある案件に対し、資金が得られる可能性がある点があげられる。その他にも、1つの案件の中で融資や出資等の資金スキームを組み合わせることができ、妥当であれば大規模な資金支援を得られること、GCF資金の活用による評判の向上やGCF案件形成・実施を通じた社内における気候変動関連の事業形成に係る能力強化といった点を挙げることができる。なお、デメリットとしては、申請や事業実施モニタリング等の各種手続きの負担といった点がある。
案件の審査基準は6つ、「インパクト・ポテンシャル」、「パラダイムシフト・ポテンシャル」、「持続可能な開発のポテンシャル」、「受益者ニーズ」、「カントリーオーナーシップ」、および「効率性と実効性」がある。中でも特徴的な審査基準を図表3に提示した。これらを含む6つの審査基準に加えて、GCF資金の必要性について、GCF資金により投資リスクが軽減され、他の資金の動員が可能になる等、不足している資金のギャップを埋めるという観点以外から説明する必要がある。
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図表3. GCFの採択に関する特徴的な審査基準
審査基準 | 内容 |
---|---|
インパクト・ポテンシャル |
温室効果ガス(GHG)削減量やレジリエンスの向上へのインパクトがあること。定性的かつ定量的に提示する必要がある。適応に関しては、事業が適応に資することを明示することが求められる。 |
パラダイムシフト・ポテンシャル |
1つの事業がその枠を超えたインパクトをもたらすこと。たとえば、他国・地域においても本事業枠組みが展開されさらなるCO2削減や気候変動へのレジリエンス強化につながる等を明示することが求められる。 |
効率性と実効性 |
GCFの資金により、その他の資金の動員が可能となることや申請している資金の譲許性*10が適切(最小限)であること等。 |
(資料)GCFウェブサイトに基づき、みずほ情報総研作成
(2)GCFの案件採択状況
第20回理事会(2018年7月)までに採択されている案件は76件である(図表4)。そのうち適応案件は35件あり、1件を除く全ては途上国政府関係機関や国際援助機関などが実施する公的案件である。また、緩和と適応の双方に資する分野横断は20件あるものの、その多くは公的案件である(15件)。これら適応関連の公的案件のほとんどが、国として取り組むべき洪水等の災害管理、水資源管理や気候レジリエントな農業の普及・展開等に係る能力強化と関連するインフラや設備の整備・更新となっている。また、民間案件17件の事業内容の概要は以下図表5のとおりとなる。
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図表4. GCF案件採択状況(第20回理事会までの採択案件)
緩和 | 適応 | 分野横断 | 合計 | |
---|---|---|---|---|
公的案件 |
10 |
34 |
15 |
59 |
民間案件*11 |
11 |
1 |
5 |
17 |
合計 |
21 |
35 |
20 |
76 |
(資料)GCFウェブサイトに基づき、みずほ情報総研作成
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図表5. 各分野における民間案件の概要
分類 (採択件数) |
分野 | 事業パターン |
---|---|---|
緩和 |
再エネ |
|
適応 |
農業 |
|
分野横断 |
【適応分野】 |
|
【緩和分野】 |
|
(資料)GCFウェブサイトの資料に基づき、みずほ情報総研作成
(注1)干ばつ耐性のある種子や灌漑設備を提供する中小企業
(注2)雨水利用システム等の水利用効率化に資する設備など
図表5を踏まえると、適応関連案件の件数が少ない一因としては、収益性の課題があると想定される。緩和分野の民間案件は、再生可能エネルギーや省エネルギー事業といった事業効果(発電容量の増加、コスト削減やGHG排出削減等)が明確であり、収益性をある程度見通すことができる。一方で、適応分野においては、気候変動による影響に不確実性があることから、気候変動への適応能力(気候レジリエンス)が向上するという事業効果が必ずしも明確ではない。よって、緩和案件と比較して、民間事業者による適応案件数が少ないと想定される。