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地球観測サービスの動向と今後の展望(2/2)

技術動向レポート

情報通信研究部 コンサルタント 森 悠史

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4地球観測サービスの最新事例

地球観測サービスの最新事例を紹介する。従来からデータの活用に積極的だった分野の事例として、農業分野の事例を取り上げる。また、新しい活用方法を試みている事例として金融分野、特に投資及び保険分野の事例を紹介する。

(1)農業分野

地球観測データは、広域かつ定期的なデータ取得が可能であるため、大規模な土地の管理に有効であり、農業分野では従来からデータの利用に積極的であった。

例えば、米の生産においては、圃場ごとに生育状況が異なるため、複数の圃場にわたって品質を保つことは容易ではない。地方独立行政法人青森県産業技術センターは、青森県のブランド米である「青天の霹靂」を高品質な状態で収穫するために、可視光及び近赤外光で計測した地球観測データを利用している(18)。まず、稲が緑色から黄色に変化する様子をSPOT6衛星(19)の約650nmの可視光等で計測し、適切な収穫時期を推定している。また、米の食味に影響を与える蛋白質含有率を同じくSPOT6衛星の約550nmの可視光と約830nmの近赤外光で計測している。蛋白質含有率は低いと食味が上がり、粘り気のあるおいしい米に仕上がる。この含有率を下げるためには肥料の量を減らす必要があることから、含有率が高い水田には肥料の量を減らすよう助言している。さらに、土壌の肥沃度(黒い方が高い)をRapidEye衛星(20)の約650nm及び約710nmの可視光で計測し、おいしい米の生産に適した水田の特定に利用している。

(2)金融(投資・保険)分野

金融分野における地球観測データの利用は新しい試みである。

米国Orbital Insight社は、米国Planet社が運用する衛星コンステレーションであるDoveが撮影した石油タンクの画像データを用いて、世界中の石油備蓄量を推計している(21)。石油タンクは備蓄量により浮き蓋の高さが変動し、その高さに応じて蓋に生じる影の大きさが変化する。画像データから、その影の大きさを計測して浮き蓋の高さを推定し、備蓄量を推定している。同社はこの技術を、エネルギー関連企業、各国政府、投資家等に対して石油の受給ステータスを通知する情報サービスに発展させている。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社は、干ばつや洪水等の極端な気候変動が生じた場合に、地球観測データから得られる情報をもとに農家に対して損害保険金を支払う「天候インデックス保険」(22)のパイロットプロジェクトをミャンマーで開始した(23)。天候インデックス保険が従来の農業保険と異なるのは、損害と関係がある天候指標(気温や降水量など)を定め、それが事前に定めた条件を満たした場合に定額の保険金が支払われる点である。実際の損害とは関係なく、天候指標ベースでの保険金支払いとなるため、保険金支払いの際に損害調査を要しないことから、運用コストを安くでき、結果として保険料を安くできるメリットがある。この事例では、天候指標として、JAXAの「衛星全球降水マップ」(GSMaP:Global Satellite Mapping ofPrecipitation)の降雨強度(単位はmm/時間)が用いられている。

5今後の展望

これまで、地球観測データの利用は研究用途が主であったが、データの質と量が向上したこと及びプラットフォーム化が進展したことで、産業利用が拡大する可能性が出てきた。特に、金融分野等のこれまで地球観測データとは馴染みの薄かった分野での活用が急速に発展する気配を見せている。

今後、技術面では、最先端の画像等の処理技術による地球観測データ自体の加工技術の向上や人工知能・機械学習等の適用による地球観測データ以外のデータとの連携による高付加価値化が進展すると考えられる。また、プラットフォーム化によって資本力の弱い個人やベンチャー企業の参入が以前よりも容易になっており、スマートフォンのアプリのように、アイデアひとつで事業を起こすことが可能になると考えられる。

地球観測という、かつては国家レベルでしか行えなかった壮大なプロジェクトが、個人レベルで実現できるようになったことは、多くの人々の興味や想像力を掻き立て、驚くようなサービスが登場するものと期待される。

  1. (1)2018 State of the Satellite Industry
    (PDF/5,630KB)
  2. (2)内閣府「「インフラシステムの輸出戦略(平成29年改訂版)」(平成29年5月29日経済インフラ戦略会議決定)に基づく宇宙分野の海外展開戦略」
  3. (3)2017 State of the Satellite Industry
    (PDF/4,610KB)
  4. (4)赤外線及びマイクロ波の波長領域はIEC60050-841(1983):International ElectrotechnicalVocabulary, Industrial electroheatにしたがっている。
  5. (5)AIRBUS Defence & Space 社ホームページ
  6. (6)Planet社ホームページ
  7. (7)欧州宇宙機関地球観測衛星「Sentinel-2」
  8. (8)HISUI研究公募案内(一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構)
    (PDF/306KB)
  9. (9)Landsat Missions(USGS)
  10. (10)ASTER(一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構)
  11. (11)Earth on AWS(Amazon)
  12. (12)Google Earth Engine(Google)
  13. (13)G-Portal(JAXA)
  14. (14)衛星データ利用促進プラットフォーム(株式会社パスコ)
  15. (15)DIAS(一般財団法人リモート・センシング技術センター)
  16. (16)MADAS(衛星データ検索システム)
  17. (17)Tellus
  18. (18)農業分野における衛星データの活用事例~「青天の霹靂」での高品質米の生産支援~:
    (PDF/2,890KB)
  19. (19)SPOT6衛星の概要(一般財団法人リモート・センシングセンター)
  20. (20)RapidEye衛星の概要(一般財団法人リモート・センシングセンター)
  21. (21)Orbital Insight社ホームページ
  22. (22)衛星データを活用した天候インデックス保険(損害保険ジャパン日本興亜株式会社)
    (PDF/795KB)
  23. (23)ミャンマーにおける『天候インデックス保険』パイロットプロジェクトの開始(損害保険ジャパン日本興亜株式会社)
    (PDF/155KB)
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