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蓄電池技術はどこに向かうのか?(3/6)

技術動向レポート
次世代・革新型蓄電池技術の現状と課題

サイエンスソリューション部 チーフコンサルタント 茂木 春樹
グローバルイノベーション&エネルギー部 コンサルタント 佐藤 貴文
環境エネルギー第1部 チーフコンサルタント 吉田 郁哉

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2蓄電池適用先毎の技術的要求事項と現状(続き)

(2)電力貯蔵用蓄電池

電力自由化、再エネの導入量拡大、災害対応、スマコミの社会実装などを背景として、今後電力系統内で電力貯蔵を行う必要性が増していくことだろう。電力貯蔵には既に活用されている揚水式水力発電などの他に様々な方法があるが、電気エネルギーを化学エネルギーとして貯蔵する蓄電池にも一定の役割が期待されている。ここでは、電力貯蔵用に適用される蓄電池を対象として、技術的な要求事項と現状の技術動向について述べる。

[1] 技術的な要求事項

NEDO技術戦略研究センターがまとめたレポート(6)によれば、蓄電池に期待される役割として主に3つ挙げられている。ここでは、蓄電池に期待される役割毎に技術的な要求事項について述べる。また、期待される役割によらず電力貯蔵用に共通して求められる要求事項についても、最後に言及する。ここで、電力分野では出力に対して「容量」という言葉がしばしば用いられるが、本稿では蓄電池の容量との混乱を避けるため、出力容量[kW]と蓄電容量[kWh](=定格出力における放電時間[時間])のように区別して用いることとした。

なお、蓄電池に期待される役割が同じでも、電力系統内のどの領域に設置するかによっても技術的な要求事項は異なる。具体的には、発送電の上流側から発電領域、送配電領域、需要家領域と大きく3領域あるが、どの領域でどの程度の電力貯蔵が必要となるかは、再エネを含む電源の地域差、電力市場における価値を含めた経済合理性などに大きく左右されることから、ここでは可能な範囲で言及するにとどめた。

A.中小規模の余剰電力への対応

太陽光発電や風力発電のように、気象条件によって出力が変動する再エネの導入が拡大すると、気象条件によっては供給が需要を上回り余剰電力が発生する。たとえば、春から初夏にかけては、日射量が多いものの気温が低く半導体での損失が少ないため、太陽光発電の発電量が一年で最も多い。一方で、春から初夏にかけては電力需要が少ないため余剰電力の発生頻度が高くなる傾向にある。余剰電力を蓄える観点からは、電力系統内の位置によらず設置スペースは可能な限り小さく、蓄電容量を大きくすることが重要となるため、エネルギー密度が重要となるだろう。要求される蓄電容量としては、再エネの余剰電力への対応を考慮すると、数時間から半日程度の時間で充放電に対応することが求められる。なお、要求される出力容量については、電力系統安定化および需要変動への対応にて後述する。社会全体で見た場合に、蓄電より出力制御に経済合理性がある、また、蓄電池は余剰電力を十分に吸収するためには規模が小すぎるという意見もある一方で、太陽光発電等の自家消費を行っている個々の需要家の受益で見れば、蓄電池の価格が十分に低下すれば余剰電力貯蔵のメリットがあるとされ、いずれの場合においても蓄電システムの価格低減が求められる。

B.見かけの需要変動への対応

見かけの需要変動とは、需要家が保有する自家発電量や蓄電量をトータルの需要から差し引いた需要量の変動である。たとえば、太陽光発電では朝夕の出力変動速度が大きく、火力や水力などの出力制御可能な大規模発電設備の出力調整では対応が困難である。これらに対応するためには、発電領域、送配電領域、需要家領域のそれぞれにおいて、負荷を平準化(ピークカット、ピークシフト)することが必要となる。

発電領域においては、出力変動の大きい再エネ由来の発電設備に蓄電池を併設し、出力を安定化させることが期待される。太陽光や風力発電設備の出力は、短時間で定格出力からゼロまで変動する可能性もあることから、発電設備と同等の出力容量をもつ蓄電池が望ましいものと考えられる。蓄電容量については、30分以下の比較的短時間で変動する出力に対して大規模発電設備の出力調整で対応することが困難であることから、30分程度の放電時間に相当する蓄電容量を有していることが望ましい。これに対して送配電領域、および需要家領域においては、送電電力や消費電力より小さい出力容量で、数時間から半日程度の充放電に対応可能な蓄電容量をもつ蓄電池が必要となるだろう。しかしながら前述の通り、これらは再エネを含む電源の地域差、電力市場における価値などによって要求仕様が変わる可能性が高いことに注意が必要である。

C.電力系統安定化への対応(調整力)

見かけの需要変動への対応でも述べた通り、再エネ電源は気象条件の変化などに応じて予測困難な出力変動を生じやすい。これらは、電力系統の需給バランスを崩し、周波数に影響を与える潜在的なリスクがあり、最悪の場合は停電に至る可能性もある。通常、これらの周波数調整は、火力や水力などの出力制御可能な大規模発電設備の出力調整で対応しているが、再エネ電源による発電の出力容量が増加すると、これら出力制御可能な大規模発電設備の出力が抑制され、周波数調整能力が小さくなってしまう問題が発生し得る。この周波数調整能力としての役割が蓄電池に期待されており、欧米では導入が進められている。

この役割に対しては、蓄電容量より出力容量が優先される傾向にあると考えられるが、特に送配電領域においては系統の出力容量と同程度の出力が必要となるため、数秒から数分程度の時間であっても、大きな蓄電容量が必要となることが想定される。

D.蓄電池への共通要求事項

電力貯蔵用として蓄電池を利活用するにあたっては、電力系統内での役割や領域によらずインフラ機器として連続運用される必要があることから、安全性、信頼性(低故障率)、コスト、設置性(設備サイズが小さい)、長期耐久性、および蓄電池の状態診断・監視技術が重要である。特に状態診断・監視技術は、安全性や耐久性を確保する上でも重要である。たとえば、メンテナンス時に蓄電池を交換するためには、各蓄電池の劣化状態を正確に診断する技術が必要となる。また、出力容量と蓄電容量が大きいものでは多数の蓄電池を直並列接続することから、運転状況下において蓄電池の充電状態や劣化状態を把握する技術も重要である。一般的に、蓄電池は初期性能が均一に製造されていた場合でも、運用中における劣化量の違いから性能にバラツキが生じることが多いため、蓄電池の劣化状態を把握し均等な充放電を行うことが必須となる。

本稿では、大規模な電力系統における蓄電池の役割に注目したが、電力系統に接続されていない地域において再生可能エネルギーと組み合わせた自立型電源システム、いわゆるマイクログリッドの構築においても蓄電池の役割は重要となることを最後に言及しておきたい。

[2] 現状の技術動向

電力貯蔵用途における蓄電池の現状の技術動向として、蓄電池を用いた電力貯蔵システムの定格出力と持続時間の関係をプロットしたものを図表6に示す。図表6は、米国DOE主導のもとで構築されたデータベース「Energy Storage Database(7)」より、現在電力貯蔵に比較的多く適用されているリチウムイオン電池、フロー電池、NAS®(8)電池の3つを対象としてデータを抽出し、グラフを作成した。図表6の具体的な作成方法を以下に示す。尚、各蓄電池の作動原理や技術動向については、次章を参照されたい。

  1. 1)DOE Energy Storage Databaseにおいて〝Technology Type〟から〝Electro-chemical〟を選択し、蓄電池に関するデータを抽出
  2. 2)抽出したデータの〝Technology Type〟、および〝Technology Type Category〟から、リチウムイオン電池、フロー電池、NAS電池を抽出
  3. 3)抽出したリチウムイオン電池、フロー電池、NAS電池に対して、定格出力と持続時間をプロット
    備考:
    • データベースからの情報取得日は2018年11月12日
    • 複数の蓄電池やキャパシタを組み合わせた電力貯蔵システムは除外した(9)
    • フロー電池は、電解液の違い(バナジウム系、亜鉛-臭素系、など)まで特定したデータも存在するが、今回のプロットでは全てフロー電池として分類した

図表6より、電力貯蔵用途に適用されたリチウムイオン電池、フロー電池、NAS電池の適用状況やその特徴についてまとめる。

図表6 蓄電池を電力貯蔵に適用したシステムにおける出力と放電時間の関係

図表6

(資料)Energy Storage Database のデータ(情報取得日2018/11/12)をもとにみずほ情報総研作成

A.リチウムイオン電池

リチウムイオン電池は普及が進んでいる蓄電池であり、高出力タイプや高容量タイプなど様々な性能の蓄電池が市場に投入されている。これらは、材料や蓄電池の最小単位であるセルの設計変更、およびセルの直並列接続によって実現されており、出力、放電持続時間(容量)ともに、様々なシステムが存在していることの一因となっているものと考えられる。また、他の蓄電池と比較して、放電時間が1時間以下と比較的容量の小さいシステムが多い傾向にある。これは、リチウムイオン電池の高速な充放電特性を活かし、周波数変動への対応を志向した電力貯蔵システムであると推測される。

B.フロー電池

フロー電池では、周波数調整の役割を担うシステムが少ない一方で、放電持続時間が12時間以上と蓄電池としては長いシステムがみられるところに特徴がある。フロー電池は、作動原理的に電解液のタンク容量を増やすことで高容量化できることから、様々な放電持続時間を実現できる。出力についても、電解液や蓄電池本体の設計などによって様々な出力を実現可能である。また、出力が高いものは放電時間が短く(蓄電容量が小さい)、出力が低いものは放電時間が長い(蓄電容量が大きい)傾向がみられた。

C.NAS電池

NAS電池では、放電持続時間は数時間以内に留まるが出力は幅広く試されており、負荷平準化から調整力を志向したシステムまで幅広く対応しているものと推測される。また、フロー電池とは異なり、周波数調整の役割を担っているものと推測される放電持続時間1時間以下のシステムが2件みられた。

現状、NAS電池を製造可能なメーカーは日本ガイシ株式会社1社のみであり、製造されているNAS電池のセル(蓄電池の最小単位)が限定されている可能性が高く、セルの直並列接続によって出力と容量が調整されているものと推測される。放電持続時間が数時間以内のシステムしかみられないのは、システムとして成立させるための要請(熱自立、均等充放電制御、など)から、接続可能なセル数が限定されていることが一因となっている可能性も考えられる。

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