環境エネルギー第1部 谷口 友莉
2015年に欧州委員会から発信された循環経済(サーキュラー・エコノミー)だが、ここ2年ほどで日本の雑誌やメディアでも取り上げられるようになった。企業の環境部門だけではなく、少しずつ世の中に浸透しているようだ。
そのような中、2020年9月29日・30日に世界循環経済フォーラム(WCEF)がオンラインで開催された*1。WCEFは、フィランド・イノベーション基金(SITRA)の主催で2017年から開催されている循環経済に関する国際会議で、毎年、世界各国の閣僚クラスを含む政府関係者、自治体、国際協力機関、民間事業者、学術団体、NGO等が多数参加する。第2回(2018年)は、日本の環境省が共同開催者となり横浜市で開催された。2020年はカナダ・トロントでの開催が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によりオンライン開催となり、メインイベントである6つのセッションがライブ配信され、123カ国から約4,200名が視聴した。
WCEFonlineでは、コロナ禍からのよりよい復興(build back better)において、循環経済への移行が果たす役割が主要なテーマの1つとなった。大枠として共通していたのは、パンデミックによって循環経済への移行の重要性はさらに増したという意見だった。オープニングでは、欧州委員会執行副委員長(気候行動総局担当)のフランス・ティーマーマンス氏が「パンデミックを受けて循環経済への変化は『選択肢』ではなく『絶対必要』なものとなった。コロナ禍からの復興予算を古い経済モデルを生き延びさせるために投入しても、将来的に座礁資産になってしまう。将来世代のために、欧州だけではなく全世界において循環経済への移行が必要」などと述べ、循環経済への移行の重要性を改めて強調し、コロナ禍に対応する各国の経済刺激策においても循環経済への移行に向けた要素を取り入れるべきとした。
循環経済に取り組む意義は、地域によって異なるという議論もなされた。たとえば、アジアや欧州では循環経済へ移行する意義として土地や資源に対する制約緩和が強調されるが、土地や資源が豊富な北米では循環経済への移行を新しいビジネスの機会と捉えるべきであるとの指摘があった。
そのほかにもいくつかの重要なテーマが議論されているが、筆者が特に注目したのは、循環経済への移行の後押しとなるファイナンスの役割に関する議論である。この数年で金融機関やファイナンスの世界においても循環経済が取り扱われるようになり、世界最大級の資産運用会社であるBlack Rockも英エレン・マッカーサー財団と連携して2019年に循環経済ファンドを立ち上げた。同財団の創設者であるエレン・マッカーサー氏は、「ビジネスが循環経済に向けて変わろうとしている中で投資はどう対応するのかなど、2年前にはなかった議論を金融セクターとしている。まだ取り組みは初期段階だが、株式投資や社債などファイナンスは循環経済への移行に向けて非常に重要な役割を果たす」として、今後への期待感を示した。また、議論・対話から始まったものが行動に移ってきたほか、プラスチック、テキスタイルなどへとトピックが広がってきたと指摘した。
欧州委員会も持続可能な欧州に向けた投資計画(欧州グリーン・ディール投資計画)*2の中で、気候変動だけではなく循環経済も含めたサステナブル・ファイナンスについての戦略を打ち出している。具体的な手段として、EUタクソノミー*3においても循環経済に関する基準策定に向けた議論を進めており、循環経済という視点を投資に取り入れるべく、金融の世界も動き出している。大手電気機器メーカーであるPhilipsや大手化学メーカーであるBASFなど欧州の先進企業も、すでに投資家に向けて循環経済に関する情報を発信している。
WCEFは欧州各国からの参加者が多いが、2018年から毎年参加している筆者の印象では、中国や東南アジア各国からの参加者も徐々に増えてきている。一方で、日本からの参加者は残念ながら少ない。金融セクターが循環経済へ目を向けるとなれば、海外からの投資を受ける日本企業にも影響はある。循環経済×ファイナンスの波は、まださざ波が立ち始めた段階ではあるが、たとえば、企業活動がグリーン(環境的に持続可能)か否かという投資判断の材料に、循環経済への移行に向けた取り組み度合いへのEUタクソノミーに基づいた評価も含まれるようになれば、投資家だけではなく企業も対応を求められる可能性がある。EUタクソノミーで循環経済についての基準が策定されるような大波になった際に日本企業が取り残されないよう、循環経済に関するファイナンスの動きにも目配りをする必要があるだろう。
- *1)WCEFonline
- *2)Financing the green transition: The European Green Deal Investment Plan and Just Transition Mechanism(14 January 2020)
- *3)EUタクソノミーでは、民間からの投融資をサステナブルな経済活動に向けるため、環境的に持続可能な活動の定義や基準値を定める。気候変動緩和・適応や循環経済への移行を含む6つの環境分野について、幅広い経済活動に対する基準を策定する。
関連情報
この執筆者はこちらも執筆しています
-
2020年1月
『みずほグローバルニュース』 Vol.105 (2019年10月発行)